すまじきみやづかえ

@giroppon

第1話 失職

「ということで、ここは閉店します。」

 

またこの人ハゲてきたなと思いながら店長の言葉を聞いていると 

そんな言葉がきこえてきた。


「いや アマゾネスだっけね。 ネット通販だよ通販、スーパーも厳しくてね。 

一応希望するなら他店へ移動もできるけど」 


アマゾネスではなかったような気がするが、どうやらこのスーパーは 

閉店するらしい。

何となく普通科の高校を出て、目的も無く幾つか職を転々としてきたが、この店は それなりに気に入っていた。

 

「承知しました。 検討します。」

 

とりあえず今はバックヤードから売り場に戻る。 


仕事を夜のバイトに引き継いで、帰路につく。 

貯金はどのくらいあっただろうか。

店長の言っていた他店は、電車で片道1時間半はかかることが分かった。 

駅まで行く時間もかかる。 

そもそも俺は満員電車が嫌いだ。痴漢に間違われたらどうする。 

実際に触れたのであればプラマイ0だが、触れていないのに捕まるなんて 

冗談じゃない。 

ならば転職か。人手不足といえば、運輸、介護、看護あたりだろうか。 

免許はあるが、トラックなんて運転できる気がしない。バイクは何となく怖い。

老人は嫌いだ。 

キレイな人の看護は受けたいが、人の看護は難しそうだ。資格もない。 

いっそ難関資格でも取得するか。しかし俺は頭が悪い。 

芸能界とかはどうだろう。それとも小説でも書くか。YouTuberはパソコンがあればなれるだろうか。俺にはまだ気付かれていない無限の可能性があるかもしれない。

  

バカなことを考えているうちに家につく。ぼろいアパートだ。部屋には誰もいない。 

思えば自分も若くはなくなっていた。大学にいったやつはとっくに就職しているし、 

結婚してこどもがいるやつもいる。 

冷静に考えて、今の俺は色々とヤバい気がしてきた。このまま死ぬのか。  

が、そんなことは考えた所でどうしようもない。今日は酒でも飲もう。 


眠れないのでネットの求人サイトを眺める。 

働きやすい職場とはいうが、そんな職場はそもそもネットで求人を出すのか。

営業とは何をするのだろうか。俺はあまりスーツを持っていない。 

つまんねえなと思い始めた頃、一つの求人が目に留まった。 

なんと役所の求人だ。天下の公務員様である。採用試験を受ける必要があるようだが学歴、経験不問である。職場も自転車で通える。 

これはいい と思って応募フォームに飛んで入力する。 何度がミスったが 

無事完了だ。

何だか一仕事おわらせた気分になったので、気持ちよく寝床につく。 

 


なんやかんやあって、採用試験を受けることとなった。合わせて面接があるので役所に向かう。一応スーツを着てネクタイを締める。 

途中で働いていた元スーパーがみえる。本当に閉店したようだ。 

取り壊すのだろうか。 

役所についた。ここに来るのも久しぶりだ。とりあえずトイレにでも行こうと思ってウロウロしていると、声を掛けられた。 


「採用試験の受験者の方ですか。」


 

こっちの耳が良くなりそうな、美しい声だった。 

 



 


 



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