百四十四の城
コンクリートで復元したということで内部はもっと現代的なのかと思っていたが和歌山城の天守は大幅には雰囲気は潰さない程度に壁や柱をコンクリートむき出しにはせずに木の板を貼って大幅に雰囲気を潰さないように努力をしているようだった。
当然木造の建物と比べると現代感が否めないが、これはこれで悪くない、そう言う気持ちにさせてくれる建物だ。
私達が入った正面のエントランスに位置する場所には大きなショーケースに大天守の木組みの柱模型が置かれていて現存していた頃の大天守がどのようなものだったかを私達に教えてくれる。
訪ちゃんはショーケースに走り寄るとペタリと貼り付いて木組み模型を眺める。
私もその後ろでショーケースを眺めると柱の数を目で追って数えたが途中で数えるのが面倒くさくなって諦めた。
「こんなにも柱と梁を多用していたんですね。」
「当時は柱や梁の太さや数の多さがお城の耐久性にそのまま左右したから天守のような大きな建物をお支えるには無数の梁と柱を多用したのよ。」
あゆみ先輩はそう言ってショーケースの側面からお城の模型を眺める。
「確かにそうですよね。現代みたいに耐震設計もされていないでしょうし・・・」
沢山の柱と梁が立ち並ぶ模型を見て現存する天守もこれと同じような作りをしているんだろうなと思うと興味深く思えた。
ぺたりとショーケースに貼り付いた訪ちゃんがチョロチョロと角度を変えたり目を細めたりしながら模型を隅々にみながら
「これとおんなじやつが彦根城とか姫路城にも置かれててお城ではよくある模型やんねんけどなんかよく見てしまうねんな。」
と私に教えてくれる。
「天守のミニチュア可愛いもんね。」
「確かにな。」
訪ちゃんは私の方をちらりと見る。
私は何気なしに頷いた。
天守のミニチュアの横には朱色に塗られた時代劇でよく見る駕籠が展示されている。
私はそれを見ただけで時代劇の世界に入ったような気がして気分はさながら駕籠を町娘のようだ。
そして町娘の気分に浸りながら地味でそれほど目立たない私には町娘はなんだかお似合いだなと思った。
じゃあ私が町娘ならあゆみ先輩や訪ちゃんは何なんだろう。
私は心のなかでそんな妄想がだんだんと広がってきた。
そうだ、間違いなく先輩はこの立派な駕籠から降りてくる立場だな・・・そう、さながら藩主の娘と言ったところだろうか、清楚で礼儀正しくそれでいて芯に一本筋が通った凛とした佇まいのお姫様、それが先輩だ。
じゃあ訪ちゃんは・・・うーん・・・町中で木の枝持ってどろんこになりながら侍ごっこしているヤンチャな子供?
なんか違う気がする。
訪ちゃんは子犬みたいでヤンチャでお調子者だけど意外にも鋭いところもあるしテスト勉強になったら真剣にするし、やっぱり自由闊達なお家のこととは関係のない藩主の次女が妥当なラインだろうか?
街のヤンチャなどろんこの子供だと妄想のこととは言え訪ちゃんに申し訳ないしお姫様の妹枠で問題なかろう。
立派な大名駕籠とそれに従う姉妹を載せた駕籠を見送るために傅く町娘の私・・・
私が傅いていると大名行列が止まり駕籠の小窓が開いて外を眺める先輩と後ろの訪ちゃんの駕籠からガタガタと揺れて『なんやなんや?なんで止まったんや?』と言う声・・・
私は小窓から顔を出す先輩の小さな顔をしばし見とれていると、しばらくして行列の中央の立派な駕籠に家老みたいな人が近づいてヒソヒソと話をすると再び駕籠が持ち上げられてしずしずと行列が目の前を通り過ぎていく、私はその行列が通り過ぎていくのを静かに見守るのだ。
そんな風に頭の中でキャラの配役を勝手に決めてぼーっとしていると
「なあ、あゆみ姉、さぐみんが駕籠の前で固まって動かんようになってもうた。」
「うーん、いま城下さんは朱漆の駕籠でタイムトラベルをしているのよ。」
二人はヒソヒソと意識が妄想の世界に飛んで固まっている私を見てそう言う。
「なんか可愛い感じに言うてるけど要は妄想してるって言うことやろ。」
「妄想じゃないわ、創造よ。駕籠を見るだけで当時の大名行列を脳内に創造出来るなんて素晴らしい一芸ね。」
「ほなどうしたら意識が戻るか試してみよ。」
訪ちゃんはそう言って意識が飛んでいる私の周辺をチョロチョロと動き回ったり、変顔をしてみたり『わーっ』と大きな声を出してみたりして私の意識を戻そうとするが私は全然気づかない。
「こら!訪!」
先輩は流石に大きな声に対して嗜めるが訪ちゃんは全然聞いていなかった。
訪ちゃんは腕を組んで
「うーん、やっぱり最後はこれか?」
そう言って人差し指を一本立てて手を後ろに引くと軽く勢いをつけて
「とりゃ!」
と私の左横腹にツンと突き立てた。
訪ちゃんの指は意外にも勢いが着いていたのか私の横腹にプニョンと突き刺さる。
「ひゃぐぅ!」
痛いのかこそばゆいのか、よくわからない感覚が意識が飛んでいる私を現実世界に引き戻す。
突然のことに驚き私は横に飛び退くとそこには
「あっ、城下さん!」
と訪ちゃんの行動に驚いて咄嗟に私の体を受け止める先輩の姿がそこにあった。
ボフぅと言う音が私の中で聞こえる。
幸い上手く私の体を支えてくれて先輩ともども転げはしなかったが先輩は顔を真赤にして怒りを顕にすると
「訪・・・あなたは・・・」
と怒りに震えた声で訪ちゃんに向けてそう言った。
あまりの雰囲気にゴゴゴゴゴゴ・・・とお城の耐震設計が心配になるくらいの音が私の中で響き渡った気がした。
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