出会い

        ~五年前~

 高校の入学式当日。門の前で深呼吸をする。知り合いが全くいない場所で上手くやっていけるのかという不安を抱きながらも、私はこれからの学校生活に期待を募らせていた。

 校内に足を踏み入れた瞬間、桜の美しさに圧倒された。といっても、桜なら別に校内に入らずとも外からも見れるのだが、間近で見た方がより綺麗に見える。桜から視線を落とし、周りの新入生を見る。私と同じように緊張していそうな子もいれば友達と楽しそうにしゃべっている子もいる。そんな同級生を見ると、なんの保証もないのにこれから楽しくなりそうだと思った。

 入学式は予想していた通り、校長の話が長かった。小中高共通して校長の話が長いのはなぜだろう、というどうでもいいことを考えながら話を聞いていた。 

 入学式が終わり、新入生はそれぞれの教室に戻った。担任は男性で、誰もが「おじいちゃん」と聞けば思い浮かべるような人だ。正直言って、頼りないことこの上ない。夜寝る前にこの人の声を聞いたら一瞬で眠れそうだ。

 この日は自己紹介とHRだけであまりクラスメートと関わる機会はなかったが、席が近くの女子と少しだけ話して良い人そうだったので安心した。

 それから一ヶ月以上が経ち高校生活にも徐々に慣れてきた頃、私は朗(あきら)と出会った。

 ある日の放課後、靴箱で私が靴を履いていた時に彼は話しかけてきた。 

「一組の長嶋幸(ながしまこう)さんですか?」

私は驚いて頭ごと視線を上に向けた。そこには見覚えのない男子生徒が立っていた。背が高く痩せているのでかなり華奢な印象だが、目元は優しげでいかにもな好青年といった感じだ。

「そう、ですけど…」

私が何を言えばよいか分からず、言葉に詰まっていると彼が話を切り出した。

「あの、連絡先を教えてください」

私はあまりの急な発言に思わず「えっ?」と呟いた。

連絡先……別に教えてもいいが、一体なぜだろう。しばし考えを巡らせたあと、私は淡い期待を抱いた。「もしかして私に好意を向けてくれているのだろうか?」思い、すぐにそれを頭の中から追い出そうとした。そんなことあるわけがない。今まで男子に好意を向けられたことなんて一度もないのだ。第一、私は彼と話したことすらないのだ。それがこんな女子に人気がありそうな人が自分を好いてくれるなど、あり得ない。そう思いながらもこの胸に広がった得体の知れない、けれども確実に芽生えてしまった思いを押さえられず、私は彼と連絡先を交換した。

 今思えば、私の人生が狂い始めたのは余命を告げられたときではなく、朗に話しかけられた、まさにこの時だったのかもしれない。

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