料理とファンタジー舐めんな現代人
閻魔大王が絶望し、そこそこ日にちが経った。
閻魔の補佐官は十王の1番目である
「どうだ、その後の閻魔は?」
「一劉を何がなんでも立派に育て上げると熱心になっていますよ」
「そうか……思想や理念を押し付ける形を取らなければ良いのだが」
かつて混沌としていた黄泉の国を統率して文字通りの地獄を作り上げた閻魔大王。
その実態は人の事を思いやれる立派な人であり、一劉の一件も思い返せば現代の日本の非常さから生まれた悲劇だ。
子育てに熱心なのは良いけども、自分の思想や理念を押し付けた洗脳教育の様な物をしないかと秦広王は少しだけ心配をする。
「教育って、そんなもんじゃないですか」
そんな秦広王に閻魔の補佐官は呆れる。
一般教養はともかくとして、人としてのモラルや道徳を教える時に説くのに己の理念や思想を用いる。人は人になにかを教える時、その時に人は自身の価値観を押し付けるところがある。
否定しようにもあまり否定できる要素が無いので、秦広王は渋い顔をする。
「相変わらず、お前はその辺はドライだな」
「なんとでも言ってください……あ、コレにサインをお願いします」
コレぐらいでなければ閻魔大王の補佐官は勤まらない。
補佐官は必要な書類に秦広王のサインを貰う。
「我輩が思うに、今の世の中が混沌となったのはバブルが原因だと思う」
「バブルですか」
「そうだ。あの時代の生き残り達が残っているから日本の情勢が混沌としている。不景気が続いて先の見えない時代、価格を抑えたいのが製造者、消費者互いに思っているが消費者はその上で高品質を求めてしまう。安い、早い、旨いの3拍子を揃った牛丼がある意味、それを示している」
「吉■家の牛丼販売しなくなりましたけどね」
※この頃は2000年ちょっと過ぎた頃であり、牛丼が売られなくなった頃の事である。
「企業による価格破壊が家計の経済を圧迫する原因になり、それが他の業界にも悪循環を及ぼしているのかもしれん」
「……まぁ、末端が安くコキ使われるでしょうね」
仕入値を極力安くする。販売額を安くする。
そうすれば最終的に得る利益は少なくなるのは当然の事であり、組織の末端の給料が安くなる。そしてその安い給料のせいで夢を見るのも上に行こうとも思えない。世界って本当に悪循環で回っている。
「それをどうにかしたいのなら現世に関与するしか手立てはありませんよ」
「それは……」
今の社会を文字通りひっくり返さなければなにも始まらない。
補佐官は現世への関与を推奨するのだがその事について秦広王は賛同する事は出来ない。
「もうそういう時代ではない。人の時代だ」
神々の時代は当の昔に終わった。
人類と言う種は自分達の力で一歩ずつ一歩ずつ歩いていっている。神話に語られる様な事をもう一度、起こしてしまえばそれこそ神が下等な存在へと堕ちていってしまう。
「神と人が共存する事が出来れば、平和な世界が作られますよ」
「そんな事が出来るのなら神話でしょうもない事をしておらん」
一癖も二癖も強く、権力を持ったとんでもない奴等、それが神様だ。
秦広王は元々人間であった者だから良く分かる。最初から神様だった奴等とか海外の神様とか結構イカれていると。
まぁ、それを言えば宗教を心の拠り所にしていない無信教な癖にクリスマスだこどもの日だなんだやり、最近だとハロウィンを取り入れようとしている日本人も海外から見ればイカれている。
「じゃあ、どうしろって言うんですか?」
「そうだな……」
補佐官とて危険な考えは持ってはいるものの、世界を混沌としたいわけではない。
自分なりに考えた結果であり、その考えを否定するぐらいならば他にいい案を出せと詰め寄ると髭を擦る秦広王。
「チャンスがあれば、良いのではないのか?」
「チャンス、ですか……まぁ、確かにそうですね」
「現世の視察、ただいま戻りましたぁ!!」
決して今の世の中が全て悪いとは言えないのを知っていると考え込んでいると秦広王の補佐官、
「って、お邪魔でしたか?」
「いえいえ、必要なサインは既に頂いています」
大事な話をしてました空気を察してまずいといった顔をする紫煙。
補佐官は大丈夫ですと手を振って気にしていない素振りを見せたのでホッと一息すると、補佐官に紙袋を渡す。
「現世のお土産です!」
秦広王の補佐官の紫煙はつい先ほどまで現世に出張していた。
出張と言っても現世でなにか特別な仕事をしているのでなく、現世にぶらりと出向いて今はなにが流行りでどういう情勢なのかとかを見たりしていた。所謂、遊びが仕事である。
「何時もながらありがとうございます……ほぅ、これはこれは」
紙袋の中身を見て、ウンウンと頷く補佐官。
秦広王も紙袋の中を確認するとまたかと言わんばかりの顔をし、大きな溜め息を吐いた。
