ゴーストDIVE

A君B君

第1話

 朧月おぼろづきの夜、玄関扉を開けると、まるで吹き抜けるかのように腐敗臭が広がった。

 家の中を見ると電気はついておらず、わずかな月の光と赤い点滅があるだけだった。

 昨日の賑やかな雰囲気が嘘かのように物静かな家。

 玄関へ踏み入れる前は外出に行ったのだと、そう思っていた。

 この腐敗臭だって何らかの事故が起きた、ぐらいにしか考えていなかった。

 だが、その思い込みを赤い点滅が意地悪をするかのように家の惨状をさらし、悲劇へと変えられていった。

 瞳に映るは身元の分からない片足、流血を辿たどると数メートル先に片足を紛失した妹の死体が転がっていた。

 その有り様は到底殺人事件では片付けられないようなものだった。 

 頭はありえない角度に曲がっていて、内臓が口から飛び出ている。そして骨は至る所から露出していて、酷いところで髄まで見えてしまっている箇所もあった。

 精神的ショックや吐き気が襲ってくる中、なんとか我を保ち、状況確認のために硬直する足を動かした。

 いざ踏み入れてみると強烈な腐敗臭が嗅覚を刺激し、立っていることすら必死な状態だった。それでも、重々しく一歩を踏み出していく。

 そして、歩いて数十秒の廊下を数分かけてたどり着いたリビング前。

 正体の分からない輪郭の気配に撫でられるような恐怖に駆られながらもドアの隙間から顔を覗かせた。

 薄暗い月光が至るところに塗られた血を浮き出す様。

 この光景に言葉が出ない。心臓が押し潰されるような感覚に陥りながら、取り乱さないよう必死に抑え込んだ。 

 そして襲ってくる強烈な頭痛。

 精神の限界を感じた俺は自然と背をむけてしまう。

 すると、形のない何かに押され少しの低音を響かせて後ろへと倒れた。

 数回瞬きして鮮明になった視界には微動だにしない身体が2体あった。

 頭に数秒響き渡るノイズ音。鳴り終えると全てが無音になった。

 そして、赤い点滅が一人の顔を照らしだす。


「人間.........。 あなた、わたしが見えるの? 」 


 茶髪のショートヘアーに隻眼の瞳をもつ少女が突如とつじょ闇から現れ、ひどく透き通った声で物憂げにそう質問した。

 俺はもう思考回路がイカれ、哀の表情で怯えることしかできなくなっていた。


「へぇ、その反応、私のこと見えてるんだ」


 少女はニタァっと笑みを浮かべひしひしと歩み寄ってくる。

 

 あぁ.........。 殺される。

 今日はこんなはずじゃなかったのにな。

 

 






 

 


 

 

 

 

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