第2話 十文字家
「ここであってるのかなあ?」
十文字家はやはり山の奥地にあった。だが、しっかりと道路がひかれていたので見つけるのは容易かった。十文字家は予想したとおり塀が立派な屋敷だった。
俺は番地を確認しつつ、門の前に立った。
(チャイム、チャイムは……。あった)
ベルを鳴らすと、軽い音が屋敷から響き渡る。
「ごめんください! 響子探偵事務所の里月です! 依頼の件できたのですが!」
そう大声を出すと、ギィィと不気味な音を出して門が開いた。
勝手に入っていいということなのだろうか?
「勝手に入りますよ? いいですか?」
俺はしっかりと確認を取って中に入った。十文字家はまず庭のような場所に出る。そこは草木が生い茂っており、あまり整理されていないようだ。とりあえず道のような場所を進んでいると玄関が見えた。そこには竹内の姿があった。
「いやぁ、いやぁ! 遠くからわざわざお越しくださりありがとうございます。……おや? 朱音様は?」
竹内は不思議がるようにそう聞いた。
「申し訳ないのですが、朱音響子は多忙でして……。代わりに僕が担当することになりました」
竹内は一瞬だけ固まったのち、また笑顔に戻った。
「いやーそうでしたか。さあさ、お上がりください。十文字様がお待ちです」
そう言って玄関に入るよう促す竹内に連れられ、中に入る。
家の中はまさに西洋風な作りだった。上にはシャンデリアがぶら下がり、下には高級そうな赤マット。映画でよくみるトナカイの剥製なんかも置いてあった。
「失礼します……」
俺は靴を脱いで恐る恐るあがる。
「十文字様はこちらの部屋にいらっしゃいます……無口な方なのでご理解ください」
そう竹内が言うとトントンとドアを叩いた。
「十文字様。 響子探偵事務所の方です。失礼します」
そう言って竹内がドアを開けるので俺は背筋を伸ばした。
ドアの向こうには、これまた西洋風な部屋だった。書斎だろうか、本棚が多い。窓に向かって白髪の老人の後ろ姿が見えた。
「初めまして。里月奏多と申します。本日は朱音響子の代わりに来ました」
俺は緊張しつつも、そう言って頭を下げる。しかし、いつになっても返事はこなかった。
「……」
どうしていいのかわからず、困っていると竹内が下がるように指示を出した。
「それでは十文字様。失礼いたします」
そう言って扉は閉まった。
「すみません。十文字様はいつもああなんです。考え事があると全くお耳に入らない……。それでは、現場へ向かいましよう」
そう笑顔で言うと竹内は歩いていってしまう。
俺は書斎をしばらく見ると、竹内についていった。
本当に考えごとをしていたのだろうか? 俺には何も考えていないような、むしろ乾燥してとても寒いような何かを感じた。
「こちらでございます」
そう案内された場所は大きな庭園だった。草木がぼうぼうになる前はさぞ美しかっただろう。そしてそれを象徴するかのように中庭へのドアガラスが粉々に破壊されていた。
「これは……」
「空き巣の犯行で壊された窓です」
確かにこれは何やら鈍器で割られたに違いない。ひとまず見てみたが、特にたいしたものがない。庭を見渡してみると何やら井戸のようなものがあった。
「井戸、ですか?」
「はい。この土地は地下水が豊富でして、直接繋いでいます。まあ、今は蛇口がメインなので使っていませんね」
「へー、そうなんですか」
俺はそう言って井戸を除き見る。奥は真っ暗で何も見えない。ただ暗闇が広がっていた。
「すみませんが先に、お次に絵があった客室をご案内させて頂いてよろしいでしょうか?」
「あ、はい!」
竹内さんに背後から言われ、驚きながらも慌てて付いていく。中に入り、すぐの扉で竹内さんが立ち止まる。そして、ドアをゆっくりと開いた。
部屋の中はとても煌びやかだった。壁には美術館に並んでいそうな西洋の絵画が並べられていた。しかし、この部屋の一番目立つ壁にはなぜか何もかかっていなかった。
「この場所に絵が?」
「はい。さようでございます」
そう竹内は答えた。俺が部屋の中に入ろうとすると、竹内さんは腕でそれを防いでしまった。
「申し訳ございませんが、こちらの部屋には高貴な血を持つものしか入れないという規則がございまして……」
「でも、中を調べないと犯人の特定が……」
「申し訳ございませんが……ご遠慮ください」
そう頑なに言って、竹内さんは扉を閉めてしまった。
「では、私はこちらで失礼させて頂きます。調査はお好きなようにやってもらって構いませんが、書斎とこの客室には絶対に入らないようお願いします」
そう頭を下げると竹内さんはそそくさと行ってしまった。突然こんな広い屋敷で一人ぼっちになってしまったので困惑したが、いつものことなので調査を開始した。
まずは……。
俺は周りをきょろきょろとして、誰もいないことを確認すると客室のドアを開けた。
先ほど鍵がないのは確認済みである。本当はいけないことだが、現場も見ずに調査なんかできない。だからこれは正当な行いだ自分を正当化して入る。
中に入ったが、センサーやブザーの類がなかったので、安心して調査できそうだ。
俺は部屋の隅々まで目を通してみる。棚の後ろ、カーペットの下、カーテン。しかし、そのどこからも見つけることは出来なかった。
「うーん。ないなぁ……」
俺は手を壁に置き寄りかかる。
突然、右手に何やら柔らかくも硬い材質が手に着く。壁とは違う何か。俺は慌てて手を放す。ここは高級品の展覧会だ。何が原因で壊れては困る。しかし、俺が右手を置いていた場所は何もなかった。そこには相変わらず主が留守の空白があるのみだった。
気のせいか。そう思い別の場所を探し始めた……。
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