第19話

しかし桜井は大場を信じることにした。

若いが真っすぐで強い目をしている。

一途で迷いのない目だ。

おそらくびらんを見ても、その気持ちに揺るぎはないだろう。

桜井はそう思った。


本部が電話を切ってからしばらくすると、また本部から連絡が入った。

「もしもし」

「ああ本部だ。桜井さん、急な話だが、明日びらんを封印するぞ」

「明日ですか」

確かに急な話だ。

封印の準備は整ったのだろうか。

考えていると本部が言った。

「全員の前にびらんがそのすがたを見せた。それでもみな、びらんの封印を躊躇していない。期は満ちた。無駄に間を開けることなく明日なら、みな本来の力を発揮してくれることだろう。だから明日やる。それが一番いい」

「封印の準備は整ったのですか?」

「五人の気が高まったとき、それが封印の準備が整った時だ」

「わかりました」

「それじゃ、明日正午に迎えに行く」

「はい、待ってます」

電話は切られた。

桜井は明日仕事があるが、適当な理由をつけて休むことにした。


桜井が明日のことを考えていると、スマホが鳴った。

見れば大場さやからだ。

お互い一応連絡先を交換していたが、今まで一度も連絡を取り合ったことはなかった。

出ると大場が言った。

「もしもし桜井さん」

「どうした」

「実はびらんが出てきたの」

「知っている。五人全員の前に出た」

「あんなに気味の悪い姿をしていたなんて」

「確かに気味の悪い姿をしているな。それで大場さんは大丈夫?」

「大丈夫? なんのことですか」

「いや、びらんを実際に見て怖くなったとか」

「そんなことがあるわけがないわ。あいつは姉の仇なのよ。姿は確かに気味が悪かったけど、見た時に怒りと憎しみしかわいてこなかったわ。明日必ず私の手で封印してやるわ」

当然だが、大場も本部から明日封印することを聞いたのだ。

「うん、そうだ。私も妹の仇だ。絶対に封印してやるさ」

「そうよ、桜井さん。必ず封印しましょうね」

「出来たら封印ではなくて、消滅させたいんだけど」

「同感だわ。でもそれは無理だって言われたんだけど」

桜井は笑った。

桜井も本部にびらんを消滅させたいと言ったら、びらんの霊力が強すぎて無理だと言われていたのだ。

大場にも同じことを言っていたなんて。

「私も本部さんに同じことを言ったら、無理だと言われたよ」

「あら」

大場は笑い出した。

ころころと。

桜井もまた笑った。

二人でしばらく笑った後で桜井が言った。

「明日びらんを必ず封印しよう」

「もちろんよ、桜井さん。あいつを必ず封印しましょうね」

「二度とこの世に出てこれないようにね」

大場がまた笑い、桜井も笑った。

そして桜井が言った。

「それじゃあ、明日必ず」

「それじゃあ」

「はい、それでは」

電話は切られた。

大場と話をしていると、桜井の疲れた心が少しだけ癒された。


桜井が待っていると、正午きっかりに呼び鈴が鳴らされた。

でるとやはり本部だった。

「それじゃあ、行くぞ」

部屋を出て駐車場に行くと、本部が指さす車の運転席に中年の男がいた。

そして後部座席には若い男が。

この二人がかつてびらんを封印した男の息子と孫なのだろう。

桜井はそう思った。

車に着くと本部が言った。

「運転席にいるのが昔びらんを封印した男の息子、草野正司だ。そして後ろにいるのが草野の息子、信一だ」

桜井の予想通りだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る