濡れ衣で追放されるも、のちに賢者であることが判明〜いつの間にか追放された世界一のギルドが衰えてたんだが?経営傾いてきたから帰ってこいとか言われてももう遅い〜

@サブまる

第1話 追放

 トーラ・フロスト。今年で16を迎える魔法使いである。

 神童ともてはやされ、田舎の小さな村サーデルから王都トロウキヨに出てきてはや6年。

 僕は順調に冒険者として経験を積んでいた。


 着いてすぐに、世界で一、二を争うのメジャーギルド「聖剣の柄」にスカウトされた。

 理由は簡単で、僕が魔法を使ったのを、そのギルドの関係者が見ていたのだ。

 確か相手はゴブリン。十匹ほどいたので、範囲攻撃魔法を使ったら、「その年でそんな魔法が使えるのか?!」と。


 ただ、不運なことに、その人は僕をギルドに加入させたあと、遠征ですぐに死んでしまった。


 僕はあまりコミュニケーションが得意なわけではなく、いつもその人を通じて他の人とコミュニケーションを取っていたので、ものすごく困った。


 世界トップともなれば、当然ギルド内での競争も激しい。


 察しの通り、年端も行かない、さらにはコミュニケーションも取れない僕の居場所は徐々になくなっていった。


 僕の得意とする分野は、戦闘中の的確な判断と、手堅く魔法を行使することだった。なので、かろうじて、パーティーに寄生しては、そのパーティーに成果を上げさせることで、気前の良くなった冒険者のおこぼれをもらって生活していた。


 そして今日は、小隊遠征日。


 ギルド内のメンバー数人とパーティーを組んで、王都周辺の魔物を討伐しようというものだ。


 毎回辛うじてパーティーメンバーを見つけていたので、僕と進んで組んでくれる人間なんてほとんどいないと思っていたのだが、何がどう転んでそうなったのか、トップランカーの人たちと組むことになってしまった。


 全員世界レベルの有名人ばかり。


 剣聖のソレイド・アレクサー。大岩を一太刀で真っ二つにしたとか、大型獣を綺麗に真っ二つに切るとか、よくわからない武勇伝が語られている人だ。


 拳聖のキーラ・ホドノラ。細身の女性ながら、大気を殴った衝撃で、一キロ先の敵をピンポイントで粉砕するとか、訳のわからない武勇伝が語られている人だ。


 槌聖のオッド・スライ。戦闘が行われる際に周辺の村々に災害警報出される、まさに生きる災害。


 そして、最後に僕。


 サポート役が一人もいないチーム構成となっていた。


 僕以外は、みんなトロウキヨ武術学院の卒業生だ。


 冒険者は皆、そういった訓練学校に通うらしい。僕は田舎出身だったので、そう言った知識は一切なく、魔法も冒険術は全て独学と村の伝統から学んだ。


 正直、田舎と都会の情報の格差を恨んだね。


 それを知ったのはギルドに入ってからだったから、結局僕は今まで通えてはこれなかった。


 ギルドに誘ってくれた人曰く、僕くらいのレベルなら十分実践で身につけられると言っていたが、実際のところそう簡単にもいかず、ミスこそなかったものの、ここ6年で大きく名を挙げるには至らなかった。


 その代わり、縁の下の力持ちとして、得意の魔法で戦闘のサポートをしてはいた。

 普通に戦ってたら「あれ? なんかこいついつもより弱くね?」くらいの効果しかないので、いつもずーっとついてまわる金魚の糞扱いされてたけど。


 そんな僕が、なんだってこんなサポートなんて必要ない英雄たちのパーティーに組み込まれたんだ? 万が一怪我をしても、僕は回復魔法など使えないから応急処置しかできない。


 ギルドで口を酸っぱくして言われているのは、「後衛蔑ろにするべからず」。つまり、サポート役は絶対に連れていき、最優先で守れと言うことだ。


 サポート役は序列は上がらずとも、このギルド内では珍しくかなり立場が上だった。それをいいことに、横柄な態度を取る連中もいるくらいだ。


 冒険者の本質は攻。


 そんなサポート役を毛嫌いする冒険者も少なくなく、冒険者とサポート役には少なからず溝があった。でも、ギルドの言いつけは絶対なので破る人なんていなかったはず……それがどうして?


 出発したのが一週間前。パーティー内の平均値で行ける範囲が制限されているのだが、僕たちのパーティーは評価S。止まることなく、森の中を進んでいた。


「あ、あの……ここはS+制限エリアですよね……それにサポート役の方もいませんし、万が一の事があると……」


 先行く三人の背中に、細々とした声で訴える。


「あ? なんか言ったか?」


「い、いえ……すいません」


 ソレイド・アレクサーが、低い声で唸った。


 当然だが、僕の立場は決して高いものではない。なんせ僕は評価C。そしてこの人らは評価SSと、上から一つ下の階級なのだから。

 数学的に平均すれば普通はA+。評価Sに留まったのは、この人らがルールを遵守するとギルドと約束したからだ。

 Sとその下では、僕で言う田舎と都会くらい待遇が違う。Sは、ほとんどどこへでもいけてしまうのだ。


「こらこらー、そんな怖い顔しないの。荷物だって持ってもらってるんだから。安心していいのよ? トーラくん、有事の時は私が守ってあげるからね」


「は、はい……ありがとうございます」


 荷物を持たされるのは当然分かっていた。自分のものは自分で持つのが常識だが、常識外の人間にはとってはその限りではない。持ち物に何かあっても自分の力で解決できるから。


