俺があの時助けなければ~家出少女を拾ったら人生が好転した~

赤羽ヨシト

序章 俺が少女を拾った日

第1話 家出少女①

突然だが目の前に困っている様子の人間がいればどうするだろうか。


何に対して困っているのかというのは例えば――重い荷物を持ち運ぶのに苦労しているだとか、いかにも体調が悪そうなのに空いてる席がなくて立っているだとか、いじめられているだとか様々だ。


ひとたび社会に出れば今述べたような苦境にある人間をいろいろな場面で目撃することがあるだろう。そんな光景を目の当たりにしたとき善心を持った人間ならば迷わずに助けに行こうとするはずだ。


それでもなかなか行動に移せるものではないし大多数の人間は見て見ぬふりをするかもしれない。


かくいう俺も困っている人間には手を差し伸べないタイプだ。



最低なヤツだと思っただろうか。



でもこれは経験則だ。困っているような人を助けても無駄なときがある。


それならばいっそ最初から関わらない方がいいではないか。

その方が自分を傷つけなくて済む。


相手? 多分他の良心的な人間が助けてくれるさ。


十人十色という言葉があるようにこの世界には実に多様な人間がいるわけだ。

俺なんかが動かなかったところで他の誰かが手を差し伸べるだろう。



――と、前置きは長くなったがそんな社会にいれば当然ここにも困ったような人物がいるわけで……



俺は今、遠目からとある少女を眺めていた。背丈から判断するに中学生くらいか。

俺と少女の間には結構な距離があるため顔はよく見えない。

別にロリコンというわけでもないし、ましてや人間観察なんて趣味も持ち合わせていない。


ではなぜ見ているのか。


それは少女が真冬の夜にもかかわらず長袖Tシャツにスカートというクレイジーな格好をしていたからだ。


さらに言うならそんな格好をしているのに体を温めようともせずただコンビニの前に突っ立っていた。


今日はとても寒い。


今朝のニュースでは今日の気温は今年最低を記録するだろうとか言っていた気もするし、なんならこうして外にいる俺もかなり寒いと感じているところだ。


もう一度すっかり暗くなった辺りを見渡してみる。


目の前には車道が整備されているがこんな時間じゃ車もまばらだ。

田舎の夜ということもあってかしんと静まり返っており、それがまた寂しさを感じさせる。


あと数時間もすれば日付が変わるような時間なのに少女は立っていた。


最初見かけたときは不良少女かと思ったがこんな時代に不良なんて流行らないし、周りにはコンビニ店員を除いて彼女1人しかいない。


俺の中には不良は仲間と集まるものという勝手なイメージがあったためそうでないと判断した。


じゃあ何をしているんだ? 家出でもしてきたのか?


よく見るとさすがにあの服装では冷えるのだろうか少女の体は震えていた。


気にはなるが、別に話しかけようとは思わない。

こんな時代だ。

むやみやたらに話しかけて相手に通報でもされたらたまったものではない。


せっかく大学生になれたというのにそんな馬鹿らしいことでこのブランドを失うわけにはいかなかった。


とにかく家に帰ろう。風邪でも引いたらたまったものではない。

そう言い聞かせて俺はその場を立ち去った。



歩きながら自分語りをさせてもらおう。俺は真白壮馬ましろそうま

地方に住む普通の大学生で心理学を専攻している。


――いや、普通にはなれなかった大学生というべきか。

大学受験に失敗して本来行く予定ではなかった偏差値もそれほど高くない私立大学に通っている。


別に学歴厨とか偏差値絶対主義者というわけでもないのだが、目標よりもランクの低い大学に通っているという現実が少々悔しい。


「はあ、どうしてこんな人生になったんだろうな」


理由は明確だ。俺が努力を怠ったから。そして運がなかったから。


高校時代の俺は運動というか体育会系のノリがあまり好きではなかったため部活こそしていなかったものの勉強とそれなりの友達付き合いはしてきた。


でも甘かった。上には上がいる。世界は広かったのだ。

大学入試の合格発表の日。

結果に胸を躍らせながらも送られた封筒を開けてみた。



そこには”不合格”の3文字。



たった3文字の無機的な言葉で俺の高校生活が全否定されたような気分になった。

おそらくそれが俺の人生で初めての挫折となった。


友人たちは皆、第1志望校に合格していたためバツが悪くなった俺は次第に友人たちと距離を置くようになった。


結果的になんとか繰り上げで私立大学に合格できたはいいものの新たな悩みが生じた。


そう、学費だ。

俺の実家は両親も健在で貧乏というわけではないがそれでも高額な学費を援助してくれるほどの余裕はなかった。


自分で大学に行くと決めたのだから学費を稼ぐのは当たり前だがそれでも両親の援助が見込めないのはつらい。


かといって学生の身である俺にできることといったら今みたいにバイトに励むことくらいしかなかった。


バイトで学費を稼ぐだけの日々。

そんな生き方をしていたら次第に手段と目的が逆転し始めた。


何のために進学したのだろうか。

周りが進学するから? 学歴社会だから?


違う。やってみたいことがあったはずだ。

でも今の俺にはそんな余裕はなく、ただ生きることに精一杯だった。


「もう12月か。この時期は神様でさえ走り回ってるらしいし人間である俺たちはもっといそがしいはずだよな」


誰にともなく呟く。口からは真っ白な息がこぼれた。

今日は昨日よりもいっそう寒い。


ふと、脳裏に先程の少女の姿がちらつく。


まあ死にはしないだろう。それに誰かを待っているだけかもしれない。

いずれにせよ部外者である俺には関係のないことだ。


中学時代からだ。俺は自分に関係のない厄介事には首を突っ込まないようにしていた。


どうせ俺なんかが関わったところで事態が良くなるはずがない。

それならばいっそ最初から関わらない方がマシだ。


頼んでもないのに割入ってこられても相手は迷惑するだけだ。

そうやって目の前にあふれる問題を無視し続けていた。


こんな性格のおかげか中学以降問題事を起こしたことはない。

尤も周囲からは冷たいヤツだと思われているのかもしれないが。


「考えるのはやめよう」


頭ではそう思っているのにどうしても先程の少女を意識してしまう。

俺が他人のことを考えるなんて珍しい。


自宅が目と鼻の先まで迫ったところで俺はより一層足を早めるのだった。

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