五十五の城

赤松さんが起こした事件で室町幕府だけでなく朝廷まで巻き込んだ大事件が引き起こされた。


禁闕きんけつの変と言う事件で、この事件が起こったことで下手したら日本を二分した争いになってしまう可能性があったらしく朝廷も室町幕府もドッタンバッタンの大騒ぎになっていた。


こんなに国を無茶苦茶にするような失点ををしておいて赤松さんはどうやってお家再興をするんだろう?


「下手すると日本を分断した国家にしてしまう可能性のあった禁闕の変だったんだけど、神剣を取り戻して首謀者を処断して一応の解決を見たわ。だけど神璽しんじは奪われたまま。なんと15年もの間、吉野の後南朝ごなんちょうが保持していたわ。一方播磨はりまの国は山名宗全やまなそうぜんの活躍で山名の領地になってしまって赤松の家臣だった人達は浪人ろうにんになっていたの。」


「赤松の家臣は主人の突発的な行動に巻き込まれた結果やけど仕方ないよな・・・」


社長が無茶苦茶したせいで社員が路頭に迷うなんて仕方ないとは言え悲しい末路だと思ってしまう。


でもたずねちゃんの言う通り仕方ないよね・・・


そう思っていると虎口こぐち先輩が明るい顔で


「その浪人達が赤松家を復活させるために一旗揚げるのよ。」


と元気よく言った。


「まさか?」


私の一言に先輩は頷くと


「そのまさかよ、赤松の遺臣はどうしても赤松家を復活させたくて神璽を取り戻すために幕府と朝廷に赤松家再興の約束を取り付けて神璽奪還作戦を実行するの。」


「おー!なんか凄いなあ!」


訪ちゃんはちょっと感動したのか興奮気味だ。


でも確かに物凄い事だ。


なんか赤松け再興の話は働く人のドキュメンタリーの番組を見ているようなそんな気分にさせられるのだ。


「赤松の遺臣達は嘉吉かきつの変で浪人になったことを利用して『どこの家でも雇われないから南朝を強くして幕府を滅ぼしたい。』って言って近づいたの。後南朝の方も衰退すいたいしていたから一人でも多く家臣がほしいという事で赤松の遺臣を迎え入れたわ。そして赤松の遺臣達は時が経つのを待った。」


「すぐに行動を起こさずに待ったんですか?」


せっかく入り込んだのに行動しないのって、普通なら真っ先に動きそうなものだけど確実性を優先したのかな?


「赤松の遺臣の行動は慎重だったわ。神璽の場所を探り出すために甲斐甲斐かいがいしく後南朝に使えて信用を少しずつ得ていった。そしてついに手に入れたの神璽の保管場所を。」


「うお!遂に成し遂げたんやな・・・忍耐強く頑張った結果やで・・・」


そう言って訪ちゃんは興奮を抑えきれない様子で手を握りしめていた。


「神璽は奥吉野おくよしのにあったの。吉野は昔から勤王心きんのうしんあつい土地で特に南朝に忠誠心が高かったわ。でも赤松の遺臣は慎重に事を運んで南朝の皇子を討ち取って神璽を取り返したの。」


そう言ってさすがの先輩も興奮していたのかいつもよりも声のトーンが弾んでいるような気がする。


流石に私もテンションが上がってしまう。


「ホンマに凄いなあ、15年幕府が取り返せんかったんは赤松の遺臣が雌伏しふくして確実に取り返したからか。」


訪ちゃんはそう言って感心するばかりだ。


「だけどその後が簡単に行かなかったわ。南朝を支持する吉野の住民が反撃に出て赤松の遺臣から今度は神璽を奪還するの。」


赤松の遺臣達が神璽を奪還したと思ったら再び奪い返される手に汗握る展開に訪ちゃんはギュッと握りこぶしを2つ作る。


「でも、赤松の遺臣達は焦らなかった。普通だと焦るわよね。でも奪還された神璽を再び取り戻すために慎重に行動し調査した結果、今度こそ本当に神璽を取り返すの。」


「おお!滅ぶ時もめちゃくちゃなら復活する時も無茶苦茶やな。普通にこれ忠臣蔵ちゅうしんぐらよりも凄いんちゃうか?」


先輩も満足げに頷く。


「そう言えば忠臣蔵も播磨の国の話よね。」


私は忠臣蔵のことが分からずただフンフンと話を聞いていた。


「今度はうまく吉野を脱出した赤松の遺臣は神璽を朝廷に返還して南朝の皇子の首を幕府に引き渡したわ。朝廷も幕府もこれには大喜び、赤松家の再興の約束をすぐさま果たして加賀国を半国与えて赤松家を再興したの。」


先輩が長い再興の話を終えたと思ったらさっきまで興奮していた訪ちゃんが不思議な顔をした。


「あれ?でも赤松って戦国時代の頃には播磨の支配をしてるよな?」


そう言って首を傾げた。



私はあまり詳しくないけど赤松家のお家再興の大団円を迎えてただただ感心するばかりだ。


先輩は訪ちゃんがそう言うのを分かっていたのか再び口を開くと


「赤松の仇敵きゅうてきは山名よ。山名宗全は応仁の乱では西軍、じゃあ赤松は西軍に付くかしら?」


先輩が尋ねると訪ちゃんはハッとした顔をする。


「山名が西軍についたから赤松は東軍に付いたんか。」


先輩は訪ちゃんの答えに満足気に頷くと


「そう、赤松はもともと播磨の領主だったことから播磨に侵入すると瞬く間に播磨の山名の勢力を追い出して、本当にあっという間に播磨の支配権を取り戻したの。その後旧領だった備前びぜん美作みまさかまでも取り戻したわ。ちなみに城下さん、備前と美作は現在の岡山県のことよ。」


赤松さんは勢いに乗って兵庫県南部だけじゃなく岡山県まで取り返したのだ。


それは途方も無い長い時間を掛けて果たした復活劇だった。


一つの勘違いから生まれた物凄い逆転劇に私の心も訪ちゃんの心もただただ驚きと感動が支配していた。


でも歴史は温かい大団円を用意してなかったみたいだ。


「その後は訪も知っての通りよ。赤松家は復活を果たして二代後の晴政の時代に赤松政秀、宇野、浦上、小寺、有馬らの一筋縄では行かない家臣たちに翻弄され衰退の一途を辿るの・・・」


先輩は物悲しげにそう言った。


栄枯盛衰えいこせいすい、歴史は常に勝者に優しいわけではないのだ。


「ごめんなさいね。良い終わらせ方が出来なくって。」


先輩はなんだかどう言っていいのか分からないのかそうやって謝ってくれた。


「そんなもん、それが歴史やからな。」


訪ちゃんは赤松さんが再び滅びることを分かっていたみたいだったけど、壮大な再興劇を聞かされた後だけに少し物憂ものうげだった。


「そうよね。始まりがあれば終りがあるものよね。」


明石城の天守台に少し冷たい風が吹いたような気がした。

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