二十四の城

ここは博物館はくぶつかんだ。


なのにどうして私は膝から崩れ落ちてしまったのだろう。


私の脳内でたずねちゃんの


「全部・・・嘘や・・・」


と言う言葉が木霊こだましていた。


あんな壮大な家族の物語が全部嘘だったなんて・・・


あまりの衝撃に身じろぎも出来ない私を訪ちゃんが背中をポンポンと叩く。


「ごめんなさいね。私笑いのセンスがあまりにもなかったわね。」


虎口こぐち先輩は丁寧ていねいに頭を下げて謝罪してくれた。


あれが笑いだったの・・・まさか・・・私はなんとか声を絞り出して


「・・・お笑い・・・じゃあ二人のあの辛そうな顔、震え、涙は全部演技だったんですか?」


と質問した。


訪ちゃんは『ダハハ』と笑うって


「あれはさぐみんがあゆみ姉の話をむっちゃくちゃ真剣に聞いてたからあまりの面白さに笑いをこらえてたんや。」


あれは面白すぎて笑いを堪えすぎた結果生み出されたものだったのだ・・・


「じゃあ・・・先輩のあの話は・・・」


虎口先輩はほおに手を当てて


「訪がボケろって目で合図してきたから・・・」


そう言って困った顔になって。


「私ってボケが苦手でしょ?だからはじめはどうしようかって思ったけど、なんとか即興そっきょうで考え出したて作ったの。それがここまで城下さんをがっかりさせちゃうなんて・・・話が長すぎたかしら・・・私、やっぱりセンスが無いのね・・・」


そして先輩はメモと赤のボールペンを取り出すと『ボケ→長すぎダメ!』と手早く書いて文字を囲うように丸をつけた。


訪ちゃんは心配そうに


「どないしたんや、プルプル震えて、確かに作り込みすぎやったから途中でほんまの話かと錯覚さっかくしそうになったな。」


と言って私の体をささえ起こしてベンチに座らせてくれたが、私は顔が涙と鼻水でグチャグチャになってしまっているのを見せたくなくって


「ちょっとトイレで顔を洗って来ます。」


と絞り出すような声で伝えトイレに入った。


私がトイレに行くのを見送った訪ちゃんと先輩は


「ボケてるって言うのを分かりやすく話したつもりなんだけど・・・やっぱり笑いを取るって難しいわ・・・」


「アホやなぁ、あんな迫真はくしんせまった顔して話したら信じてまうやろ・・・もっと手軽なボケはなかったんか・・・」


城下しろしたさん、笑いにきびしいから私のつまらない話でがっかりさせちゃったのね・・・」


「ちゃうちゃう、あれは信じすぎて嘘やったんがショックやったって顔やったわ・・・」


「そんな事ないわ、だって城下さんっていつも体当たりで笑いを取りに行く人じゃない・・・」


と二人は話し合っていた。


私はトイレで一人になるとボーッとしながら洗面台で顔を洗い流した。


顔を洗ってスッキリするとなんだか元気が出てきてふつふつと湧き上がってきたものを私は自然と吐き出していた。


「センス・・・ありすぎじゃあぁぁぁい!昼ドラ作家か!本当の家族になれた・・・?全米が泣いたわ!」


私はひとしきり一人で突っ込むと心の中の全ての憂いが取り除かれた気がして晴れやかな気持ちになっていた。


爽やかな顔でトイレから出て行くと先輩は私の前に駆け寄ってきて。


「大丈夫?上手く笑いを取ることが出来なくてごめんなさい。」


虎口先輩はまだ勘違いしていたが私の両手を握ってまゆひそめて顔を心配そうに見つめる。


「ぜ・・・全然大丈夫です・・・」


眉を顰めて困った顔の先輩もまた美人だった。


自然とそういう行動を取れるなんて、天然のたらしだな。


私は頬が紅潮こうちょうするのを感じると恥ずかしくなって目を反らしてしまった。


「あはは・・・まさか、あの話が嘘だったなんて確かにびっくりしちゃいましたけど・・・でも本当に大丈夫ですから。」


虎口先輩は顔を洗ってスッキリとした顔を確認すると


「分かったわ。私も今度はちゃんと上手く笑いを取れるように勉強するから。」


先輩はどうも私がショックを受けたことを笑いに厳しいからだと勘違いしているようだった。


『先輩・・・そこじゃないですよ・・・』


私は心の中で訴えていた。


「あゆみ姉、ボケが上手くなかったからさぐみんが怒ってるとずっと勘違いしとるわ。」


訪ちゃんが私の心を代弁してくれたが意外と思い込んみが激しい虎口先輩にはその言葉は届いていないようだった。

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