第2話 カティアとの共闘
マリカの家の一階部分は店舗となっていて、雑多に置かれた道具類が売られている。これらはマリカが収集してきたガラクタをリペアスキルで直した物や、用途の分からないジャンク品だ。
「ウチは代々続くジャンク屋でさ、今は私とお姉ちゃんで経営してるんだ。全然儲からないんだけどね」
「そうなんですか? 使えそうな物がいろいろあって、とても興味深い品揃えだと思うのですが」
「こんな怪しい店で買いたいって人は少ないんだよ」
無人のカウンター内を覗き込み、姉がいないことを確認して”今日は休みです”と書かれた吊るし看板を取り出す。
「お姉ちゃんは外で仕事か」
「マリカ様のお姉様は別のお仕事もされているのですか?」
「ジャンク屋の稼ぎだけでは生活費には足りないから掛け持ちしてるんだ。私も出張修理とかもしてるし」
依頼があれば街中どこでも出向き、リペアスキルを使っての修復作業も請け負っていた。リペアスキルとはかなりレアな能力でこの街ではマリカだけが所有している。そのため重宝されているのだが、中には物を直すだけで金を取るのかと見下している人達もいるのが現実だ。
玄関を開けると眩しい陽の光が差し込んで思わずマリカは目を細くする。インドア派で暗い環境の方が好きなマリカには太陽光が少々キツい。
「マリカ様、日傘があればわたしが差しますよ?」
「大丈夫大丈夫、すぐ慣れるから。私は吸血姫と同じでさ、夜の方が活動しやすいんだ。まあでも夜は危ないからね」
笑いながらそう言い、マリカは店の裏手に停めてあった大型の四輪駆動車に乗り込む。そしてエンジンをスタートさせるが駆動音は案外静かだ。
「これって旧世界では自動車って言われたんでしょ?」
「はい。車は一般的な移動手段ですよ。特にこのタイプは魔道エンジン搭載型なので、ガソリンや電力充電の必要が無いことから人気でした」
「そうなの? この街じゃあ所有してるのは私だけで、コイツもやっとの思いで修理できたんだ」
敷地から四駆で道に出ると、確かに街の道路を行き交うのは馬車ばかりで車は見受けられず、現代では原始的な移動手段を主としているようだ。
「カティアは旧世界がどうして滅亡したのか知ってる?」
「いえ、その前に壊れて破棄されてしまいましたので・・・・・・」
「そっか。現代には旧世界の残骸や遺物が沢山残されて、それらから推測するに旧世界は機械で満ち溢れていたんだね?」
「機械はありふれた存在でした。人々の生活はそうした物によって便利になりましたが、魔物の脅威は常に付き纏っていました」
「旧世界も今も、魔物が人類を脅かしているのは変わらないんだねぇ」
マリカの住まう世界にはかつて高度な文明が栄えていた。しかし何故か滅亡してしまい、僅かに生き残った人々が新たな社会を作り出したのである。
それから長い年月が経って人口もかなり増えてきたのだが、文明レベルは旧世界に全く及んでいなかった。歴史学的に言うならば産業革命の起こっていないヨーロッパのようなものだ。
「タイムスリップできたら旧世界を見てみたいなぁ」
「わたしが知っている範囲であればお話しいたしますよ」
「じゃあ帰ったらたっぷり聞かせてもらおうかな」
街外れにある門に辿り着き、門兵がマリカの四駆に近づいてきた。
「やあマリカ。またその機械馬車でピクニックかい?」
「機械馬車じゃなくて車だよ。それにピクニックじゃなくて商品の仕入れ」
「そいつはご苦労さん。で、その娘は?」
「この娘はカティア。私の・・・友達」
「マリカに友達がいたのか」
失礼なヤツだなとマリカは睨みつけ、早く門を開けるように手でジェスチャーする。
「分かってるとは思うけど街の外では魔物と遭遇する危険がある。気を付けるんだぞ」
「もち分かってる。ご心配どうも」
「一級魔導士のマリカには余計なお世話だったね」
門がガラガラと音を立てて開き、門兵に敬礼して街の外に出た。
街の中は比較的綺麗に整備されて多数の建物が建っていたが、門を超えた先の外は荒廃して砂漠一歩手前のような景色が広がっている。しかし、それが人間の手が加わらない本来の自然の姿なのだろう。
「あのマリカ様、魔導士というのはどのような?」
「空気中に含まれる魔素を取り込んで、体内で魔力に変換できるのが魔導士と呼ばれる人達だよ。魔導士は魔力で肉体強化ができるんだけど、それしかできないのが二級魔導士。それ以外にも特殊な能力を行使できるのが一級ってされるの」
「なるほど理解しました。わたしの時代では魔素に適合した人間ということで適合者と呼ばれていました」
「適合者か。そっちの呼び方のほうがカッコイイかも」
