第5話 回転機構【天国への車輪】は容赦しない

 謎の音に、誰かが恐怖のあまり生唾を飲んだ瞬間、『奴ら』は襲いかかってきた。


 巨大なウニのような岩系の魔物だ。

 高速で転がりながら隊列に膨大な群れで突っ込んでくる。


 防壁魔術を張り巡らすが、四方八方から隕石のように降り注いだ。

 


 今にも突き破りそうな勢いに、撤退を余儀なくされる。


「隊列を崩さず互いを守りあってください!」



 そんなときだった。



「皆さん、私が時間を稼ぎます」


 アンネリーゼが回転機構を片手に、前へ出る。

 すかさずグレイスが彼女の肩を掴んだ。


「危険すぎます! これだけの数をひとりでやる気なんですか!?」


「戦闘なら経験があります。だから行ってください。私は元々部外者ですし、無理矢理着いてきたようなものです。正規のアナタ方の安全が優先です」


 頑としてグレイスの説得を聞かないアンネリーゼ。

 姉のラクリマも唇を噛んだ。


 自分たちも残るとグレイスもラクリマも言ったが、アンネリーゼは断る。


 この姉妹はある意味で、命の恩人なのだ。



 久々に、自分の才能を誉めてもらえたことが素直に嬉しかった。

 ならばあとは身体を張るのみと、アンネリーゼは覚悟を決めた。


「生きて戻れたら、一緒にお話とかしてくれますか? なぁんて……さぁ行ってください」


 猛攻で防壁魔術がコナゴナになった直後、アンネリーゼとを隔離するようにまた新たな防壁魔術が顕現する。


 アンネリーゼをターゲットにした魔物や、隊列を追いかけるように魔物が動き始めた直後。 



 ────ギャギャギャギャギャギャギャッ!!



 魔力を帯びた回転機構が突然うなりをあげて超高速回転しながら解き放たれる。


 太く長いワイヤーが延びており、それはまるで猟犬のように自在に動き回りながら魔物たちをコナゴナにしていった。

 ときに鎖つきの鉄球のようにブン回し一掃するなどのパワースタイルも披露する。


 

 しかし特筆すべきなのは回転機構の性能だ。

 まるで自分の意思を持っているかのように、魔物を追い回している。


 それに合わせて柔軟な立ち回りをするアンネリーゼとはまさに一心同体の領域だ。


 前と後ろから襲いかかってきたとき、両足を前後に大きく開くように驚異的な柔軟性で前屈し回避した。


 その隙を狙い装甲を食い破る。


 

 ────かの回転機構の名は『天国への車輪ヘブンズ・ウィール』。

 彼女の一族が代々受け継ぎ、作り上げてきた魔導技術の結晶。


 互いにシンクロめいた動きを繰り返していくと、魔物たちの数も減っていった。


 アンネリーゼの魔力と回転機構の回転パワーにより、相手の装甲を削り、分解し、破壊する。

 ときには壁や床にぶつかった際の衝撃の波紋で魔物を吹っ飛ばした。



 これまで以上の大仕事だ。

 汗だくで息を切らし、最後の1匹を倒したところでひと息つく。


「お゛、お゛わ゛っ゛だ……。意外に、いけるものね。アハハ……」


 熱気を上げながら休止するヘブンズ・ウィールを隣に、アンネリーゼは自らの幸運に感謝する。


 ぐったりと寝転んだときだった。

 仄暗ほのぐらい通路の先で、巨大な影を目の当たりにする。


 さっきとは比べ物にならないくらいに大きな例の魔物だ。

 きっと親玉なのだろう。


「ち、ちょっと待ってよ。連戦でボス級とか……くそう」


 どこまで戦えるかわからない。

 魔物は容赦なく転がってくる。



 ────覚悟を決めたそのときだった。


 ……ジャリ、ジャリ、ジャリ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る