16
「さ、もうママンはこのまま寝たままだろうし、挨拶みたいのも済んだしで次のとこに――――ん?」
ポツ、ポツ、ポツ……肌に落ちる雫。
いつのまにか雲がどんよりと灰色に染まっていた。
どんよりってどういう意味だろう? どうでもいいか。
ギュッ―― 龍湖が僕の腕にしがみつく。
豊満おっぱいの感触が素晴らしい。
プルプルと震えてもいる。
「雨、『キツイ』?」
小さく頷く彼女。
んん、どうしよう。
別にあの雲を『消してもいい』のだが、この先を生きて行く彼女、その度に怖がってたらなぁ。
――バサァ
ふと、唐突に。
寝ていたママンが大きく、翼を開いた。
恨めしそうにそらを眺めている。
あっ、何やるか察した。
ブオンッ!
一度だけ、翼を天に向け扇ぐ。
それだけの動作で、強烈な突風が発生し――
『曇天が晴れた』。
何事も無かったように天は青空に。
再び、眠りにつくママン。
オ…………オオオオオ!!!
目の前の光景に湧き上がる一般客。
「す、すごいっ!」と龍湖も瞳をキラキラさせていた。
助けて貰えるなら誰にでも惚れるなんて浮気性な奴め。
というか別に、ママンは客の為に雲を散らしたんじゃない。
龍湖の為でもない。
パフォーマンスでもない。
全ては、胸の中でスヤスヤ幸せそうに眠る息子の為。
濡れないようにするそれだけの為。
その親バカぶりたるや、世界か息子かと問われたら真っ先に世界を滅ぼすだろう。
そんな風に溺愛されるあの子を見て僕はというと……少し、嫉妬心がないわけでも無かった。
――その後。
怪物園を後にした僕らは……
「はぇー……凄く広い脱衣所ですねぇ」
脱衣所。
脱衣所のある所といえばどこだろう?
着替えるだけなら更衣室だ。
なんで、必然、風呂の近くという事になる。
あれ? プールも脱衣所って呼ぶ? まぁいいや。
「ロッカーの数も五百はあるからね。ここのお風呂は広さも種類も世界一さ」
ところで、なぜ急に大型温泉施設に来たかと言うと……
小雨で冷えた身体を温める、
かいた汗を流す、
ふと女の子の水着が見たくなった……などなど理由は多々ある。
しかし、メインの目的は別にあった。
身を清めに来たのだ。
【あの人】に会うのだから。
「さ、兎に角脱いでレンタルの水着に着替えな」
「はぁい」
龍湖はポイポイと服を脱ぎ出し、あっという間に水着姿に。
ぉぉう、見るのは『二度目』だが、太ってもないのにボンキュッボンな肢体。
周りのレディ達も釘付けで、嫉妬心すら覚えぬレベルの迫力。
男の子の前なんだから少しは恥じらいの表情が欲しい。
この先が心配。
僕もいそいそと着替え、龍湖と温泉巡りに出発。
遊園地や怪物園がメインと思われがちだが、当然、この温泉施設にだって手を抜く僕ら従業員じゃない。
温水プールのような広い露天風呂は勿論あるが、ここの売りはやはり【湯治風呂】だろう。
コリをほぐし数分で全快させるエレキクラゲの電気風呂、
身体の悪い部分は不治の病ですら食べてくれるサンドBJフィッシュの砂風呂、
入った時間の分だけ若返る火の鳥血の池風呂、
折れた骨を繋げ失った歯や臓器や髪を取り戻す逆流滝風呂、
精神的なトラウマを消す癒しの香りを放つ天界の華風呂などなど……
一度では説明しきれない多種多様さ。
全てを回ろうとしたら日が暮れてしまうので、僕らは無難なお風呂に落ち着く。
浴槽に納まった巨大ホットスライムに浸かるスライム風呂である。
「ふわぁ……ヌルヌルとしててあったかくて、気持ちいいでふぅ」
「ローション風呂って感じだね」
「ローション?」
訊かれたがスルー。
ふぅむ、半透明なオレンジ色スライムに浸かってる龍湖。
テロテロしててなんかエロい。
あ、そうだ。
「ホスー(ホットスライム)、マッサージモードオンにしてー」
「え? まっさーじ? キャッ!」
龍湖がスライムの中に引き摺り込まれ、首だけ出ている状態になり、
「い、一体何が……っ! ゃ……ぁん……ふぁ……」
突然悩ましい声を漏らし始めた。
「どーだい? スライムのマッサージモードは。ギュムギュムと中で全身ほぐされてあったか気持ちいいだろう?」
「こ、声が出ちゃいますぅ……ンッ!」
「グフフ、良い眺めだなぁ。本来この子はそんな感じに他種族のメスを取り込んで卵を植え付けるわけなんだけど……ぉあ!? ホス! 僕はしなくていいからっ。だから僕の『そこ』に入り込もうとしないで! 卵植えても意味な――ら、らめぇええ!!」
なんとか貞操を守った後、ヌメヌメな身体をさっぱりさせる為鏡のある洗い場に。
「よいしょっと。全く、酷い目にあったぜ」
「背中お洗いしますねっ。おや? 寵さんの座ってるそのお風呂椅子、お釜の蓋みたいに変わった形ですね?」
「ん? んー。こう、下が空いてるとお尻が洗いやすいでしょ?」
「なーる」
知らぬ方が、今は知らなくても良い知識という物はある。
ヌルヌルペタペタ、タオルやスポンジでなく手の平で僕の体を撫で回す龍湖。
たまに背中にペチペチ当たる水着越しオッパイの感触がいいね。
「よっしょ、よっしょ……あ。(ジーー)今更ですが、ここは混浴のお風呂ですか?」
「違うけど? そもそも混浴が認められてるのは家族風呂くらいかな」
「ですよね。んー。まぁ、寵さんは色々と超越した特別な存在ですものね」
彼女が何を言いたかったのか僕にはサッパリだなぁ。
「んしょ、んしょ……にしても、この前は龍湖のおうちで同じようにお風呂に入ったのに……まだアレから数日しか経ってないのに……まるで、凄く昔のように思います」
「そう? 僕は普通についさっきって感覚かな。多分、龍湖にとってはそれだけ、僕との出会いが衝撃的だったんだなぁ」
茶化す感じで言ったのに、彼女は「その通り、です」とマジトーンで。
「あの時は、こんな時間を過ごせるなんて思えなくって……アレが龍湖にとっての普通で……救われるだなんて発想もなくって……あの時の龍湖は、これほどに綺麗なお方の肌に触れてるだなんて自覚すら出来なくって……」
シミジミ、彼女は思い返し始めたらしい。
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