第21話 馬車の中のお茶会

「なんだよ貴族の知り合いがいるなら早くに言えよ~」


「フフフ、生憎私は貴族ではないのですよ。フェローチェ・パーティーのメンバーと言ってもクエストには参加してはおりませんが」


「ほー珍しいな。じゃあアンタの仕事は貴族に招かれてお茶してウチのパーティーをご贔屓(ひいき)にって、そんなところか?」


「お気持ちはわかりますよ? "コイツ楽してるんじゃあないか"と、お思いなのでしょう。無理もないことです」


「いやいや。別にそんなこたぁ言わねぇよ。向き不向きがあるからな。俺ぁ外でバァーッと暴れてるほうが性にあってるんだ」


「まぁ、勇ましいこと。あ、よろしければここにある菓子などいかがです? 沢山ご用意していただいたのですが、私ひとりではとても……」


「ひゃあマジかよ! ラッキー! カトレシア、だっけ? アンタいい奴だな」


 ほのぼのとした空間にお菓子の香りが静に漂う。

 ヴァレリィは持ち前の明るさでカトレシアともう打ち解けていた。


(なんでこんなときに出会うかな~……やっと解放されたと思ってたのに)


 対照的にアンネリーゼの気分は重く、口数はないに等しい。

 隣ではしゃぐヴァレリィをよそに、カトレシアと目が合わないように外を眺めながら、都市に着くのを待った。


 だが時間と距離の解決は虚しく、カトレシアはアンネリーゼに話をふってくる。


「どうかされましたかアンネリーゼ様。さぁ、アナタも菓子などいかがです? まだ時間はかかりそうなので、昔話に花を咲かせたいと思うのですが……」


「いや、別に……」


「あ、そういやお前らって知り合いなんだっけ? なんだよ気になるじゃねぇか。是非聞きてぇもんだな」


「ヴァレリィ、余計なこと言わなくっていいってば!」


「ん~? ますます怪しいな。……なぁカトレシア、アンタとアンネリーゼってどういう関係なんだ?」


「ヴァ、ヴァレリィ! あぁもう、どうでもいいや……」


 とはいえ、この状況でひた隠しにするのは難しいだろう。

 間の悪さを悔やみながらも、アンネリーゼは場の流れに身を任せた。


「お久し振りですねアンネリーゼ様。お会いできて本当に嬉しい……」


「そ、そう……」


「驚きました。まさかパーティーを組んでらっしゃるだなんて……ご自身で立ち上がられたのですね」


「べ、別にそういうんじゃ……」


「ん? アンネリーゼはオタクんトコのパーティーにいたのか?」


「えぇ、かつてのメンバーでともに仕事を……」


「あの! その話はあんましないで。あそこのことは思い出したくないから」


「……そうですか。ではやめましょう」


「おいおい気になるじゃあねぇか。なんかあったのかよ」


「一身上の都合、って言っとく」


「チェッ、はぐらかしやがる」


「ふふふ、もう仲がよろしいんですね。羨ましいですわ」


 まるでアンネリーゼとの対等な関係を望んでいるかのような物言いに違和感をぬぐえない。

 パーティーにいたときでさえほとんど話したことはないのに、こうも興味を持たれているのは確かに悪い気はしないのだが、それがカトレシアとなれば話は別だ。


 得体の知れないなにかに覗きこまれているようで、一瞬目を逸らしてしまう。


「おふたりはいつからパーティーを組んでいらっしゃるんです? 是非お話を聞きたいです」


「おう、今日からだな。つか今日出会ったばっかだな」


「まぁ! そんなに早くふたりは絆を結ばれただなんて……」


「絆ってそんな大げさな……」


「そんなことはありませんわアンネリーゼ様。あぁ、パーティーを離れられたときはどうなるかと心配いたしましたが本当に立派になられて。……────でしたら」


 カトレシアはぐっとアンネリーゼに詰め寄って、顔を至近距離まで近づける。


「是非ふたりきりでお話しできる機会を設けましょう」


「え、いや、あの……」


「恥ずかしがることはありません。カウンセリングでもなんでもない、ただのガールズトークですよ」


「だからなんでよ!」


 カトレシアは結論を先走ってアンネリーゼに詰め寄るので、そこまで至った過程や目的がまったくわからない。

 なぜ自分とこんなに話し合いたがっているのかもわからないので、これを機に聞いてみるのもいいかもしれないと思った。


 苦手な相手ではあるが、ことあるごとに誘われたりつきまとわれたりするのは嫌なので、一応は真実を知っておきたい。

 そっと向かい側の席に戻るカトレシアは微笑みながら話す。


「あら、不思議ですか? 私の知り合いで同い年なのはアナタくらいなものなのです。普段は年上の方々や仕事の間柄で話すことが多いので、是非お友達としてお話がしたいのですよ」


「……ハァ、んで、選んだのが私?」


「はい、それ以上の理由が必要ですか? 同い年の同性と仲良くしたい。これだけではアナタに見合う女にはなれませんか?」


「ちょ、言い方! ……いや、まぁそこまで言うのなら」


「本当ですか! まぁ嬉しい……」


「でも、フェローチェには言わないでよ。いや、そもそもとして私がパーティー組んでるっていうのも言わないで」


「はい、わかりました。このことは誰にも言いません。ではまた手紙を出しますのでお返事を」


「う、うん……」


「ありがとうございます。今日は嬉しいことが続きますね。さて、私も少しばかり菓子を……あら?」


「あぁ悪ぃ。話長ぇからよ。全部食っちまった」


「ちょっとヴァレリィ! 私も食べたかったのに!」


「え、食いたかったのかよ! だんまり決め込んでるからいらねぇかと」


「んなわけないでしょ! ……ハァ、もう」


「困りましたね。私も食べたかったのですが」


 ギクシャクとした雰囲気の中、馬車は都市へと到達する。

 アンネリーゼからすれば余計な気苦労が積み重なったが、馬車の乗り心地は良かったので、とりあえずそれでよしとした。


(そう言えばカトレシア、たまに私の足元を見てたけど……まさか、クライメシアが潜んでるのに勘づいた? いや、まさかね)

 

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