リビルドヒストリア ~壊れたメイド型アンドロイドを拾ったので私の修復能力《リペアスキル》で直してあげたら懐かれました。今後は専属メイドとして奉仕してくれるようです~

ヤマタ

第1話 ジャンク屋少女とアンドロイドメイド

 凍てついた風の吹く廃墟都市を一人の少女が散策するようにゆっくりと歩いていた。厚手のコートに身を包んだその少女は右手に剣を持ち、雪のこびり付いたゴーグルの下の目が周囲を見渡す。

 この廃墟都市はかつて栄華を誇っていたのだろう。崩れかけのビル、折れた電波タワーなどが今は白く凍りついて静かに少女を見下ろしていた。


「ここはハズレかな・・・・・・」


 少女の名前はマリカ・コノエ。ここから離れた街にてジャンク屋を営む十八歳で、今回は商品として使えるジャンク品の収集のためにこの廃墟都市を訪れていた。

 しかし見る限り目ぼしい物資は無く、過酷な環境にウンザリするマリカはそろそろ帰ろうとするが、


「魔物か、こんな時に!」


 マリカの近くに佇む傾いたビルから四足歩行の獣が三体現れた。体型は狩猟犬に似ているが、凶悪な顔は悪魔のように歪んでいる。

 魔物達は敵意と殺気を振り撒き咆哮を上げて威嚇してきた。


「やるしかないか」


 たった一人にも関わらず、数で上回る魔物に対しマリカは果敢にも立ち向かっていく。

 そして至近距離まで詰め、剣を一体の魔物の頭部に振りかざした。


「まずは一体!」


 正面から魔物の一体を切り裂いて、近くの魔物にも斬りかかっていく。

 しかし斬撃は回避され、大口を開けて鋭い牙を光らせた魔物がマリカに噛みつこうと反撃に移る。


「やらせるものか!」


 魔物の下顎に左手でアッパーを叩きこんで噛みつきを阻止し、胴体を剣で切り裂いた。これで二体目も倒すことに成功して最後の一体と向き合う。

 両者が間合いを測り、どちらが先に動くか我慢比べのようになっていた。


「くる・・・!」


 焦れて駆け出したのは魔物だ。四足を活かした素早い突進で距離を詰めてタックルを繰り出してくるが、マリカは冷静に敵の動きを見極めて剣を振りあげた。

 刃は魔物の首を斬り飛ばし、戦闘は終わって静寂が街を包み込む。


「ふう・・・・・・」


 魔物の増援がいないことを確かめマリカは一息つく。こうした魔物との戦いはよくあるのだが、やはり何度経験しても緊張するものだ。命のやり取りをするわけで、いつ殺されるか分からないという恐怖が無くなることはない。

 マリカはこんな苦労をしてタダで帰るのもなと、先程魔物達が飛び出してきたビルの中を最後に探索することにした。もしかしたら魔物の巣があって何か手に入るかもと思っての行動だ。


「ん? あれは・・・?」


 ビルの一階、その端っこに一人の少女が倒れていた。マリカと同じティーンエイジャーの幼さを残しているその少女はピクリとも動かず、どうやら死んでいるらしい。魔物に殺されたのかは知らないがマリカは恐る恐る近づいて観察してみる。


「人間・・・じゃない!?」


 人間そのものに見えるが欠損した左腕の内部は機械的であった。コードやパイプのような物が飛び出していて、少女の体内は人間とは違う構造を持っているようだ。

 それに興味を惹かれたマリカは少女を担ぎ上げ、白銀の廃墟都市を後にするのであった。






 長年の機能停止状態が解けて再起動の文字が視界内にポップアップする。そしてシステムが体の不具合を知らせるが、現時点で解決する術はないので無視して目を開いた。


「ここは・・・?」


 見知らぬ部屋にて目覚めたアンドロイドの少女は自分の置かれた状況を把握しようとする。しかしインターネットに接続できないし、位置情報も取得できずに孤立状態になっていた。

 休眠状態の間に何があったのかを把握するには自分で確かめるしかないらしい。


「おっ、動いた!」


 声がしてアンドロイドの少女は首ごと顔を向ける。するとそこにはタンクトップ姿の茶髪の少女が立っていて、興味津々な視線で見つめていた。


「修復はちゃんとできたみたいだね。しゃべれる?」


「はい。あの、あなたは?」


「私はマリカ・コノエ。あなたを拾ってきて、リペアスキルで修理したんだよ」


「マリカ・コノエ様、記録しました。専属メイドとして精一杯ご奉仕しますので今後とも宜しくお願いします」


「専属メイド!?」


 マリカは驚いたように目を丸く開く。メイドを持つような身分でもないと自認しているし、黒髪のアンドロイドの喋り方が本当の人間のような自然さがあることにも驚いているのだ。


