うるさい彼女と静かな僕

海音

#1

#1


うるさくも静かでもある駅のホームから一歩足を踏み出したらそこは知らない場所


「今日はここに決めた」


僕は小さく呟くとリュックからイヤホンを取り出して耳につけた。



初めまして、久里浜和希(くりはまかずき)と言います、これから宜しくお願いします。



ありきたりな自己紹介をしてから早くも4ヶ月ほどがたとうとしている、この4ヶ月友達と言えるほど仲の良い関係も築けずにいた


「べつにいっか」


そう言って後回しにし続けていたら、気づいた時には周りにはいくつかのグループができていて僕は孤立していた。


特段困る事は無いが、どこか羨ましく思う事もあった、そんな僕の趣味は"歩きながら音楽を聴く事"それも"知らない場所"で"知らない道"を歩きながら聴くのが好きだ。


そして今は学校の最寄駅から2時間ほど電車に揺られたところにある駅から歩き始めたところだ。


人混みが嫌いな僕は人気ない道を探して歩いて行く


1時間ぐらいたった頃だろうか、人気は一切ない舗装こそされているものの殆ど山道と変わらないような道を歩いていた。


その時、曲がり角を曲がった先に短い橋が見えたその橋の手すりに僕と同い年ぐらいの制服姿の女の子が橋の外側を向いて座っていた


「あっ、どうしたの?君」


女の子は僕に声を掛けて可愛げに首を傾げた


「どうしたって、そんな所に座ってたら危ないだろ」


僕は呆れ混じりに言った


「そっか、じゃあ立つ」


彼女はそう言うと徐に座っていた橋の手すりに立ち始めた


「ちょっ、何やってやんだよ!」


僕は慌てて彼女に近づいて彼女の手を引いた、強く引き過ぎて彼女は橋の内側に倒れてそれに巻き込まれるように僕も彼女に押し倒された


「ごめんごめん」


危うく死ぬ所だったと全くと言って良いほどわかっていない口振りで彼女は謝ってきた


「ていうか、制服同じじゃん」


彼女の言葉に釣られて僕は彼女の着ている制服に視線を移した


「てことは君も阿笠上高校?」


僕の問いに彼女は大きく頷いて答えた


「取り敢えず退いてくれる」


その言葉に彼女は慌てて僕の上から退いてスカートについた土埃をはらっていた


僕も立ち上がってズボンや袖についた土埃をはらった


「まだ顔についてるよ」


彼女はスカートのポケットからハンカチを取り出してそっと僕の頬を拭いた


僕はどこを見れば良いのか分からず明後日の方向を向いた


「照れてるの?」


上目遣いで僕の顔をじっと見つめてくる彼女に


「照れてねーよ」


と、言い放った


「へー!本当かなー?」


いたずらに笑う彼女を見て思わず思わず笑ってしまった


「やっと笑ってくれた!」


「え?」


「だって和希君いつも教室の隅で独りでいてつまんなそうだったから私が笑わせてあげようと思って」


首を傾げる僕に彼女は言った


「えっと...その、なんで僕の名前を?」


更なる疑問に彼女は目を丸くして驚いた


「え!だって同じクラスだよ!」


それを聞いて頭の中でひたすらクラスメイトの名前と顔を思い出す


「確かに居たような気がします..」


あやふやに答えると


「敬語とかやめて、友達なんだから」


何も言えずにいると彼女はまあ満面の笑みを浮かべて高らかに言い始める


「じゃあクイズ!私の名前はなんでしょう!制限時間は10秒でーす!」


急なクイズに動揺している間にも彼女は両手で指折り数えている


「....9、10」

「タイムオーバー!」

「答えは..."雨宮結花"でした!これから宜しくね和希君、後私のことは"結花"って呼んでね」


結花は手を差し出した、僕も手を差し出して握手をした


手を離そうとした時結花は勢い良く僕の手を掴み返して走り出した


「ちょっと何すんだよ」


「せっかくこんな遠くまで来たんだから何か美味しい物食べないと損でしょ」


そう言いながらも走り続ける結花に手を引かれて歩いてきた道を走って遡って行く


人通りの多い所まで戻ってきた時結花は辺りを見渡して


「あれだ!」


と、言って入って行ったのはソフトクリーム屋さんだった、僕も慌てて後に続いた


「和希君は何にする?」


「えっーと、チョコ味にしようかな」


「じゃあ私はストロベリー」


カウンターに行って注文してソフトクリームを2個受け取った


「はい、ストロベリー」


「ありがとう」


二人で外のベンチに座って初夏の青空の下でソフトクリームを食べた


「どうして死のうとなんかしたんだ?まさか本当に僕を笑わせる為だけにこんな遠くまで来るとは思えないし」


躊躇いながらも話を切り出した


「やっぱり..誤魔化せないか...」

「そうだよ、私死のうとした」


「しっ..」


「"死ぬな"って言いたいの?何も知らないのに良くそんな事言えるよね..」


僕の発言を遮るように彼女は話した


「あっ、ごめん、今のは忘れて」

「そうだ!笑って!」



パシャ



急にツーショット写真を撮られてびっくりしていても結花は容赦なく喋り続ける


「撮った写真送るからLINE交換しよ」


結花はスマホにLINEのQRコードを表示して僕に示した


「わかった」


スマホでQRコードを読み取って友達追加をした



ぴんこん!



「はいこれ写真」


「ありがとう」


送られてきた写真を見てスマホを閉じる


「そろそろ帰ろっか」


「うん」


二人で駅に向かって歩き出す、2時間ぐらい電車に揺られて自宅の最寄駅に着いた


駅から出ると見慣れた場所が広がっている、まさか最寄り駅まで同じとは思わなかった


「じゃあバイバイ」


僕が別れの挨拶をして歩き出すと


「ちょっと待って」


結花に止められて振り返ると、結花は急に僕の耳元に顔を近づけて


「今日のことは誰にも内緒だよ」


と、囁いた


結花は僕から離れて


「絶対に"これ"だからね!」


人差し指を唇に当てながら彼女は言った。





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