二十八の城
まさか私の不用意な一言でこんな事になるとは思ってもいなかった。
油断とは言え
「歴史に詳しいんですねぇ。」
はなかったな。
「先生ほんまごめんやで。」
訪ちゃんは笑いをこらえながらも先生が真面目に説明しようとしてくれたことに対しては何ら悪意はなかったようで先生に頭を下げていた。
先生は口の中でフリスケをボリボリと
「ほんろしょうかないこたりれぇ、さすかのわらしもかまんれきなかったわ」
謎の言葉を発していた。
「先生口の中のフリスケを全部食べてから喋ったほうが良いですよ・・・」
大手門にボリボリとフリスケを噛み砕く音が響き渡っていた。
「ちょっと笑いすぎたわ。ホンマに申し訳ない・・・先生もたまには真面目に教えようと思ってくれた気持ちは、うちは嬉しいと思ってるんやで。」
訪ちゃんは再度謝罪する。
先生は訪ちゃんの最後の言葉を聞いて怒った顔が少し優しくなった気がした。
「私も不用意な発言をしてしまいました。本当にすみませんでした。」
私も訪ちゃんに続いて先生に頭を下げる。
先生はボリボリゴックンとフリスケを飲み干すと急に大人の顔になって
「ほんとにしょうのない娘達ね。あんた達を相手にしてると糖分が足りなくなるわ。でももう良いわ。訪がちゃんと私に謝るなんて奇跡だし、今回だけはその下げた頭に免じて許してあげる。」
そう言って再びフリスケを3個、口に放り込んだ。
先生糖尿病・・・大丈夫だよね・・・?
「訪、城下さん、天護先生が折角やる気になってくれてるんだから、その気持ちを挫くような事をするのは本当に良くないと思うわ。もう絶対にしないでね。」
今度は虎口先輩が怒った顔で注意する。
そう言われると事の発端は私なのだから本当に面目次第も無い・・・
「ホンマに申し訳ない・・・」
訪ちゃんは先輩にも素直に頭を下げた。
「先輩、私の不用意な発言が悪いんです。訪ちゃんは・・・笑い過ぎたかもしれないけど・・・事の発端は私ですから。すみませんでした。」
私も頭を下げる。
私達の態度を見て先輩は
「あゆみ、終わり終わり、もう私も怒っていないわ。そんな事よりも門に入りましょう。後30分くらいしか時間がないし、枡形内部を見て解散よ。」
天護先生が手を打つといち早く一の門を潜っていった。
「ほんとにもうしないでね。」
私達に一言注意すると虎口先輩はいつもの優しい顔に戻って先生の後を追いかける。
私と訪ちゃんは顔を見合わせて二人を追いかけた。
門内に入ると目の前には迫力のある大きな石が3枚と白く大きな
先に門を潜っていた天護先生と虎口先輩は二人で多聞櫓を見上げていた。
「お城ってね。ここ凄いなあとか、ここから写真を取ると格好いいんだろうなって思える場所はもう鉄砲の的になっているのよ。」
虎口先輩は多聞櫓を見て詩人みたいに
「そう言われるとなんとなく怖いですね・・・」
私が立っている場所も鉄砲の的だということだ。
「建物がよく見える場所ってことやからな。」
訪ちゃんが分かりやすく説明してくれた。
そうか、よく見える場所って言うことはお城の高いとこから見通しが良いってことだもんね。
「守りのために効果的に作った結果なんですね。」
私ももう戦争のための建物だって言うことは分かっているから何も驚かなかった。
「大手門は一の門、渡櫓門、多聞櫓で四角く囲うようにつくっているでしょ。これを
天護先生はぐるっと囲われているこの空間を枡形と教えてくれた。
「枡って四角い器のことですよね。」
私は確認するようにそう言うと
「そうよ。門を全部閉めちゃうと枡みたいでしょ。こういう区画の構成を枡形というの。枡形には2種類あって
外枡形?内枡形?私の聞き慣れない言葉だった。
「内枡形は城の内側に四角く区画を作る形態で、外枡形は城の外側に枡形だけ露出させる形態や。」
訪ちゃんは人差し指を立てて教えてくれた。
天護先生が真面目に教えてるのを見て訪ちゃんも嬉しそうだった。
「外枡形は外に枡形を露出させて逆に攻めてくる敵をお城側から攻撃する区画のことを言うの。枡形の部分だけが露出しているから敵から四方八方攻撃される可能性があって、損害が大きくなる可能性があるけど、防御側も攻めてくる敵をより多くの味方で迎撃できるし、敵が怯んだらチャンスを見て外に出て攻撃することを主眼においてるの。内枡形の場合は一の門が攻められている間は正面の敵しか攻撃できないわ。だから
天護先生は多聞櫓に空いている穴を指差した。
あそこから鉄砲が出てくるんだ。
私はそう理解した。
初めて大手門に入った時の圧迫されるような感覚ってこれが理由だったんだな・・・
私は大手門で初めてお城が持つ本当の荒々しさに触れたような気がした。
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