第五話 輝
ヒラメやメバル、スズキなどを釣り上げ突き刺し、源之進はもどってきた。
小屋の前で火を焚き、串に刺して炙る。
ばちばちと薪が爆ぜ、うまそうな匂いが漂ってくる。
ほんのりと魚に焼け目がついてきた。
源之進が串のひとつを取ってたえに差し出す。
たえがにっこりと笑みを浮かべて受け取り、源之進が先にかぶりつくのを待ってから口をつけた。
「うまい!
「慌てずに食え。魚はもう逃げぬ」
「そりゃ、そうだね」
たえは山育ちで川魚は食べたことはあるが、沿岸の魚類は食べたことがない。天然の海の塩が魚肉の旨みを引き揚げることを初めて知った。
「源さん……」
源之進は食べ終わると、たえに背を向け海を眺めている。彼の頭のなかは剣術のことでいっぱいのようだ。
「なんで来た?」
ふいに源之進が訊いた。
「ここへは来るなといったはずだ」
「……でも」
「引き留めに来たのか?」
沈黙がわだかまる。
潮騒がたえの答えを促す。
喉元まで競り出た言葉を飲みくだすと、たえはいった。
「違う」
源之進が腰をあげた。
木刀を携え、波打ち際に向かう。
真夏の太陽に照らし出されて、源之進の体は眩いばかりに輝いていた。
つづく
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