「たまにはこう、食べ物的な物は無いのか?」
「そういうのよりもこういうのの方が断然、良いですよ!世界に誇れる日本の娯楽ですよ!」
紙袋の中には沢山の漫画、ライトノベル、同人誌、所謂オタッキーな物ばかりだった。
何時も土産がこういう感じの物なので若干ながら飽き飽きしている。しかし、こういうのを土産に出来ると言う事は良いことである。
「本当にいい時代になりましたよね」
贅沢は敵であり西洋は敵で天皇陛下万歳だった昭和初期頃。
現代にありふれている漫画はバカな仕事等と下等に見られていたが、今では立派な仕事である。思想や考え方の制限や強制をされていた時代を見ていた補佐官は常々、いい時代になったものだと頷く。
トキワ荘の住人達が頑張らなければ今のジャパニメーションや特撮等の文明は衰退していた。本当にトキワ荘の皆様様々である。
漫画やゲーム等の衣食住に深く関わらない物が売れて認められる世の中は本当に良い世の中だ。江戸末期から昭和中期まで色々とあったものの、とにかく娯楽に関しては先進国の中でも進んでいる方である。
「そういえば、なにをお話ししていたのです?」
話は戻り、先程まで気ムズしそうな顔をしていた事について訪ねる紫煙。
聞く必要が無い話ではないと閻魔の補佐官は例の一劉と今後について話し合っていたと言う。
「一劉ですか……あの子には罪がありませんが、あの子だけと言うのは確かに問題ですね」
「そうなんですよね。閻魔大王もその辺は理解しているんですけど、そこをどうにかする術が浮かんでないんですよね」
一劉自身が悪いわけはない、むしろあの子は被害者だ。
だが、一劉という特例を作り上げれば他にも沢山いる救われない子供達が可哀想になり不公平になる。人を裁く人間として不公平は出来ない。出来る限りの平等で公平にならない。
「秦広王はチャンスを与えれば良いとの意見がありましたが」
「チャンスって、なんのチャンスなんですか?」
「むっ……難しいな」
チャンスを与えてやれば良いとの意見は間違いではないが、それはなにか?となる3人。
良い学校に受験するチャンスか?プロ野球選手を多く排出する高校に入るチャンスか?一等地で飲食店を出すチャンスか?
「そもそもで生まれる所を選べない時点でチャンスも糞もありませんよ」
地域格差社会をどうにかすることが出来ないので利用するしかない。
パラリと補佐官は紫煙が買ってきた漫画を見るが、物語の舞台が大体東京だったりする。東京ならば東京生まれならば、東京育ちなら、良いことがある可能性がチャンスがある……かもしれない。
現代には生きているが現世に生きていないが為にそういった偏見を持っているが、間違いとは言いきれない。
「そもそもでチャンスって生まれるんじゃなくて、自分で作り出したりするものでは?」
「
大手の牛丼チェーンしかりファミレスしかりハンバーガーショップしかりレンタルDVDしかり、何かしらの優れた発明やシステムは真似されやすい。数年後には当たり前と思われるのが今の時代である。
実際のところ、何処かの企業に就職するんじゃなくて独立して生きてやるというフリーな存在が年々増えていっている。普通に良い学校に入って大手の企業に就職するのでなく、大手の芸能事務所に所属して下積み生活を送るわけでもなく、ゲーム等の実況や自分が考えた面白い企画等をしたりして生計を立てる人達が一気に増加するのだが、それはそれで別の話である。
「今の時代は平和ですから、一山当てるって結構難しいですよ」
猿と言われた3日殿下な武将を頭に浮かべる紫煙。
成り上がろうにも既にあの手この手を尽くされている現代、動乱の世の中の様に上手く成り上がるのは難しい。
「平和な時代も考え物ですね」
平和な時代が生んだ悲劇を平和な時代でどうにかしようとしているのが、ある意味どうにかしている。
とはいえ、秦広王が言っていたチャンスを与えるというのは悪くはない。チャンスをダメにしてしまうのはそいつが悪い。きっかけさえあれば人は割とどうにでもなるのを1000年以上前から知っている。
「あ、いっそのことタイムスリップさせるなんてどうでしょうか!江戸時代で洋食とかをさも自分が作り上げた感で出せば無双出来ますよ!」
「いやいや、あの時代で食肉文化はギリありますけど食肉の養殖はしてないから難しいですし一部の野菜がありませんよ」
チャンスが無いなら、チャンスがある場所に行けば良い。
江戸とか戦国時代に現代の知識や文明を持ち込んでヒャッハーしようと提案するが、そんなに甘くはない。
「第一、米を炊飯器ではなくお釜で炊く時代ですよ……無理だろう」
そう、忘れてはいけない。
最近はオール電化だ太陽光発電だなんだというが、100年以上前にタイムスリップしてみれば最後電化製品というものが殆ど無い。それはあまりにも致命的である。
