第2話 大魔王降臨

 この国には建国祭の日に【灯籠流し】というイベントがある。


 多くの犠牲の上にある国を支えた国民の魂を慰める為の行事。


 その日は、飲食店や雑貨・日用品以外の店は休まなくてはならない。


 勿論、学校も仕事も休み。


 医療関係や神殿は大忙しの一大イベントの日に彼らは不実な行為をしていた。


 【禁欲・禁酒・禁煙】の三大禁忌を犯した事になる。


 これを犯した者は、平民・貴族・王族関係なく厳重な処罰が降りる。


 誰でも知っているこの禁忌を破ったのは、私の婚約者、ハイネル・ルパートソン侯爵子息と幼馴染みのアリアナ・ロドニー伯爵令嬢


 その日は、家に慰霊の為の香を炊き、身を清め、神殿や家の礼拝堂に参り、聖水を朝に飲む。勿論食事も野菜か果物のみ。肉はもってのほかで、唯一のたんぱく質は魚だけ。


 厳重な戒律の聖職者の如く振る舞わなければならない日に、彼らの浮気は発覚した。


 しかも、私だけではなく一緒に来ていた私の家族に見られていた。


 あの日、私の涙を拭ったのは義兄アーネスト。


 その義兄は今、正に大魔王の様な顔で私を睨んでいる。


 「あ、あのそんな怖い顔で睨まないで下さい。お義兄様」


 「別にお前に怒っている訳じゃあないんだ。あの糞野郎をどうしてやろうかと考えているだけだから、気にするな」


 気にするなと言われても、既に部屋は義兄が放った殺気で使用人らが数人倒れた。


 その異様な有り様に


 「ど、どうしたの。これは」


 「な、何があったんだ。何処かの襲撃か」


 等と父母が検討違いな心配をしている。


 「アーネスト、マリアベーテル何があった。何の騒ぎだ」


 「義父上もご覧になったでしょう。あの蟻の様な虫けらが公爵令嬢の矜持を傷つけた。赦す事は出来ない」


 ここだけ聞いていると、私は義兄に愛されている様に聞こえるが


 ーーーこいつを泣かすのは俺様だけ


 という考えの持ち主だから、誤解のしようもない。


 既に昔からそういう類いの事は見てきた。


 あれは10才の誕生日会


 仲良くなったどこぞの伯爵子息と手を繋いでしまったというより、私がうっかり池にダイブしそうになった所を手を掴んだだけだが、義兄は直ぐ様、何処からかやって来た。


 そして、かれを凍らして、私を水で洗った。ドレスは水を吸ってたちまち重い鉛の様になって、私が身動きが取れなくなっていると今度は『消毒』と言って、手の皮が擦りむけそうな程擦った。


 とても痛かった。今思い出しても殺すつもりにしか思えない。


 両親は単純に


 「愛されているのね」


 「将来はアーネストと結婚して公爵家を継げばいいよ」


 と言っているが、私はそんなのごめん被りたい。


 初対面で彼は私にこう言った


 「出来損ないの公爵令嬢」


 今でもハッキリと覚えている。


 だからなるべく関わりたくないし、近寄りたくもない。


 何をされるかわからない。


 耳や手を噛まれた事もある。


 あの麗しい顔の口からは、私を蔑む言葉しか聞いた事がない。


 私の中でこの世で一番恐ろしくて、嫌いな悪魔の様な男


 それがアーネスト・クラウディアその人なのだから


 この男から逃げ出したくて婚約したのに…


 最悪な事態に陥ってしまった

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