幼馴染みに惚れられた鹿島さんは嫌われたい!!

桐崎 春太郎

#1 嫌いになって

 いつも通りの朝。雨上がりの匂いが鼻をくすぐる。重い通学鞄を机に置いて教科書などを整理した。忘れ物に気づいてしまい少しがっかり。そして目の前を見る。やはり一番登校の永野和彦ながの かずひこがいた。校則を破った金髪とピヤス。そして焼けた黒い肌。立派な筋肉質な体。私の幼馴染みの永野だ。

 私は一時限目が何だったか確認して椅子に座った。そして適当に小説に偽造した漫画を読み始めた。暫くして永野に見られていることに気がついた。私達は幼馴染みだった。しかし、年を重ねるに連れ話すことは減っていった。今じゃ私は少し不良である彼にびくびくしてるくらい。

 しかし私は彼にじっと見られてる。私はゆっくり彼と目を合わせた。すると彼は八重歯の目立つ口を開いた。



「お前、俺と付き合う気ない?」



 冷たく、当たり前の事のような軽々しい告白だった。そうこれは世間一般でいう告白だった。しかし、私が受けた衝撃は喜びや恥ずかしさとかいう甘酸っぱい感情ではなくもっと血が引くようなあまり望ましくない感情だった。私は暫く口を魚みたいにパクパクして言葉を失っていた。彼は少しだけ顔を顰めた。

「聞いてんの?」

 私は恐る恐る口を開いた。

「永野、どういうこと?」

「そのまんまだけど。てか昔みたいに呼んでくれねーの?カズって。なぁ?アヤ。」

 私はドキリと心臓がなるのを感じた。私の名前は鹿島綾香かしま あやかだった。しかし私達は幼馴染みで、昔は“アヤ”と“カズ”と呼び合っていた。それは私達幼馴染みの特権だと言い合っていた。そんな色あせた忘れかけた記憶を彼は強引に引っ張り出し、私に思い出させた。

 昔の永野が私に笑ってアヤと言っているのは覚えてる。しかし小学校に入ってからそれはどんどん減っていった。最終的に苗字で呼び合った。何なら呼び合うときなんて滅多になかった。だから、男らしく低くなった声でアヤと呼ばれるのは衝撃的だった。

 永野は私に顔を近づけた。間近で彼の瞳に映る私が見える。私は思わず後ずさったが彼の力強い手で腕を掴まれてしまい離れられない。

「呼べよアヤ。カズって。付き合ってくれるか?」

 私は考えることなく彼の顔を押しやった。そして声を上げた。

「い、嫌!」

 永野の押された顔を軽く抑えた。少し痛かったのかな。なんて思う余裕はなく私は永野を睨んだ。しかし永野は悲しむわけでもなく私を見つめた。

「なんだ、もう俺のこと好きじゃねーんだ?」

「昔のことでしょ。」

 すると少しだけうつむいて零すように永野は言った。

「なんだ。結構本気にしてたのにな。」

 そんなのもう今さらだよ。私は席を外しトイレに行った。



 昔は、私の告白に冷たくあしらった癖に…。




 確か小学生の頃。クラスで人気だった幼馴染みのカズに私は恋をしていた。幼馴染みの特権を使って彼にアプローチした。しかしカズって呼ぶのは難しくなってきてしまった。私は彼に告白しようと決めた。小さな希望と勇気を心にかざし永野に思いを伝えた。けれど______

「何なん?幼馴染みだからって調子に乗んなよ。」

 彼はそう冷たく言って私をおいていってしまった。それからだ。あまりうまく彼と話せなくなってしまったのは。



 あのときは冷たかったくせに、何なのよ。私は胸が苦しいのを間近で感じていて嫌だった。

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