「私は別にメイドは募集してないんだけどな・・・・・・」


「そうなのですか? でもメイドモデルであるわたしには仕えるべきお方が必要なのです」


「メイドモデル・・・? あなたは一体何者なの? どうやら機械人間のようだけど・・・・・・」


「わたしは日ノ本エレクトロニクス社製のアンドロイド、AS-06Fタイプです。汎用メイドとして設計されまして・・・・・・」


「・・・?」


 聞きなれない単語にマリカは眉をしかめた。アンドロイドとは滅亡した旧世界のロボットの総称なのだろうと推測するが、それにしても人間にしか見えない。


「まあいいや。あなた自身の名前はないの?」


「わたし固有の名前ですか? 以前はポンコツと呼ばれていました」


「ポンコツ・・・・・・つまりちゃんとした名前は無かったってことだね?」


「は、はい・・・・・・」


「そっか。なら・・・・・・」


 名前が無いと不便だろうとマリカは考えてあげることにした。AS-06Fタイプというのは型式番号で、彼女自身の固有名ではないことはなんとなく分かる。


「じゃあカティアってのはどうかな?」


「カティア、ですか?」


「気に入らなかった?」


「いえ、ステキな名前です!」


 そこで初めてカティアは笑顔になった。これまでは不安そうに縮こまっていたけれど、どうやらマリカに心を開いてくれたらしい。ロボットなら心と表現するのは妥当だろうかとは思うが、マリカはカティアから心を感じたのだ。


「ではさっそくご命令を。お申し付けいただければ何でも頑張りますから!」


「な、なんでも・・・そう言われてもなぁ」


「お願いします! 誠心誠意お仕事をしますから!」


「そ、それじゃあ・・・えっと、水を持ってきてもらおうかな。隣の部屋に容器に入ったストックがあるから」


「分かりました! お任せください!」


 指示を受けて嬉しそうなカティアはすたすたと隣の部屋に向かった。もし犬のように尻尾があればブンブンと振り回していることだろう。

 そしてマリカの言うように水の入ったポリタンクを運んでくるが、


「あわわわわ!」


 つまずいて盛大にズッこけた。顔面からカティアは床に倒れ、ポリタンクは宙を舞ってマリカの頭部に水をぶっかける。


「ああーーーー!! ごめんなさいごめんなさい!!」


「いや、うん、大丈夫・・・・・・」


 昔のカティアがポンコツと呼ばれていたことに少し納得するマリカ。だがカティアを叱ることはなく、逆にカティアに仕事を任せたことを謝る。


「私こそゴメンだよ。こんな状態なのに・・・・・・」


 マリカは髪にタオルを乗せつつカティアの左肩に手を置いた。カティアの修復には成功したものの、失われた左腕を直すことはできなかったのだ。


「いえ、右腕だけでもできる仕事でした。なのにわたしはまたミスを・・・・・・」


「ミスなら誰にでもある。万全な状態でないなら尚更にね」


 カティアは自分の不甲斐なさにしょんぼりとしている。機能には問題ないはずなのだが、失敗することが多いことが昔からの悩みのようだ。


「でもどうやってわたしを直してくださったのですか? 動力ユニットもなかったはずですが・・・?」


「私はリペアスキル持ちでね。その能力でカティアの体を直して、動力となる機械は前に拾っていたものが合いそうだったから組み込んだんだよ。でも私のリペアスキルにも限界があって左腕そのものを形成することはできなかったんだ」


「そうだったんですね。本当にありがとうございます!」


 心底嬉しそうにするカティアは情緒が豊かで、マリカはそんな彼女がとても可愛く思えた。ころころと変わる表情は本当の人間よりも愛嬌がある。


「よし、カティアの左腕を直すぞ!」


 マリカは拳を握ってそう宣言する。せっかく縁があって出会ったのだから最後まで直してあげたいという気持ちが高まったのだ。


「わたしなんかのためにそこまでして下さるのですか?」


「カティアのためだからだよ。元々私は人を幸せにするためにリペアスキルを使いたいと思っているから、これはその理念の一環になるものね」


「はわぁ・・・立派な方ですぅ」


 感心するカティアはマリカがまるで天使のように思えた。今まで出会った人間の中で群を抜いて尊敬できる相手だと確信している。


「カティアに組み込んだ動力機械を拾った場所に他にも機械があったんだ。そこならアンドロイド用の腕も見つかるかも」


「なるほど。ではわたしもお供します」


「うん。それじゃあ早速出発しよう」



 こうして二人の運命の歯車は回り始める。


 これは物を修復するリペアスキルを持った少女と、見捨てられ放置されていたアンドロイド少女の物語。


   -続く-

 





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