第9話 真実

 ここは麗子ママが救急車で運ばれた病院。

緊急入院を余儀なくされた特別室には社長が付き添った。

救急で治療が行われ命に別状がないことがわかったものの

睡眠薬を多量に飲んだためか意識はしばらく戻らなかった。


『・・・あ・な・た?』麗子ママはうっすらとまぶしそうに目を開けた。

『麗子!大丈夫か!なんでこんなことを・・・』

『私、、、』

『いいんだ。いいんだ。今はゆっくりやすみなさい』

社長はやっと意識が戻った麗子ママに最大限の優しい声をかけて

そっと前髪に触れた。

医者からは処置が早かったので命に別状はないけれど

あまりに痩せ細って栄養失調状態でその方が気にかかるとのことで

まずは意識が戻ったら点滴と平行して少しづつでも食事を

取るようにと指示されていた。

『あなた、ごめんなさい』

『何言ってるんだ、お前が悪いんじゃないよ』

『・・・いいえ。こんな迷惑かけてしまって』

『大事に至らなくてよかった。おまえがどうにかなってしまんじゃないかって心配で心配で気が気じゃなかったよ』

『私、どうにかしちゃったんだわ』

『さあ、安静にしてゆっくりやすみなさい』

『いいえ、あなたにどうしても聞いてもらいたいことがあるの。どうしてこんなことになったかって』

『この前のあのことがあったからなんだろう。それはもう終わった話だからな』

『いいえ、あなたの浮気は今、始まったことではないじゃないですか』

『そんなことはないが、、、』

『私、最近自分が分からなくなってしまって。何のために生きているのか?

何しても意味がないように思えて仕方がないの。

何してもつまらないし何を食べてもおいしく感じないし全部

無意味な気がしてそう思うようになったら生きてても仕方ないかなって』

『麗子!何言っているんだ!お前には怜香がいるだろう。母親なんだからこれからしっかり育てるっていう責任があるだろう。それって意味があることじゃないのか!』

『怜香は私の命よ。でもね、私がいなくても育つわ。あの子は強い子よ』

『もうやめてくれ。そんなこと言わないでくれよ。今まで仕事、仕事で

家のこと何も見てなかったようだ。これからは早く帰るしみんなで仲良く暮らそうな』

『嬉しい、、、あなた。そうね、こんなこともうしないわ。時間かかるかもしれないけど自分の生きる意味を探すわ』

『そうだよ。怜香のためにもそうしてくれ』と社長はほっと胸をなでおろした。

自分の失態で妻を失うという罪悪のシナリオから運良く回避することが出来て

今までの生き方を変えなくてはと一瞬心によぎったが

やはりそうはいかなかった。


『もしもし由美子か、すまんこんな時間に』社長はそっと病室を抜け出し電話BOXへと急いだ。

『あっ!あなた、どうしたの?びっくりした!こんな深夜に珍しいじゃないですか』

『実は大変なことが起きてしまったんだ』

『何?大変なことって?まさかお嬢さんが?』

『いや、うちのが救急車で運ばれて今、病院なんだよ』

『えっ、奥さんが入院したの?どこか具合が悪いの?』

『ちょっと詳しくは言えないが命には別状ないから心配いらないのだけど

しばらくの間うちのやつの面倒みなくちゃいけなくて会うのが難しくなったんだ』

『あなた!そんなのいやぁー!なんで私ばかり我慢しなくてはいけないの

なんでいつも待つばかりなの』

『そう言わないでくれよ』

『やっぱり私このままじゃいけない気がするの。今からそこへ行くわ。どこの病院なの!』

『由美子!いい加減にしてくれよ、おまえのことは可愛いと思ってるし大事にしたいよ。でも少し時間をくれないか?こっちの都合もあるんだよ』

『私、都合のいいだけの女ってこと?もう分かったわ!』とガチャと電話が切れた。


 社長の浮気は昔からで

そのことは麗子ママもうすうす感ずいていた。

ただ今回のような攻撃的な相手は初めてで少し面食らってはいたものの

いつものこととそれほど気にしていなかった。

それよりも精神的な脆さからか拒食症に陥り

激痩せになり立っているのも困難になっていた。


その夜から社長の浮気癖はしばらくの間なくなった。


『美涙さんお願いします』

まあ、新規のお客様だわ。

なんて素敵な感じの人なのかしら?

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