旧 時間外労働

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けっ。いいようにからかいやがって。

それにしても面倒だな。なんだってこんな日に呼び出されなきゃならんのだよ。

まあ、いつ呼び出されても嫌なものは嫌なのだが。


俺達が所属しているザフスト──正式名称なんだっけ──の業務内容は

主に土地の管理、ゴミの撤去、地球外部勢力との戦闘、、、

などとまあ、なんでも屋といったところだ。


今日はAGEが降下してきたので、非番だった俺に運悪く呼び出しが来たのだ。

本部は臨時呼び出しは完全にランダムだと説明しているが、本当かどうかは末端には判らない。出ろと言われたら出るだけだ。


っと、1100までに出頭するようにとあったので急がないと減給されてしまう。

出頭先は第3モビルスーツハンガーだったはずだ。

現在時刻は1046。ここからは10分弱。多分間に合う。


東西に通る中央通りの東端から少し南に行ったところにザフスト第三支部がある。

俺はいつも西木交差点から一本南の玉木通りを通って行くことが多い。

なぜかと言うと、、、大した理由ではないが、玉木通りには今では珍しい自生樹が枯れずに残っている。なんとなくそれを眺めるために通るだけだ。


交差点を曲がって玉木通りに入ると、何やら道に人が集まっていた。

遠目に見ると道いっぱいにできたクレーターが見えた。また隕石か。最近多いな。


近付いてみるとまだ落ちたばかりのようで熱々だ。

いや、これやばくね?間に合うのか?

今は1050ちょうど。

かなり急がないと隊長にこっぴどく叱られるうえに給料が減っちまう。

時間外労働をさせられる上に月給も減るのは勘弁願いたい。

俺は残りのバッテリーを使い切る勢いで駆け出した。


***


危なかった。

あと20秒遅れていたら遅刻だ。

やれやれ。

そういえば樹に被害はなかったのだろうか。帰りに見に行くか。


一息ついて待機室に入り、自分のロッカーを開けて作業服を取り出す。

着ていた防護服は脱いでロッカーに放り込む。

防護服もなかなかに装着が面倒だが、この作業服はより面倒である。

防護服は最低限の機能のみがついており、値段を下げた量産品の廉価版だ。

結構安い。


だが、この作業用防護服は圧縮酸素や高レベルの宇宙線遮断機能、体温保持などの生命維持機能や、無線機能などを備えつつ、作業をしやすいように動きを妨げないレベルまで軽量、小型化されたものだ。

ぶっちゃけ普通の防護服の5倍くらいの値段がする。

いくら動きやすいとは言え消耗品として個人の買えるものではないし、

装着が面倒なので結局普段使いはしにくい。


とまあ、身も蓋もない話はさておき。

ちょっとお高い作業服に身を包み、第3ハンガーに入った。


「おーら遅いぞ井上。隊長が怒ってるぜ。さっさと行ってこい。」

整備の中村さんが嫌なことを伝えてくる。ええ、セーフじゃん。

こんなことなら少し遅れてくればよかった。

──いや良くないか。給料が減るのはシャレにならない。


昇降機に乗りながら現状を確認する。

「中村さん、交戦開始からどれくらいですか?」

「10分ちょいってところかな。場所は管制官に訊いてくれ。俺は知らん。」

「了解。」


コクピットに入って主電源を入れる。

各モジュールの起動を確認。

戦闘ステータスで起動。

主モニター起動、視野良好。

駆動モーターレスポンス良好。

推進剤注入完了確認。


管制室に通信を繋ぐ。


「こちら第二班井上康太。出動準備完了。指示願います。」

『こちら管制室。戦線はイザナギ海岸へ移行中。進路東2で発進願います。』

「了解」


さて、行きますか。

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