例え料理上手な人でも|川■シェフだろうとも■みちだろうと炊飯器でなくお釜で米を炊くのが当たり前な時代では料理はしづらい。オーブンとか温度調整が効かないのは本当にやりづらい。
「大体、時を遡って都合の良い歴史を作り上げるならば最初からこんな事にはなっていません」
もっと自分達にとって都合の良い歴史を作り上げてきた。
戻ることが良くない事で結果を変えることは悪いとは言わないが、結果は受け入れなければならない。例えそれが悲劇であろうとも。どんだけ残酷であろうとも受け入れてきたからこその今があるから。
「いっそのこと、漫画みたいな出来事が起きてくれたら良いんですけどね」
一般社会からの非日常が描かれる漫画、ライトノベル、同人誌。
現実は漫画よりも非情で日常は現実の方が厳しかったり厳しくなかったりで退屈だったりする。
漫画みたいな事が起こらないのが現実であるが、補佐官はポンっと手を叩いた。
「それ、ありですね」
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そんなこんなで場面はちょこっと未来。
全然似合わないエプロン姿の閻魔の補佐官は包丁を持ちながら転生者養成所で訓練をしている生徒達に真剣な顔で当時について語っていた。
「やはりなんと言っても食と言うのはバカに出来ません。今でこそ近所のスーパーに行けば胡椒を簡単に買えますが、所謂大航海時代は胡椒のグラム=金のグラムなんてレートも普通にありました。まぁ、つまりなにが言いたいかって言えば今から皆さんには料理をしてもらいます」
そこは殺し合いじゃないの?
転生者養成所にいる転生者候補の生徒達は既に死人であり、漫画みたいなデスゲームを仕掛けても意味は無い。
そんな事よりも料理だと転生者候補生一人一人に今回作る料理のレシピと材料を配っていく。
「この時にも話題が出ましたが、転生先に家電製品があると思ってはいけません」
一部のファンタジーな世界では魔法の道具が家電製品みたいな物になっていたりする。
しかしそれ以外のファンタジーな世界ではそういう感じの道具は無い。某鬼狩り漫画の舞台となっている大正時代でさえガス、水道、電気の全ては揃っていないし、そもそもで冷蔵庫とか無い。火打ち石的なので火を着けなければならない。
「やはり、このご時世男だろうが女だろうが必要最低限の家事は出来なければなりません。カップラーメンやインスタントは悪いとは言いませんが、ぶっちゃけた話、飽きてきます。本格的な料理はともかくとしてハンバーグやカレー、鯖味噌といった料理ぐらいは作れるようにはなってもらいます……あ、電化製品一切ありませんし顆粒だしとかありませんから!」
顔が無い死装束ののっぺらぼうである転生者候補の中には料理が出来る者もいる。
学校の授業で家庭科の調理実習が普通にある世代の子達なので本当に必要最低限の料理が出来ない方がおかしかったりする……しかし、メイドインジャパンと呼ぶに相応しい転生者になるには必要最低限の料理だけではダメなのである。
具体的に言えば顆粒だしや既に配合されているカレー粉とかのスパイスとか頼らない電化製品にも頼らない状態で料理が出来なければならない。
「貴方達の中で家庭の事情とか好きで料理をしていて得意な人がいるでしょう……だが、それは家電製品があるからです!現代日本が物語の舞台ならばいいがゼ■の使い魔とかだったらそんな物は無い!食の文化は如何に国が土地が豊かで優れているかの証明だ!貴方達には今から文字通り一からやってもらいます」
ガスコンロからIHまで現代に焼いたり炒めたりする為の調理器具は色々とあるけれども薪で火力調整してるのは本格的なピザぐらい。
過去や異世界にいけばなにが辛いか、電化製品無しで料理を作らなければならない……文明の利器って恐ろしいのである。
「真に料理上手を名乗りたいのならば、今此処でカレー粉を自力で作ってください。カカオからチョコレートを作ってください」
しかし言っていることに間違いは無い。ガスや水道等のライフラインがしっかりしている世界に確実に転生する事が出来るとは限らないのだから。
「この文字通り何時の時代なんだよと言うべきか調理器具のみを使ってカレーライスを作ってみてください!!」
某学生アイドルアニメのようなガールズラブ以外はファンタジー要素は無さそうな地球が舞台の作品でもワールドト■ガーやゼ○の使い魔の様に地球はあるけどもそれとは異なる異世界があるファンタジーな世界でもポ○ットモ■スターの様にもう完全に地球とは別な世界でもどんな世界に転生しても問題なく生きれる様にならなければならない。それが転生者になるという意味なのだから。
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