地質学戦争(まつまえ!鉱物の盛り改題)

水原麻以

まつまえ!鉱物の盛り

「何だこれは?」

その日の早朝。松前駅前広場に集まった人々は困惑していた。道路が大きく隆起しており駅改札を塞いでいる。

このままでは電車に乗れない。「通勤できないじゃん」「学校に遅れちゃう」

サラリーマンや女子学生がパニック状態にある。迂回すればいいじゃんと思うが、盛り上がった部分からシュウシュウと蒸気が立ち上っている。それどころか地鳴りや玉子が腐ったような臭いがする。

「こ、これは火山じゃないのか?」

誰かが叫んだ。その時、大噴火が起こった。

これが本当の松前鉱物の盛りである…。


と思うが、周囲の人々にも衝撃を与えた。「何を考えているんだ!」

その中の一人が大声で言った。「そうじゃない。そうじゃないんだ。その火山はこっちだ」

その声は周囲を響かせた。

駅長室では、多くの人が仕事に追われていた。松前鉱山の従業員や町の人はもちろん、地元の人、さらに松前に来た人でさらに大混乱だった。床に大穴が開いていてサーチライトやリフトが既に整備されている。ヘルメットを被った関係者が出入りしていた。

その事態を収拾できなかったので、俺は現場の様子を見守ることにしている。

その中で、男と女性が話を始めた。彼女たちが俺の隣に並ぶと、二人は俺に向かって言った。

「うちの会社がこの騒ぎを収拾させてほしい。ただの火山ではない。俺たちだけでは無理だ。何とかしてくれ!」

そして、俺は二人に聞いた。「本社が出しゃばるからこうなる。自業自得だ。だいたい東京の人間に何がわかる」

すると肩書に殴り返された。【SG】だ。通商産業省産業安全課セキュリティグループ。昔は原子力安全保安院と言われていた。鉱山災害の事故原因や対策を担当する役所から出向してきている。いわばお目付け役だ。法的に協力する義務がある。

「何も子供みたいに一から十まで世話しろと言ってんじゃない。現場の情報が欲しい。あとは政府のリソースを総動員する。国難だからな」

拒んだり故意に妨害すると罰則規定がある。仕方ない。

彼女たちの言い分は、松前火山の正体がわからないため、どうやって解決しようかと言うことだった。

その結果、この建物が火山の洞窟なのでは? という風に説明しようと決めたのだ。

そして二人に話を聞かせると、彼女たちは納得したようだった。

その後、俺はSGから来た二人の男と話す機会があった。

二人の男は言った。「俺たちだけでは無理なんだ。何とかしてやって欲しい。もし、これが何か思い当たる節があるのなら協力する」

男の顔は真剣だった。

そして一人の女性が言ったのがこんな内容で。「私も力になれると思います」

女性が言う。「彼女こそが今の現状を打破する鍵(キー)になります」

そう言うとこの建物の奥へと行ってしまった。

その女性が言った。「私たちも何とかしなきゃ」

そうして二人が奥から戻ってきた。俺はしぶしぶ、彼女たちと一緒に中へ入っていった。

洞窟の中に入ると、そこは巨大な火山だった。耐熱テントを送風機が膨らませている。

そして、ベースキャンプの周囲には人の気配がある。既に耐火服を纏ったチームが機器を設置している。

俺は松前の人間が火山の近くにいるのを確認すると、そこを探索することにした。

俺は彼の姿をじっと見つめると、「あれは何だ」とつぶやいて、そこへ行ってみた。

「…………来るな」

ふと目の端に映ったのは、さっき来た人物。「何で来ない」、と言っている人である。

何と言えばいいか見えたので、俺は、

「俺に力を貸せ」

と言った。彼は驚いた様子だった。「何を言っているんだ」、といった様子だ。

俺は彼の様子を確認し終わり、

「何のためにここへ来たのか」

と続けた。すると彼は、

「分からない。けど、あいつのことは信用できる」

という意味の言葉を返してきた。

俺はまた彼に向けて問いかける。

「鍵とか言ったな。あの女は何者なんだ?」

「センシンドー…」

よく聞き取れない。

「●天堂?」

「バカ。先進導坑掘削のスペシャリストだ。青函トンネルのノウハウを継承してる」

なるほど。松前町には国鉄時代に一大作業基地があった本坑を掘る前に先進導坑という試掘をする。軟弱地盤や断層は実際に掘ってみないとわからない。そのまま出口まで無事に貫くことが出来れば本工事にかかる。その専門家なら危険で想定外に対処できる。


「なら、お前らがその鍵(キー)を開けて答えを探して行けってことだな」

「そうなんだが……」

彼はおおよそ彼らしい行動をした。鍵を握ると称した女を伴って先を急ぐ。坑道というより地底世界というべき光景が広がっている。ひさしのような天井を仰ぎ見つつつづら折りの階段を下へ下へと向かう。十階を数えたところで歩くことに集中した。降りては曲がりを繰り返して足が棒になった。案内役の二人はへたり込んだ俺を平然と眺めている。火山――ともいうべき現象は富士山のようなコニーデ型で頂上が袖のよにシュッとしている。「あれは本物なのか? そして地盤はどうなっている」

俺は不安が募る。こんな巨大空洞など前代未聞だし、地下の火山なんて常軌を逸している。だいいち、松前の町はどうなる。崩落が心配だ。

その時だった。どこかでインターホンが鳴った。見回せば赤茶けた大地に鉄パイプを組み合わせた手すり。そしてそびえたつ火山。喀痰みたいな空。人工物はない。

ふたたび呼び鈴が鳴った。「倉田さん。何をぐずぐずしているんですか」

男女が俺をうながす。キョロキョロしていると男がウンザリした顔でフリップ芸を始めた。というか、二人は丸腰に近いスタイルだ。どこからそんな物を取り出した。

「ここですよ。しっかりしてください」

女が俺に手を添える。いつのまにかフリップボードがあった。それは15インチほどの大きさで厚みはほぼゼロだ。そしてつかみどころがない。表面には俺の本名と意味不明の羅列があった。

「な、何なんだこれは。お前が持ってきたのか」

俺は女を見やった。鞄らしき装備はない。それに服装も変だ。ブルーの作業用ジャケットに膝上スカート、ソックスにスニーカー。素足で来る場所ではない。ボードは最新型の折り畳み式ディスプレイなのだろうか。

「なんだ。知らないんですか。ステータスウィンドウですよ」

訝しげにされても困る。「それはスカートのポケットから出したのか」

俺は彼女の腰を見やった。キャッと悲鳴をあげかぶりを振る。

「違いますよ。倉田さん。本当に何も知らないんですか」

男が自分のステータスウインドウを運んできた。

「各自に一枚ずつあります。これは貴方の運命です」


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