「け、黙って荷物持ちしとけよ。つか、俺を悪者みたいに言ってるがキーラ、てめえが一番持たせてるじゃねえかよ。なんだあの大荷物は」


「えぇ、乙女は色々必要なものがあるの。ほら、トーラくんだって快く持ってくれてるんだから、ねー?」


「は、はい……」


 正直、とんでもなく重いし今すぐ捨てたい。


「なぜ、トーラ殿は杖を持っていないでござるか?」


 疑問に思ったのか、オッド・スライが二人に尋ねた。

 僕も疑問に思っていた。他の魔法使いは杖を持っているのに、なぜ僕に杖は持ってくるなと言ったのか。

 正直僕的にはどちらでも良かったのだが、一つ気がかりなことを耳にしたことがある。


 魔法は杖がなければ使えないらしいのだ。


 妙だと思った。それが常識なら、杖は必須。そんな魔法使いに杖を持たずに森に入れと言うのは、死ねと言っているようなものだ。


「ああ、それね。アレクちゃんがサポート役大嫌いなのよ」


「ちゃん付けしてんじゃねえよ」


「ほう? 確かに、何もしてない割にはやたら横柄で、金だけはせびってくる、いけ好かない連中ではござるが。前はサポート役を入れておったでござろう??」


「アレクちゃんが、いいやつ見つけたーって言って、トーラくんをサポート役で登録したの。」


「うむ? パーティー登録は本人確認が必要なのではなかったでござらんか?」


 僕もそんなシステムがあったなんて初耳だ。


フェイク偽造が得意な奴にやらせたんだよ。こいつ、ギルドにあんま認知されてないしな。楽なもんだったぜ」


 遠征は初めてじゃない。何度か他のパーティーで遠征に参加させてもらっていたが、毎度杖は持ってくるなと言われていた理由が、サポート役を入れたくなかったからだなんて……。


「ま、そんなわけだ」


 残酷な事実に、がっくりと肩を落として、僕は三人の跡を追った。

 S+制限はダンジョン深層部に匹敵する。ダンジョンのボスとか、そういう超常的なモンスターが点在するエリアだ。


 評価SSの戦闘は、凄まじかった。なんというか、エネルギーがすごかった。先頭に関与した攻撃から小石に至るまで、全てが家屋を破壊できるほどのパワーを秘めていた。


 それでも僕はいつものように、縁の下の力持ちに徹した。

 味方の攻撃の瞬間に、敵の足を固めて、衝撃が逃げないようにするとか。

 逆に相手が攻撃する時は、足元を氷結させて滑らせるとか。

 斬撃が当たる部分を水で濡らして切りやすくするとか。


 遠征から帰って報告、使える素材を譲渡、報酬を受け取るといった流れを経て、一年に数回ある大仕事を終えた僕は、慰労会で馬鹿騒ぎするギルド一階の酒場を抜けて、宿に帰ろうとしていた。


 なんの前置きもなく突然、乱暴に肩を掴まれる。

 こんなことは初めてだった。


「おい、貴様。お前は確か魔法使いだったな」


 ギルド執行部の制服を着た、理的な男だった。


 遠征で偽装の話を聞いていたため、冷たい汗が頬を流れる。

 すぐそこに、遠征を共にした剣聖たちがいた。酒をアオって既に酔いが回っているようだったが、


「は?! てめえ! サポート役だって言ってただろうが! 俺たちを騙したのか!?」


 そう言うのは、先程自ら虚偽申請をしたと自供した、剣聖ソレイド・アレクサーだ。


「すでに調べはついている。身分詐称は重罪だ。ギルドの秩序を守るため冒険者界からの追放を命じる」


「え?! 待ってください! 僕は……」


「ひ、ひどい……トールくん、私たちを騙してたのね……」


 拳聖のキーラ・ホドノラ。すると、尻馬に乗るように、次々と声が上がった。


「何考えてんだよクソが! 俺たちが怪我してたらどうするつもりだったんだよ!」


 前、遠征を共にした連中だった。


「え……僕はあなたたちに誘われて……」


 あたふたする僕を、ギルドの執行部員は、容赦無く突き飛ばした。


「うわっ! っ、違うんです! 僕は……!!」


「二度と顔を見せるな。『聖剣の柄』の面汚しが」


 まるで、ゴミを見るような目。執行部員の人だけでなく、他の知らない冒険者たちもそんな目で、地面に張り付く僕を見ていた。

 ざわめく酒場内に、微かだが確かに僕を嘲笑うような声が聞こえる。


 ハメられた……。


 僕は涙を堪えて、蝶番の扉を叩いて出ると、自分の無知を責めながら、鉛色の空から弾丸のように降り注ぐ雨の中、ただ走り続けた。

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