百四十一の城
和歌山城の天守には大きくて強そうな楠門という櫓門が置かれていた。
チケットを券売所の人に渡すと私と先輩は楠門の前に立った。
「天守は木造再建なんですか?」
私は目の前の楠門を支えている太い木の柱を見てそう思ったのだ。
「天守自体は鉄筋コンクリートで再建しているわよ。楠門だけは木造で再建したのよ。」
あゆみ先輩はそう教えてくれた。
門以外の全ての建物をコンクリートで再建して門だけは木造で再建するというのはなんとも不思議な話だけど、和歌山城はその不思議な作りをしているのだ。
「楠門だけ・・・でも連立式の天守だとこの楠門も含めて天守なのでは?」
あまりにも当たり前過ぎる質問だが誰もが思うことだろう。
「その通りよ。当時の人がなぜそんな再建の仕方をしたのかは分からないけどそのように再建した。楠門は正式には天守二の門と言うの、楠門は当時、全て楠の木で建設されたことから付けられた別称なのよ。おそらく天守への顔で、木材が一番外へ露出しているからだと思うの。」
「人の目に付きやすい場所は木造にしたということなんですね。」
私の言葉に先輩は頷いた。
私がそんな話を先輩としているとチケット売り場でチケットを出すのに手間取っていた訪ちゃんが私達に追いつく。
訪ちゃんはチケットを出す時にどこにチケットをしまったのかを忘れて体中のポケットを探って遅れていたのだ。
「ごめんごめん、お待たせ。」
訪ちゃんは小さく手を振って私達に駆け寄ってきた。
「いやー、お尻のポケットに入れたと思ってたんやけどスマホカバーの蓋に挟まっててさ。びっくりしたわ。」
カリカリと後頭部を掻きながら手帳型のケースに入ったスマホを私達に見せてタハハと笑った。
「もう、どうなることかと思ったよ。」
ハラハラしたのは本当だ。
私は訪ちゃんがチケットを無くしたという時驚いてヒヤヒヤしながら横で見ていたのだが先輩が呆れた顔で
『この子は物忘れが多い子だけれど大事なものはなくしたりはしないわ。櫓門で眺めながら待ちましょう。』
と言ってハラハラしている私を引っ張って櫓門の前に立ったのだ。
そして先輩の予想通りに訪ちゃんはお尻のポケットにしまっていたスマホカバーにチケットが挟まっていたのだ。
「いやあそう言うこともあるんやなあ。」
訪ちゃんはしみじみとそう言った。
「不注意よ。ほんとうに落としてたら大変なんだから、わかり易い場所にしまいなさいよ。」
先輩に嗜められると訪ちゃんは少しだけしょんぼりとして
「はーい」
とちょっぴり力なく頷いた。
「さあ、天守に入るわよ。」
少しだけ元気を落とした訪ちゃんを見ると先輩はそう言って訪ちゃんの肩をポンと軽く叩いて促した。
先輩に肩を叩かれると訪ちゃんは少し明るい顔になって
「いこいこ!」
と元気よく私達に言った。
元気になった訪ちゃんを見て私と先輩は顔を見合わせて笑った。
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