第17話

二人は本部に連絡先を教えた。

「うん、これでいい。じゃあ戦いのときは近いぞ。それまで十分に英気を養っておくように」

本部はそう言うと、さっさと部屋を出た。

後には大場と桜井が残された。

そして二人は大いなる決意を込めた目で相手を見て、そして同時に微笑んだ。

ここに普通に生活している人ではありえない信頼と絆が生まれたのだ。


本部は家にいた。

五人そろった。

あとは封印を実行するだけだ。

そう考えていると、突然感じた。

来る。邪悪で厄介なものが。

そしてそれはほどなくして本部の前にその姿を現した。

見た瞬間、すぐにわかった。

こいつはびらんだと。

昔から名前だけは知っていた。

しかし実際に見るのは初めてだ。

白に近い灰色の女の顔。

目にあたる部分は真っ黒だ。

そして成人した女の顔の下にあるのは、三歳くらいの白いワンピースを着た幼女の体だ。

首のところは見えているはずなのに、どうなっているのかわからない。

一人の母親と一人の幼い娘。

それがびらんの実体だ。

今こうして一つとなり、本部の前に姿を現したのだ。

その存在自体が純粋なる悪。

それは間違いない。

しかし今のびらんからは、殺意とか敵意はあまり感じることがない。

まったくないわけではないが、本部にはびらんが今すぐ本部をどうこうしようという気がないことがわかった。

――見にきたな。

そう、見に来たのだ。

びらんは。

自分を封印しようとする者。

明確な敵。

それが五人集まったのだ。

これほどの霊力を持つ存在だ。

それに気がつかないわけがない。

だから見に来たのだ。

自分の敵がどんなやつなのかを。

しばらく本部とびらんは見合っていたが、突然びらんの姿がかき消すように消えた。

―行ったか。

本部は感じていた。

びらんの邪悪な霊力を。すぐ目の前で見たのだ。

本部ほどの霊能者であれば、相手の力はわかる。

――これはなかなかの相手だな。

五人そろえば封印するのも不可能ではない。

しかしそれは五人が五人とも全力を出した場合の話だ。

そうでなければ封印は難しいだろう。

そうなれば誰か犠牲者が出るかもしれないのだ。

その点が本部にとって不安材料ではある。

――うまくいくと信じよう。

本部はそう思うことにした。

すると着信音が聞こえた。

出ると草野正司からだった。

「どうした?」

「出ました」

「びらんがか?」

「そうですたった今私の目の前に」

「私のところにも来たよ」

「本部さん所にも」

「おそらく五人全員の目の前に現れるだろう」

「そうですか。それはびらんからの宣戦布告ということでよいのでしょうか?」

「第一目的は相手を、敵である私たちを見に来たんだろう。でもそれは同時に宣戦布告と受け取ってもいいだろう」

「そうですか。で、私はびらんを見てびらんの力がわかりましたが、とても私一人ではかなう相手ではありません」

「それはこっちも同じだ。私一人では、あっさりとやられてしまうだろう」

「ではこのままではみんなやられてしまうと」

「いや、それはないだろう。そんな気があるならとっくにやっているはずだ。あいつは今のところはただ見に来ただけだ。次に現れるのは、五人そろって封印するときだろう」

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