021 そして、二人はもう1マス進む
告白の日から数日後。高校は期末テストを目前に控えて、それを超えれば夏休みという時期になった。
「カゲくん、すっかり髪色落ちゃったのよねー」
「そういえばそうだよね。染め直さないの?」
「たぶん、そうじゃないよ。きっと……彼女の好みに合わせてるんだって」
盛り上がるいつものメンツにそう言われた僕はとりあえず笑って返す。電車の事故でもないのに二人揃って遅刻したことは普段の行いもあってか先生からひどく怒られることはなかったが、先生は良くても僕と黒口の友達は気になってしまうことである。だから、黒口が隠さなくてもいいと言ったこともあって、僕と黒口はその原因というか、結果を彼らに伝えることになった。
それから今日まで主に僕の方がいじられているけど、別に嫌な感じはしない。いつものメンツも黒口の友達もそれは良い事として受け取ってくれた。もしかしたら僕や黒口が自分たちの世界に入っていただけで、傍から見ればそういう関係に近づいていたのはバレていたのだろうか。
そんな結果だけ振り返ると、黒口を一度フッた僕はたった3ヶ月でしっかり黒口のことを好きになってしまって、そのまま告白して付き合うことになった。それはあの日に告白を断わった僕からすると、結局は黒口の見た目や自分を好きと言ってくれたことを理由に付き合ったようにも見えてしまうかもしれない。
ただ、たった3ヶ月でも黒口の良いところをたくさん見て、中途半端なままの僕を見ても気持ちを変えず伝え続けてくれる黒口に僕は惚れてしまった。そして、そんな黒口の気持ちが変わってしまう前に僕も気持ちを伝えたくなった。もう少し時間がかかっても結果が変わらなかったのかもしれないけど、僕がそうしたいと思ったのだ。
それに黒口と付き合うことは決してゴールではない。以前に奏多が言ったように付き合った後でその関係が続くかはまだわからないし、友達から彼氏彼女の関係に変ったことで、今まで見えていなかったところも見えてくると思う。
それでも僕が現状を大きく動かしたのはさっき言った通り、僕がそうしたいと思ったからだ。僕が髪色を染め直さないのもその一つで、もちろん黒口の好みに合わせる意味もある。だけど、それ以上に着飾らない碓井景虎として高校生活を送っていきたいと思ったから敢えてそうしなかったのだ。だから、今の碓井景虎は振り出しに戻ったのではなく、一歩進んだと言える。
そんな風にこれからは見た目だけ変えるんじゃなくて、中身も伴って変わっていきたい……なんてカッコつけてみるけど、またいつ弱気になるかわからない。それでも今の僕は少しずつ進めるような気がしていた。
「景虎くん!」
そのために黒口のことも……と思っていたら黒口の様子が何だかおかしい。
「ど、どうしたの、黒口さん?」
「……今、他の女の子にデレデレしてませんでした?」
「えっ?」
頬を膨らませてそう言う黒口は可愛く見え……いや、惚気てる場合じゃない。黒口の目は結構マジな感じだ。
「一回彼女が出来たらそれで勢いづいて、女性関係にだらしなくなるって見たことあります!」
「いやいやいやいや! 全然デレデレなんてしてな――」
「そんな景虎くんは解釈違いです!」
「ご、誤解だって!」
そう、こんな風に見えなかった部分が見えてくるのだ。これについては本当に誤解だから後で全力の釈明をするけど……黒口は結構嫉妬深いのかもしれない。僕も黒口を解釈違いと思わないようにたくさん知っていかなけば。
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