魔導士の人数は一般人に比べて少なく、その中でも一級に分類される魔導士は更に少ない。なので一級魔導士のマリカは貴重な人材と言える。
「マリカ様はリペアスキルを持っていることから一級なのですね?」
「そういうこと・・・・・・おっと、魔物がいる」
マリカは車を止め双眼鏡で前方に揺らめく二つの影を観察する。それらはただの動物ではなく、全長約三メートルほどの大きさを誇るサソリ型の魔物であった。
「チッ・・・オーネスコルピオか。アイツら厄介な敵なんだよね」
「どんな魔物なんですか?」
「かなり獰猛なヤツらで、両手のハサミは人間なんか簡単に真っ二つにできる。しかも尻尾の針からは鉄をも溶かす液体が出ているの。オーネスコルピオの個体数は少ないハズなのに運が悪いわね」
マリカは後部座席に置いてある剣を手に取り、車から降りる。
「わたしも援護します」
「魔物にダメージを与えられるのは魔導士だけだから、カティアはここに居て」
「それなら問題ありません。わたしの動力ユニットは魔道エンジンで、魔素をエネルギー源としています。魔道エンジンは魔力を精製できますから、魔具を使った戦闘も可能です」
「えっ? カティアに組み込んだ動力用の機械ってそんな大層な物だったんだ」
マリカは魔道エンジンだと知ってカティアに使ったわけではない。形が丁度合いそうだったからという理由で、その機械の効果などは把握していなかった。
「なら手伝ってもらおうかな。でも片手じゃ近接戦は無理だし、そこの杖を使って」
後部座席には人間の身長程の長さがある杖も置かれていた。木を削って作ったのであろう簡素な質感で、パッと見ではただの木の枝のようだ。
「その杖なら魔弾を撃てる。それで援護して」
「分かりました! カティア、頑張ります!」
車から離れて岩陰に身を隠し、攻撃のチャンスを窺う。敵はまだこちらに気がついていないようで並んでゆったりと歩行していた。
「アイツらの機動性能はハンパじゃない。車で逃げても追いつかれてしまうくらいにね。しかも地面を潜って奇襲をかけてくることもあるから厄介なんだ」
「どう戦いますか?」
「私が先行して敵の気を逸らす。カティアは敵の背後から魔弾で撃って。オーネスコルピオの尻尾さえ破壊すれば、後はどうにでも対処できる」
一撃必殺の尻尾こそが最大の脅威で、それさえ無力化できれば他の魔物と大差は無い。
マリカは意を決して岩陰から飛び出し、オーネスコルピオへと駆け出していく。
「こっちだ!」
敵の注意を引くようにわざと大声を上げて誘導する。それに狙い通りに乗ったオーネスコルピオはマリカを追って殺意と共に走り出した。
「マリカ様、なんて勇敢なお方・・・・・・」
カティアはそんなマリカの後ろ姿に見惚れつつ、自らの役目を果たすために杖を構えた。距離はそれなりにあるが射程範囲には入っており、しっかり狙いを定めれば直撃は可能だ。
「行きます! ズバーン!」
などと効果音を口にして杖に魔力を集中させて魔弾を放つ。
煌めく閃光はそのまま直進して一体のオーネスコルピオの尻尾を粉砕した。これで少しはマリカも戦いやすくなるだろう。
しかし魔弾の飛んできた方角からカティアの居場所を突き止め、ダメージを受けたオーネスコルピオが怒りながら地中へと潜った。
「マズい! カティア、そっちに敵が行った!」
マリカが叫びカティアに逃げるよう指示する。オーネスコルピオの地中潜行スピードは極めて速く、カティアの位置まで到達するのは一瞬のことだろう。
「援護にいきたいけど・・・!」
もう一体の無傷のオーネスコルピオと正面から対峙する形になり、これを突破しなければカティアの場所には駆け付けられない。背中を見せれば針で串刺しにされるか、巨大なハサミでスライスされるのがオチだ。ここはカティアにどうにか対処してもらうほかにない。
「あわわわわわ! 来ました来ました、ヤベーです!」
慌てるカティアはとにかく逃げるのに必死だ。幸い脚部は完全に修復されていたため歩行には問題ない。
「落ち着いてカティア! 魔弾で頭を破壊して!」
オーネスコルピオの体は固い皮膚に覆われ、さながら装甲のようだ。それを壊すのは容易でなく弱点である頭部を攻撃するのがベストである。そのためには冷静に立ち回る必要があるが、カティアは地中から飛び出したオーネスコルピオに驚いて目を白黒させている。
「おわーっ! ピンチです! エマージェンシーです!」
躓いて転んだカティアに、オーネスコルピオの鋭いハサミが迫った・・・・・・
-続く-
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