魔法使いは呪われたまま、みゃあと鳴く

本葉かのこ

プロローグ

『しょせん、獣だ……』


 どんなに着飾ろうとも、高貴な言葉を並べようとも。

 首なき魔王は天を仰いで哄笑する。


『お前たちは、獣なのだ!』


 魔力で空気を震わせるその声は、激しい憤りに満ちている。

 千騎を屠り血で染まった黒衣を翻し、魔王は片手をあげた。


『獣ならば獣らしく、ああっ、それも無力で、泣きわめくしかない猫にでもなるがいい!』


 それは呪いであった。

 瞬く間に、駆け寄る者たちの姿を変質させ、誰もが逆らう意思を失う。


 みゃあみゃあみゃあ、と。


 戸惑い嘆き悲しむ声は、意味をなさぬ鳴き声で、なんとも滑稽だった。

 その中で、一匹の灰色の猫が、怒りに震えて咆哮する。

 もしも、この状況を好転させられるとしたら、その一匹だけであった。


 唯一の良心であり、

 呪いをとく、唯一の鍵。


 しかしその後、灰色猫はこの魔法の国から放り出される。


 そうして、この喜劇じみた悲劇の物語はしばし眠りにつく。舞台は転じて、現代日本へと。


 ある雨の日、人間でいることをやめたい少年と出会う日まで。

 呪われた魔法使いの物語は、眠る。

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