異世界転生のすゝめ、異世界転生舐めんじゃねえぞ

アルピ交通事務局

プロローグ 地獄のはじまりはじまり

それはそれは地獄であった

 人は死ぬと何処に行くか?


 その質問に対して様々な答えがある。


 国によって天国、地獄、あの世、極楽浄土、桃源郷、冥界と様々な死後の世界がある。では、日本人にとっての死後の世界とはなにか?死んだら何処に行くか?その答えは簡単である。黄泉の国、地獄だ。

 日本人は死後、黄泉比良坂よみひらさかから三途の川さんずのかわを渡り地獄に向かって閻魔大王えんまだいおうをはじめとする十王の裁判を受けて天国行きか地獄行きかを決められる。日本の地獄は自慢の地獄であり罪に合わせておもてなし(死罪)してくれる。


「う~む」


 時は現代200X年。

 ノストラダムスの大予言や二十世紀問題やらが解決してゆとり教育が何だかんだとしている時代。

 日本の地獄にある閻魔大王が自身が裁判を取り仕切る閻魔邸で頭を悩ませた。悩みの原因は人間の様々な善悪の行い等が書かれている閻魔帳とにらめっこをしていた。


「閻魔ちゃん、なにそんな難しい顔をして。普段から怒ってる顔っぽいのに、え、なに、怖い」


 そんな閻魔大王に引いている仏。

 この仏は閻魔大王と対になる存在である地蔵菩薩じぞうぼさつであり、閻魔大王が間食にと買っておいた落花生をパキっと割って中身を食べる。


「今は、21世紀なのだよな?」


「ん~そういうのは現代人とか時の権力者が決めることであって仏達にはよく分かんないよ。神話の時代からの住人とか普通に居るし」


「そういう感じで聞いているのではない。というか、それ吾が輩の落花生だから食うな」


「んだよ、ケチクセーな。落花生ぐらい譲ってくれたっていいだろう!!」


「貴様、本当に仏なのか……」


 仏はこんな感じだけどもやる時はやる。顔はめっちゃ大きいけど。

 落花生が入っている袋を閻魔大王は仏から取り返すと先程の質問の意味について語り出す。


「吾が輩達が黄泉の国に地獄の制度を作ってくれて幾数千年、日本は潤った」


「ん~まぁ、借金まみれだけどね」


「茶化すな。昔と比べて誰でも文字が読めるし誰でも難しい計算が出来るようになり、学校を通うことが当たり前どころか義務化されてスポーツという娯楽が富豪になれる仕事となった……」


 閻魔大王は疑問に思った。

 約100年程前にスペイン風邪と呼ばれるヤベー病気が流行った。それよりも前にコロリや肺炎等のヤベー病気が流行った。それでも国は滅びることなく乗っ取られる事なく、何だかんだと生きている。

 病気になればまともな薬も無く、臓器が病に犯されれば死ぬのを待つだけだった時代と比べることすらおこがましい程に日本という国は潤い育った。誰でも学校に通える国になり、農民は一生農民で終わらない世の中に変わった。


「なのに、何故こうも若い世代は死ぬ?」


 だからこそ、理解することが閻魔大王には出来なかった。若い世代が沢山死ぬのを。


「交通事故や他殺は理解できる。だが、それ以外が納得は出来ない」


 文明の発達により生まれた乗り物による事故死、些細なきっかけで生まれる殺意から始まる殺人。

 長年人の善と悪を秤に掛けて裁判をしている閻魔大王はその2つによる死は理解できたが、それ以外の若い世代の死が理解することが出来なかった。


「飽食の国とまで言われておるのに、何故飢死する?」


 若い世代の自殺や飢死にといったものがまだ残っていた。

 そりゃ1度、米相場が荒れて大変な事になり海外の米と日本の米を比べたら不味いとかの問題が起きて、最終的にコシヒカリが良い感じになった。この国は現代の日本は海外との貿易が盛んになっている。美味いものは入ってくるし、美味いものを作る技術も道具も知識もそこかしこに揃っている。それでも自殺等が減らないどころか、むしろ年々増えていっている事に理解が追い付かなかった。


「まぁーそりゃ時代が時代だからね」


「よき時代ではないか!」


 時代が時代だから仕方無いと片付ける地蔵菩薩とそれが納得をすることが出来ない閻魔大王。


「あのね、閻魔くん。確かにさ、昔と比べて食えるものが増えたよ。今こうしてポテトチップスが食えるのも海外との貿易が盛んになったり北海道を開拓したりしたお陰だよ」


 理解に苦しむ閻魔大王に仏はコ■トコサイズのコンソメ味のポテチを開けて、説明を始める。


「でも、その反面色々といけないことも沢山起きたよ。目に見えないだけで、あんまり感じないだけでさ……仏と閻魔との関係と同じで切っても切れない縁だよ」


 地蔵菩薩と閻魔大王は対となる存在だ。

 閻魔が罪を裁き、地蔵が救済をするという関係性であり、その関係性と似ているんだと主張をする。


「光があれば必ず影があるんだよ。イギリスの産業革命が良い例だよ」


「だが、その産業革命が起きてから約100年が過ぎておる。それに此処は日本だ!」


「物の例えだよ、物の例え!!大声出さなくてもいいだろう!!」


 お前の方が声がでかいわ!

