私は花になれなかった
私はあの時の美湖と変わらない。動くことも出来ず、拘束されている。私はなぜ生きているのだろうか、私はなぜ死ぬ事が出来ていないのだろうか。毎日変わらないこの生活。今日もいつもと変わらない。
私は折り紙を折るのが好きだった。紙と紙を合わせる。少しでもずれてはいけない。ずれるということは、自分で作品を殺したのと同じだ。折り目は必ず爪を使う。指で押したとしても何にもならない。結局は浮かび上がってきてしまうのだ。だから、爪を使って折り目に跡をつけていく。それの繰り返し。丁寧に、慎重に、折っていく。
私は思う。折り紙は全身を使う遊びだ。脳から始まり指の末端、足の末端まで。そしてまた脳に戻っていく。それの繰り返し。その間にはいくつもの細胞が関わっている。だから、私は生きていると感じる。
「かぁさま、かぁさま! 見てください。お花ができました。綺麗にできました! 」
「あらあら、ほんとね。可愛いわ」
かぁさまはいつも褒めてくれた。可愛いわ、と。
私は絵を描くのが好きだった。例え折り紙であっても、頭の中にあるものをそのまま表現するということはできない。形が決まっているからだ。それに対して絵はどうだろう。自分の思うように、ありのままを表現できる。細部の線一本を失敗しただけで、表現したいことが表現できないこともある。それくらい繊細なのだ。だからこそ、ありのままを表現できる。
私は薄紫色のお花を描くことが好きだった。部屋一面に、お花を描いた。一心不乱に、気の済むまで、永遠に。
私は花になれなかった。
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