第12話「てれてれってれ〜おべんとう〜」

「ん、ダウンロード終わった」

「お、あとは配信を待つだけだね」


 私と弥生はお茶とエナジードリンクで乾杯をしたあと、20時開始予定のコラボ配信の準備を行った。

 一通りの準備を終え、今はパソコンの前でイスに座り、プレイするホラーゲームのダウンロード完了を待っていたところだ。


「どうする? ちょっと試しにやってみる?」

「絶対ヤダ」

 

 弥生は私の提案をキッパリと拒否した。


「え〜、でもどんなゲームか気にならない?」

「ならない」

 

 弥生は私のお伺いをキッパリハッキリバッサリ両断した。


「“先輩”のイジワルー」

「イジワルじゃないですー。むしろ“後輩”がイジワルですー」


 配信の準備で色々と話しをして、だいぶ打ち解けることができた私と弥生は、じゃれあうように言葉をかわして笑いあう。

 

「とりあえず配信の準備も終わったし、なにか食べる?」


 弥生はイスから立ち上がり、部屋の壁際に積んであるダンボールの方へと歩いていく。そしてたどり着くと、その内のひとつを開け中をあさる。


「……カップラーメンしかないけど」

 

 弥生はダンボールの中から取り出したカップラーメンを両手に持ち、私にそれを見せる。


「ふっふっふ……実は“いいもの”があるんですよ奥さん」

 

 私はイスから立ち上がり、テーブルの横に置いてある自分のバッグへと向かう。そしてたどり着くと、弥生の視線を感じつつバッグをあさる。


「てれてれってれ〜おべんとう〜」


 私はお腹にポケットが付いている寸胴体型ロボットの声真似をしながら、バッグの中からお弁当をふたつ取り出し高々と掲げる。


「お弁当?」

「要から弥生の家にはカップラーメンしかないって聞いてたから、お弁当を作ってきました」

「おおーー」


 弥生は目をキラキラさせながら、お弁当を高々と掲げる私に熱い視線を注ぐ。その姿はまるで子犬のようで、耳と尻尾がパタパタと動いている幻覚が私を襲う。


「弥生の分もあるから一緒に食べよう」


 私は高々と掲げていた手をおろし、お弁当をテーブルに置き腰をおろす。

 弥生はカップラーメンをダンボールに戻すとこちらへやってきて、私の向かいにちょこんと座った。

 

 だがなぜかお弁当に手をつけず、私をじいっと見つめる。 

 ん? なぜ私を見つめる? お箸もちゃんとあるし…………もしや──。


「……どうぞ」

「いただきます」

 

 ワンコ──もとい弥生は、そう言うと礼儀正しく手を合わせ、お弁当のフタを開ける。


「おおーーー!」

 お弁当の中を見た弥生が感嘆の声をあげる。


「口に合えばいいけど。──ちなみにお品書きは、鶏肉とコーンの生姜焼き、玉子焼き、ほうれん草のゴマあえ、カボチャの煮物となっております。そして1段目は全部ご飯」


 私はお弁当の中身を弥生に説明する。


「鶏肉とコーンの生姜焼き……?──あ! すごい! 美味しい!」

 弥生は鶏肉とコーンの生姜焼きを口にして、今日一番大きな声を出した。


「生姜焼きって豚肉で作るものだと思ってたけど、鶏肉でも美味しいんだね。初めて食べた。コーンも焼きトウモロコシみたいになってて美味しい」

「でしょ。これ私の得意料理のひとつなんだ。口に合ったみたいで良かった」


 弥生はぱくぱくと、お弁当を勢いよく食べ進めていく。私はそんな弥生の姿を見てとても嬉しい気持ちになる。これだけ美味しそうに食べてくれると、作ってきたかいがある。


「じゃあ私も、いただきます」


 私も手を合わせて自分で作った弁当に箸をのばす。うん、いい味だ。

 ──なんて、つい自画自賛してしまう。でも今日くらいはいいよね。だって弥生が喜んで食べてくれているんだから。

 私は幸せな気持ちで弥生と一緒にお弁当を食べるのだった。


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