4
――意識を無くした龍湖を抱えて脱衣所まで運び、身体を拭いてやって浴衣を着せる(僕も借りて着た)。
この一連の流れ、何だか懐かしい。
昔、姉妹達にやってやったものだ。
オンブで龍湖をコタツのある居間? 茶の間? リビング? に運ぶと、既に食事を用意し終わっていたお婆ちゃんがニヤニヤとこちらを見た。
どんな展開を想像してるのやら。
「……っは! 龍湖は一体!? お風呂に入ってた筈ですが……」
目覚めて先程の記憶をなくした彼女も交え、夕食。
コタツの上には鰻の蒲焼き、スッポン鍋と生き血ジュース、マムシ酒の中華炒め、アボカドとオクラとトロロネバネバ和えと……露骨過ぎる精のつく料理が並んでいる。
「全て山で揃えた物で申し訳ないですじゃ」
なんてお婆ちゃんはすっとぼけ、
「クンクン……わぁ、今日は豪華ですねっ」
なんて龍湖は意味を理解せずニコニコしていた。
「寵さんっ。明日は近くにある綺麗な滝と川のスポットを案内しますねっ」
「それは素敵だねぇ」
え、なに、今日このまま泊まってく流れなの? 明日ものんびりするの?
「これこれ龍湖、お客様を振り回してはいけんよ」
お婆ちゃんも止める気ないし。
うーん……龍湖の提案も魅力的ではあるけれど、家族も心配してるし、明日は普通に帰らなきゃなんだよなぁ。
それをここで素直に言うほど空気読めなくはないけど。
まぁ、二人が納得するような措置は既に考えてある。
同時にそれは、一宿一飯の恩返しにもなるだろう。
食後に歯を磨いた後。
当たり前のように龍湖の部屋に案内され、当たり前のよつに一つの布団で寝る流れに。
ご丁寧に枕が二つと謎のお香も焚かれている。
んー、当然だけど、ミニマリストのように物の少ない部屋だ。
色々把握出来る力があるとはいえ、足にぶつかりそうなモノは無い方が無難だろう。
「それじゃあ二人共、いい夢みるんだよ……ゴホッゴホ」
「だ、大丈夫ですかお婆ちゃんっ」
「ハァ……今日はお婆ちゃんも少しハシャギ過ぎたね。もう寝るよ。では、お客様。後は『よろしくお願いします』」
ペコリ、頭を下げてお婆ちゃんはヨロヨロと戻って行った。
何をよろしくされたのやら。
二人で、一つの布団に入り込む。
年中雨の降る場所だから陽の匂いはしないが、それでもフカフカだ。
クリーニングに出したやつを引っ張ったのかもしれない。
「てか、まだ二一時か……若者が寝るには早すぎる時間だよ」
「そうなんですか? 龍湖はいつもこの時間です。……ふぁー。何だか、今日は龍湖も疲れました。でも、心地いい疲れです。いい夢……見られそ……ぐぅ」
落ちるの早いな。
龍湖はピタリと僕にくっつき、安らかな顔で規則的な呼吸を始めた。
既にムードもヘッタクレもない。
お婆ちゃんの目論見はハズレたな。
この村の巫女は、いずれは子を産まなければならない。
毎度、決まって誕生するのは女児らしい。
それも神の呪い。
あてがわれる相手の男は村の者なのか、それとも外から連れて来た者かは分からないが……どちらにしろ、巫女が『気に入った相手』が望ましいだろう。
何よりも、だ。
お婆ちゃんの目論見は、気持ちは分かる。
せめて龍湖には気に入った相手の子を、という老婆心。
今の龍湖は『視た感じ』――うん。
普通なら高校一年生な生活を謳歌している年齢だ。
子を産むには若い……が、既に身体は出来ているのでその辺は大丈夫だろう。
いや、手出さないけど。
ブルルッ 「ん?」 スマホが震えた。
目覚ましでも設定してたかな? メールは圏外なんで来るわけが……来てた。
差出人は……ああ、【あの人】か。
あの人なら確かに圏外だろうが何だろうが関係ないな。
なんてったって、本物の【神様】だし。
『君んちの姉妹とママンと弟君が心配してるから明日には帰るんだよ。勿論、『龍湖ちゃん救った後』にね』
……やれやれ。相変わらずの筒抜けか。
怖い人だよ全く。
精のつくもの食わされた所為でギラギラしてて寝付けないけど、今は『作戦開始』まで英気を養うか。や、そんな難しいミッションでも無いんだけども。
「にしてもなぁ」
【あの人】の進言通りこの山を訪れたわけだが、まさかこんな展開になるなんて……ここまでトントン拍子に進むとは思わなかった。
『望んだ形』とはいえ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます