第24話 GWの約束(3)


GW二日目。大樹、幼馴染とお出かけです。


―――――


意識が戻って来た。ヘッドレストの時計を見ると、まだ六時十分前。三十分は寝れる。もう少し寝ようと思い、意識を遠のくようにしたが、今日の事が頭に入って来て、とても意識は遠のいてくれない。

 

 仕方なく、体を横にした。大きな枕が、私の顔を包み込む。

だめだ、とても寝れない。起きるか。思い切り背伸びをすると、ゆっくりとベッドの上に座りなおした。

 

 今日は、大樹とデート。GW直前に約束した。強引ではないが、GW直前になっても、私を誘ってこない大樹。大切な幼馴染であり、恋人である私を誘わないなんて許せない。だから、約束させた。花屋の店員には、大樹を取られたくない。まだ五分五分な感じがする。


 シャワーを浴びて、さっぱりした後、軽くメンテナンス。朝食を取った後、しっかりとお化粧。でも大樹は、濃い目が嫌いだから・・。上手く。


 今日は、淡い水色のワンピース、少し縁広の帽子。白のローファー。夏っぽいけど、気温は三十度を超えると言っているから、大丈夫だね。


 等身大の鏡で確認した後、一階に降りた。


「まあ、素敵ね。今日は、大樹君とデートでしょ」

「うん」

「帰る時間は気にしなくていいからね」

「えっ」

「だって、この前、済ませたのでしょ。大切な事。帰って来た時、顔に書いてあったわ」

「え、え、えーっ」

顔が、赤くなるのが分かった。


「ふふっ、行ってらっしゃい。絵里奈。大樹君にいつでもお義母さんと呼んでもいいのよと言っておいて」

「お母さん」


ふふっ、笑いながら、玄関で私を見送ってくれた。


彼の家は、向かいにある。玄関から玄関まで目と鼻の先。インターフォンを鳴らすと


「いらっしゃい。絵里奈さん。お兄ちゃんまだ寝てる。起こして」

麗香ちゃんにドアを開けるなり、お願いされた。


あいつめ。二階に上がり、大樹の部屋を一応ノックした。

反応がない。


ドアを開けて中の様子を見ると完全に寝ていた。毛布は半分落ちている。いたずら心でベッドの脇にそっと座る。

可愛い。人差し指で軽くほっぺを突くと


「うーん」

えっ、なぜか、私の腰に手を回してきた。そして、顔を私のお尻に擦り付けている。

「大樹」

呼んでも起きない。でもいいか、このままでも。

更に腰に回した手を占めて来たので、

「大樹、起きなさい」

ほっぺをプチっと抓ると


「痛い。朝からなんだ。麗香」


えーっ、麗香ちゃんと勘違いしているの。もう、こうなったら、

腰を回して、大樹の唇に柔らかく唇を充てた。

「えっ」


目を開けると

「麗香」

「何勘違い・・」


大樹の目が私の後ろを見ている。


麗香ちゃん。

「いつから、そこに」

「ほっぺを突いていた時から」

「えーっ」

手を自分の顔に当てて下を向いてしまった。


「お兄ちゃん、絵里奈さん。朝からいちゃつくのは良いけど、もう八時半過ぎだよ。デートでしょ。起きてごはん食べて。片付けたら勉強始めたいの」


そう言って、階段を下りて行った。

「はあー」

「大樹。今日は私とデートでしょ。なんで寝ているのよー」


枕を取り上げて、大樹の胸を叩いた。

「ごめん。昨日麗香と高尾山に登って、体が・・」

「言い訳にならない」

そう言って、枕でもう一度叩くと、一階に降りた。


「連休始まったばかりだから、やっぱり混んでいたか」

車載ナビが、進行方向へ道を真っ赤に引いていた。

「大樹が、寝坊したからでしょ」

「ごめん」


今日は、二月に行けなかった房総の海を見に行く予定にしていたが、アクアラインのトンネルに入る前で渋滞に入ってしまった。


 結局、一時間半で現地に着いてのんびりする予定が、三時間掛かってしまった。

「うわー。綺麗」


雲一つない空と軽く爽やかに流れる潮風。丸く見える水平線が、渋滞の気の重さを吹き飛ばしてくれた。


「早春のお花は、終わったけど。いいわ。この景色で許してあげる」

絵里奈のご機嫌は、何とか取り戻せたようだ。


木更津から館山方面に南下し、白浜経由で北上する。外房で海岸線の景色が綺麗な地域だ。

「綺麗ね。潮風が気持ちいいし。昼食は、地元のお魚がいいね」

「その予定。一時半だからさすがにお腹空いた」

「私も」


 地元の美味しい食材でお腹いっぱいにした後、お腹休めに誕生寺というお寺にお参りする。有名なお坊様のお寺だそうだ。二人で、お参り。


「大樹は何をお参りしたの」

「健康とかだけど。絵里奈は」

「私は・・。ふふっ、内緒」


ここは、開運や、良縁成就で有名。大樹と結婚出来ますようになんて言える訳ないでしょ。


「そうか。まあいいや」


食事をして、誕生寺にお参りすると午後三時を過ぎていた。

「絵里奈。また、少し長いドライブになるけど」

「いいよ。大樹と一緒だから」


鴨川から館山道に入る為に房総半島の中の方へ車を進めた。


「大樹。聞きたいことがある」

「何」

「大樹は、私の事、どう思っているの」


何を今更の質問だ・・。けど意味ありそうだな。慎重に答えよう。


「大切な幼馴染だよ。絵里奈の事好きだし。だから、絵里奈の言う事なんでも聞いてあげている。

 それに・・したし。とても大切な女性と思っている」


「・・・。私以外見ないでって言ったよね。大樹は、うんと言ったよね」

「・・言ったよ。本当の事だ」

「信じていいよね」

「うん」


絵里奈が僕の顔をじっと見ている。


花屋の店員。柳谷桂さんの事はどう思っているの。せっかくのデート。気分を壊したくない。


「そっか。じゃあ、渋滞でもいいから、ゆっくり行こう」

「そうだね。久々に二人だからね」


失言を悟った時は、遅かった。


「じゃあ、夜も」

「・・・。いやいや。絵里奈疲れているでしょう」

「そんな事ないよ」


ハンドルを握っていない。左腕を引いて、手で握った。

「えへへ」

「もう」


 連休中とはいえ、家に帰るまで途中の渋滞と海ほたるでの休憩を入れて四時間ほどかかった。午後七時過ぎだ。


「レンタカー返してくる。絵里奈は、もう家に帰る?」

「ううん。私も一緒に行く」


結局、レンタカーを返した僕達は、三軒茶屋で一番高いビルの最上階にあるレストランで食事をした。さすがに絵里奈の希望は、体力的に無理。


午後九時過ぎに絵里奈の家の前で別れようとすると、いきなり抱き着かれた。右見ても左見ても誰もいない。いるのは、目の前で僕を見つめている絵里奈だけ。


彼女がそっと目を閉じた。ゆっくりと唇を近づけて優しく触れた。彼女がきゅっと僕の背中を抱きしめてきた。強く吸い付いてくる。


ガチャ。

「あら、失礼」


絵里奈のお母さんに見られた。彼女の肩に手を置いて、

「また今度ね。今日は楽しかった」

「私も楽しかった」


ドアに手を置いてこちらを振返り微笑むと家の中に入って行った。



―――――


今日も、大樹君。ご苦労様。

幼馴染と花屋の娘さん。大樹君引き摺ると良くないような・・・。



面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。


宜しくお願いします。

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