百十二の城
岡口門を三人で楽しんだ後は南の丸から外郭を回って天主に向かおうと決めた私達は南の丸から
相変わらず立派な切り込み接ぎの櫓台が私達を見下ろしている。
きれいな反りを持つ高石垣は和歌山城の防御力の象徴だ。
私達が兵隊ならもう既に的になっていることだろう。
想像すると悪寒がするような気がした。
「和歌山城は色んな顔を持つお城ですよね。」
「そうよ、お城は石垣一つで化粧のように雰囲気を変えるわ。和歌山城はたくさんの顔を持つお城なのよ。」
あゆみ先輩は高石垣を見上げる。
「南の丸の石垣も面白いわよ。切り込み接ぎの石垣が打ち込み接ぎに変わって気づいたら
「そう言えばさっきの石垣は突然の切り替わりやったからまた味わいが変わるかもな。」
訪ちゃんは御蔵の丸の石垣を思い出しながらそう言った。
そう言えば確かに突然打込み接ぎの石垣現れたと思ったら切り込み接ぎの石垣が現れて、そして切り込み接ぎの石垣の門跡を抜けると突然目の前に野面積みの石垣が私達の前に現れた。
それが今度は徐々に切り替わっていくというのだ。
私達は少しずつ切り替わっていく石垣を楽しみに歩を進める。
恐らくこの高石垣は後に増設されたのだろう。櫓があったであろう場所だけが切り込み接ぎで、しばらくすると直ぐに打ち込み接ぎに切り替わった。
打込み接ぎの石垣の対面には味のある荒々しい自然石を積んだ石垣が通路を細く区切っている。
打込み接ぎの石垣と野面積みの石垣が作り出す細い通路を進むと右手から野面積みの石垣が打込み接ぎの石垣から突き出していて、私達は左に緩やからに曲がらされた。
突き出した野面積みの石垣もまた格好のいい石が使われていて上品な切り込み接ぎの石垣から優等生な打ち込み接ぎの石垣に切り替わり、荒々しいちょいワルな野面積みの石垣に見事に切り変わったのだ。
南の丸は木々の多いルートで石垣には木漏れ日が当たっていて雰囲気のある格好のいい石垣は太陽の光によってより風格が増している。
和歌山城の石垣の石は少し緑がかった石だが、太陽の光が葉っぱの緑色を透かしてより石の緑色が濃くなっているような気がした。
「外郭から眺める本丸の石垣は本当に素晴らしいのよ。お城に入ると皆すぐにも天主を目指してしまうけど、周辺の石垣や櫓を楽しんで気分を盛り上げてから天主に向かうのが最もお城を楽しめるのよね。」
先輩は石垣のおかげで気分が高まったのか楽しげだ。
訪ちゃんは普段から天主だけがお城じゃないと言うように先輩の意見には同意のようだった。
「そうやな。周辺を楽しんでから最後に天主に向かう。先に天主に行ったら満足して周辺を見ずに帰るやろ。楽しむにしても簡単に楽しんでしまう。それよりも周辺をしっかりと楽しんでから天主を楽しむのがお城の見方やな。」
訪ちゃんは得意げにそう語る。
そもそもお城の事自体を知らなかった私はすっかり二人のポリシーが染み込んでしまってゆっくりと天主を目指す事が染み込んでしまっている。
こうやって三人でお城を散策するのが本当に楽しいのだ。
「ところで和歌山城の内郭の部分の殆どは秀長の城代だった
先輩は野面積みの石垣を見上げながら私にそう教えてくれる。
「桑山さんが城代と言いましたが、城代とは・・・?」
「城代は端的に言えば城主のことよ。ただ、和歌山城は紀州征伐の功績で加増された秀長の領地なの。だから正式の城主は豊臣秀長なんだけど、他にも和泉と大和にも領地を持っていて、大和国の郡山城に本拠をおいて新城を築いたの。当然秀長は分身することは出来ないから、本拠を郡山城に置く以上は空城になる和歌山城の管理を誰かに任せないとならないわ。その重要な役割を担ったのが城代の桑山重晴よ。」
要するに城主の代理だから城代、なのか・・・
「しかし、秀長はお城が完全に完成してない中で郡山にもお城を築いて忙しい身の上やったんやなあ。」
訪ちゃんはそう言って秀長さんに同情的な顔をした。
「秀長の領地のうち、大和と紀伊は宗教勢力の色が濃い特殊な領地よ。大和は
秀吉は信頼できる弟に難しい土地を与えることで見事に統治させていたのだ。
そう言えば秀長さんはどこかで秀吉よりも若くして亡くなってしまったと聞いたことがある。
それって過労だったんじゃないかな・・・
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