 そう叫ぼうとする閻魔大王だが叫んだら負けと感じ、叫ばずにグッと堪えてみせる。


「光と影が切り離せないのは理解しているが、もう少しなんとかならんのか?」


「いや~無理無理。現世にああだこうだ手を出せる時代じゃないしさ、これ見てみなって」


「む?おニャン子クラブのポスター」


「ちげえよ。何時まで昭和の脳みそなんだあんたは」


 地蔵もとい仏が閻魔に渡したのは現世のアイドルのライブの告知のポスターだ。

 現世のサブカルチャー面に疎いというか遅れている閻魔はポスターがあるということはそれなりに売れているんだろうなと納得をしていると今度はバンドグループのイベントのポスターを渡してくる。


「これとこれと、後、これもな」


「どれもこれもポスターではないか!」


 予告のポスターをこれでもかと渡してくる仏。

 中には閻魔大王でも知っている有名な歌手のもあるのだが、玉石混淆とも言わんばかりに仏は渡してくる。


「よく、それを見てみなって」


「なにを見ろというんだ」


 年齢か?所属会社か?性別か?世代か?

 なにを見れば良いのか分からないまま言われるがままに目を通す閻魔大王。人の罪を裁く仕事しているだけあり、パラパラと流しながら見るだけでポスターの内容が入ってくる。


「……なぁ、仏」


「うん、なんか分かった?」


「東京と大阪と名古屋と福岡ばっかだな」


「うん、そうだよ」


 仏が渡したライブ等のイベントの開催地が決まって東京、大阪、名古屋、福岡という法則性があった。

 中には神戸や横浜でも開催されるイベントはあったのだが基本的にはこの4つの都市でしか開催されていない。


「閻魔ちゃん、覚えておけ。これが地域格差だ」


 外国人に日本の街を聞いてみました。



 A 東京と大阪以外はなにが何処にあるか全く分かりません。



 昔よりも世界全体が潤いに満ちたかもしれないだけであり、実際はそこまで地域格差は埋まっていない。

 何かのイベントがあれば取りあえず、東京、大阪、名古屋、福岡という4つの都市で開催される。サブで京都、横浜、神戸、沖縄、北海道である。


「生まれる土地が変われば、そいつが生まれてこなかった事だって普通にありえるんだぜ」


「吾が輩達がたらればの話をしてどうする?」


 受け止めるべきはこの現実である。

 とはいえ、コンサートやゲーム等の大きなイベント1つ取っても地域格差という物があり地方民には夢ではなく金を要求する残酷な現実。受け止めきれるのかと閻魔大王は不安に思う。


「やっぱり今の時代、出来て当たり前だと言うのが多いと思うんだよ」


 クッキン■パパを読み、コンソメ味のポテチを1枚パリッと食べる仏。


「いや、それ吾が輩の私物」


「昔は男が料理したり子育てがどうのこうので、■■キングパパも料理出来るの隠してた的なのがあったけど今の時代はどうよ?」


「それは……」


「普通にいるでしょ?」


 クッキ○○パパが連載された当初ならば意外とかスゴいとかの称賛の意見はある。

 しかし現在は200X年、家で料理をする男性は普通に居るし学校の家庭科の時間で料理もする。


「これからの時代、それが当たり前になってくるよ」


 男子厨房に入らずなんて、最早古いのである。

 これからの時代、荒岩さん程の腕とは言わないがオムライスや唐揚げ等の比較的簡単な料理が出来て当たり前の男子が沢山増えてくる。仏はそう予言し、その予言はそこそこ当たっている。


「昔はスゴいと言われた物も日が経てば、それが当然となる。今の人達に学校が通えるのがスゴいと言われても、ピンと来ないよ」


 学校を通うことが義務であり、スゴいことではない。

 いったい何時の時代を基準にしているかは不明だが、少なくとも現世の現代はそういう時代ではない。当たり前じゃないのが当たり前となってしまっている。そんな時代なのだ。


「ならば、ならば何故このような残酷な事になる?」


「当たり前じゃないのが当たり前になりすぎるからに決まってんでしょうに」


 スゴいが普通と化してしまえば今度はそれよりも更にスゴいがスゴいに落ちてしまい、月日が経てばそれが普通に墜ちる。


「今、通ってる子が滅茶苦茶多いんだよ。ここ」


 仏は今度は塾のパンフレットを取り出して見せる。

 普通の一般教養の塾、英会話教室の塾、パワポやエクセル等のパソコンに関する塾、絵画教室、エトセトラ。

 学校で習う物から習わない物まで様々な塾があり、それに通っている子供達が年々数を増しており、塾の数も年々増加しているデータも見せる。


「加速させ過ぎたんだよ、近代化で」


 加速させ過ぎた結果、最低基準の底上げには成功したが最高があまりにも高くなってしまった。最低基準に満たされない者が多いまま、最低基準が底上げされた。生まれた土地や家柄等の環境が悪ければ、夢を見るのさえ一苦労だ。正道を通っての幸せよりも邪道を通っても幸せの方が掴みやすくなった。

