015 未練は残さない 前
始業式での黒口との再会……いや、碓井景虎にとってはほとんど初めての出会いから3ヶ月。そんな短い期間のうちに俺と黒口との距離は良くも悪くも急激に近づいて、そのせいか俺の心もどんどんと変化していった。
それに伴うように陽キャになろうと色々固めてきた部分は元に戻っていったけど、それを黒口や奏多、いつも話してくれるみんなが悪く言うこともなく、むしろ受け入れてくれている。それは俺が望んでいたそのままの碓井景虎が存在して、知られている場所だと言える。
そうであるなら、俺はこの現状を大きく動かさずにこれからの高校3年間を過ごしたらいいのかもしれない。変に動いて現状を壊してしまったら、俺はまた元の碓井景虎に戻ってしまい兼ねないのだ。
だけど、そんな恵まれた現状から一つだけ。たった一つだけ変えてみたいことがあった。
「俺……黒口のこと好きかもしれない」
俺はとうとうその想いを口に出してしまった。中学3年間同じクラスで噂程度に聞いていた時よりもたった3ヶ月の間で見てきた黒口に俺は惹かれた。俺がそんなことを言う権利なんてないのに、そう言わずにはいられなかった。
「ふーん……いいんじゃない」
まぁ、そう言った相手は奏多なんだけど。ただ、放課後に珍しく俺から奏多を喫茶店に呼び出して、吐露してしまうくらいには俺の気持ちは抑えきれなくなっていた。奏多は完全に俺の味方じゃないのかもしれないが、こんなことを言えるのは奏多だけだ。
でも、奏多の反応は思った以上に簡素なものだった。
「いいんじゃないって……それだけ?」
「いや、むしろ今更って感じ。何なら始業式の時点で何かあったもんだと思ってたし、その後も仲良くしてるのはよーく拝ませて貰ってるから特に驚きはないかな。それで、いつ告白するの?」
「こここ、告白!? そ、そんな話はまだしてな――」
「じゃあ、何の話なんだ。言っておくけど、オレから見れば今の景虎はかもしれないじゃなくて、絶対好きになってると思ってるから」
「ど、どうして……?」
「そりゃあ、最近の景虎が黒口さんをずっと見てるからだよ……気付いてないの?」
そう言われてしまうと……恐らくそうなんだろう。黒口への気持ちが大きくなり始めてからいつも通りにしているつもりでも、傍から見ればわかりやすかったのだ。
「あとは、黒口さんは前面に好意的な気持ちを出してるから、景虎の気持ちが動かされても全然おかしくはない」
「それは……うん」
「そう思ってるなら、後は告白するか、されるかの話でしょ。まぁ、別に焦らなくても黒口さんから来てくれる可能性は高そうだけど」
「いや、それが黒口からってわけにはいかなくて……」
「えっ? どういうこと?」
奏多がよくわからないという顔をするので、俺はとうとう始業式の日の出来事を奏多に話した。他人に話すのはこれが初めてだったけど、俺の葛藤を知って貰うには言うしかなかった。それに今まで誰にも話せなかったから誰かに話しておきたい気持ちがあったのだ。
そして、それを聞いた奏多は……
「景虎……最低」
思いっきり引いていた。いや、これを話して慰められたり、擁護されたりすることはないだろうと考えていたけど、このレベルで引かれるとは思わなった。
「別に告白を断るのはいい。その時点では好きかどうかは人の自由だから。だけど、女の子が一世一代の告白をしたって言うのにその後も結局はなぁなぁの関係を続けて、それで好きになってきたら自分が告白するかどうかで迷ってるって……」
「奏多……十分効いた。反省する」
本当は告白を断った後に黒口から諦めませんと言われたけど、そうだとしても今現在の俺の状態は褒められたものではないだろう。だからこそ……俺はどうするべきか迷っている。
そんな俺の様子を読んだのか、奏多は少々呆れたように話し始める。
「……まぁ、それでも好きになったなら告白でも何でも気持ちは伝えなきゃいけないだろ。黒口が一度言っちゃったならもう景虎が言うしかない」
「そ、そうだな……」
「それでいつ告白するんだ? 明日?」
「ええっ!? さっきは焦らなくていいって言ってたのに……」
「それはお互いに告白してない時の話だ。一回断ってるなら事情が違ってくる」
「で、でも、そんなすぐに告白したら……それこそ軽薄だと思われそうだから、もう少し時間を……」
「……いいか。確かに黒口さんが景虎に向ける気持ちはちょっと待ったくらいじゃ変わらないかもしれない。でも、仮に黒口さんのことが好きな他の男子がいたとして、そいつがもの凄く情熱的にアピールしたら、黒口さんだってどうなるかわからないぞ」
確かに俺は今の黒口が向けてくれる好意に甘えているだけで、俺からは何も伝えていない。それで黒口のことを好きな人が現れたら、俺はそいつに勝てるのだろうか。
「前にも言ったかもしれないけど、黒口さんは普通に可愛い子だよ。モテてるかどうかは別として好きな人は絶対出てくる」
「それは……」
「それにもしも付き合えたとして、それが続くかは別の話だ。だったら告白して試してみるしかないだろ?」
最後の言葉は若干同意しかねるけど、奏多の言っていることは概ね正しいのだろう。俺もそういう発破をかけて貰える期待もあって話していたから正直に言ってくれるとありがたい。
「わかった。俺、黒口に……告白する」
「いつ?」
「今月ちゅ……いや、今週中には」
少し言いよどんでしまったが、俺の決意は固まった。このまま引きずっていても俺は黒口の想いを隠し切れないだろうし、それでまた不自然に接してしまったからこの前の繰り返しだ。例え、これで現状が変わってしまっても俺は後悔しない。
「ありがとう、奏多。俺は恋愛経験なんて全くないから助かった」
「いや、オレも別に恋愛経験ほとんどないし、彼女もできたことないけど」
「……は?」
当たり前のことのように言う奏多を見て、俺は一瞬固まってしまった。
「じゃあ、さっきまでの恋愛の伝道師みたいな数々の熱い発言は……?」
「半分は何かで聞いて、半分は想像。だから根拠とかはない」
「お、お前……」
「いいじゃない。解決したんだから」
奏多は他人事のように笑う。いや、実際に他人事ではあるし、解決したのも事実だから俺は何も言い返せない。でも、半分想像であると言われると……ちょっと不安になってきた。
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