黒口さんは薄口がお好き
ちゃんきぃ
黒口さんは薄口がお好き
001 名は体を表すというお話
名は体を表すという言葉を信じたことはあるだろうか。人や物の名前はそれが何たる性格や性質かを示すというやつ。いきなりそんなこと言われても良い例が思いかないからわからないと言われたおしまいだが、そんなことを言う僕はこの故事を信じているのだ。
僕の名前は
それはともかく……そう、僕の名前には字は違えど「薄い」と「影」が潜んでいる。だからって本人が影が薄いやつになるわけないだろ!と思うかもしれないが……残念ながら僕はなってしまった。
僕が意識してから中学を卒業するまでの間に「えっ? 碓井くんそこにいたの?」とか「碓井くんいるなら返事してよ」とか、とにかくその場に存在しないかのような扱いをされてきた。そう言われて自分で驚いちゃうくらいには言われた。無論、僕はずっとそこにいたし、返事もしていたはずなのに、気付かれなかったのだ。
この影の薄さが例えば伝説のシックスマンとしてバスケで活躍したり、学生生活の裏でアサシンとして暗躍したりできるほどの能力なら僕も喜んでいたが、現実にそんなことがあるわけがなく、ただただ僕の存在が薄く、忘れられ、認識されていないだけだった。
これが名前のせいでないと言うなら何だというのだ。いや、景虎って名前はかっこいいと思ってる。実際、虎って名前に付いているのはちょっとかっこいい感じがして、上杉謙信はゲームだと結構イケメンに描かれて……おっと、話が逸れてしまった。
つまるところ、僕が言いたいのはこの名前が僕の存在感を消す原因の一つになったと思っているのだ。
でも、キラキラネームではないから親が付けてくれた名前に文句は言えないし、婿入りでもしない限りは僕の苗字が変わることもない。
そこで僕は自分自身を大きく変えることにした。一つ謝罪しよう。僕という人間の影が薄いと思われるのは、僕が見た目に大した努力をしなかったことも原因の一つであると思う。ただ、言い訳させて貰うなら、今更中学のやつらに僕がイメチェンした姿を見せたところで、現状は変わっていなかったろう。だって、そもそも認識されてないんだもの。
だから、僕は高校進学という絶好のタイミングを待った。進学先を今いる場所から遠くして、1から……いや、ゼロから真・碓井景虎として高校デビューを果たせば、僕の影が薄かった人生は過去のものになる。
そして、今語るところの僕……違うな。俺こと真・碓井景虎は見事にその目標を達成し、髪は茶髪に染め上げ、いい感じの香料を吹きかけ、中学では決してやらなかった制服を着崩し、陽キャでモテモテな新しい人生がスタートする……はずだった。
「私は……前の碓井くんの方が良かったです!!!」
いや、ここまでした後にそりゃないよ、ほんと。
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