 閻魔大王が怒り悲しんだ幼き者達の死はそんな加速させ過ぎた現世の現代が産み出した負の遺産とも言うべきものなのかもしれない。


「閻魔大王、よろしいですか?」


 どうしようのないクソッタレな現実問題に頭を抱えていると、1人の和服姿の鬼がやって来た。

 つり目な鬼で何処かの地獄の補佐官に似ている彼は閻魔大王を補佐している鬼の1人であり、閻魔大王にある報告をしにやって来た。


「あ、地蔵菩薩さんもそのままで良いですよ。賽の河原に関することなんすよ」


賽の河原さいのかわらだと?」


 賽の河原、分かりやすく言えばそれは三途の川の河原の事である。

 日本では死後、三途の川を渡って秦広王をはじめとする十王の裁判で天国か地獄かを決めるのだが中には例外もある。それは子供だ。子供は天国にも地獄にも行かず、三途の川の河原である賽の河原に行くことになっている。

 石を積んでは地獄の鬼達に積んだ石を崩されてを繰り返される日々を送り、最終的には地蔵菩薩なる仏が日本の何処かの赤ん坊に生まれ変わらせてくれる、所謂輪廻転生的な生活を送る。


「実は以前、直ぐに転生させた赤子がまたやってきまして」


「なんだと!?」


 そしてその賽の河原にも例外はある。自我にすら目覚めていない赤ん坊である。

 石を積む事が出来ない赤ん坊は問答無用で転生をさせるのだが、転生をした先で子供になるよりも前に死んでしまった。


「バカな、原因はなんだ!?」


「ちょっと待ってください」


 生前の行いを知ることが出来る浄玻璃鏡じょうはりきょうを動かす補佐官。

 赤ん坊が母親から生まれて死ぬまでの本当に極々僅かな期間が映し出されて、閻魔大王は絶句する。


「今は21世紀だぞ!?」


 赤ん坊が死んでしまって、転生してもう一回赤ん坊のままに死んだ一例は無いわけではない。

 だが、その一例があった時代は科学文明が余り発達しておらず天下を取ろうとする猛者達がごまんと居た時代で、平和な時代でこんな事は無かった。


「お前、何時も通りにしないの?」


「私は一応の報告をしに来ただけですよ」


 現代でそんなことが有り得るのかと言われれば有り得ないと言いたいが、赤ん坊が生まれ変わり赤ん坊として死ぬ前例はあった。それならば何時も通りに赤ん坊を転生させればいい。報告は大事だが、一大事な事ではない。


「閻魔が選ぶだけあるけど、日本の地獄の鬼って変わってるね」


 それでも伝えに来たのはそこに私情が混じっているからだ。

 似たような思いを補佐官は持っているが、海外諸国の魑魅魍魎と違うなと仏は感じる。


「仏、貴様、転生先を選べるか?」


「そんなことが出来るわけ無いでしょう。仏は平等でランダムなんだよ」


 仏は、地蔵菩薩は子供を赤ん坊に転生させる事が出来る。

 しかし男の子が男の子に転生できるとは限らないし、女の子が女の子になることもない。ガチャと同じく運要素が混じっており、男の子が女の子に、女の子が男の子になることだってある。

 ましては何処其処の誰かさんのお子さんにと指定して生まれ変わるなんて事は出来ない。


「……吾が輩は決めた」


「ん、どったの?」


「……この赤子を、吾が輩が育てる」



 これが後に閻魔の三弟子と言われる一劉の誕生である。



  ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



「と言うことがありました」


 場面はちょこっと未来。

 閻魔の補佐官をやっている鬼は無数の白装束ののっぺらぼうに当時の出来事を語っていた。


「私的には神話の時代の様に神が人の世に関与して、互いに手を取り合いより良い国作りをしてほしいと思っていたのですが流石は地獄を統率する閻魔。一周回ってとんでもない事を言いやがりました」


 当時の目論みは神権政治の復活、いや、神人政治を作ろうとしていた。

 どれだけ優れた聖人君子が居ようとも、信長の様に一周回ってぶっ壊れた天才が居ようとも無駄だと補佐官は知っていたのだから。


「私が個人的に言える事は、貴殿方がどれだけ立派でも周りに群がる凡夫が利権を貪り破滅させる。故に絶対な完璧な存在が統率するしかなかったりする……方が良いっぽいんですけどね、人は失敗を繰り返して成長する生き物であることを忘れておりました。だからこその社会や世界があるのも……忘れないでください、貴方達は多くの失敗と成功を今から見るのですから」





 異世界転生のすゝめ





「皆さん、頑張って転生者を目指してくださいね」


 これは異世界転生をさせる運営側の物語、とも言っておこう。

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