幼馴染を攻略したい俺氏、周りの女の子から逆に攻略されはじめているのでなんとかして抗いたいです……!
能登 絵梨
第1話 幼馴染を攻略したい……!
俺と同じ
家も互いに隣同士でなんなら窓からお互いの部屋に行き来できるくらいに近い。幼少期の頃から一緒に遊び家にも行き来し、一緒にお風呂に入っていた時期だってあるくらいのテンプレな幼馴染だ。
《わたし、おーきくなったらりょーたのおよめさんになってあげるね!》
そんな夢のような甘酸っぱい幼少期を過ごし、とても可愛く綺麗なお嫁さんを貰う事も決まっていて、人生薔薇色コースまっしぐらのはずだった俺と幼馴染の流歌との間に、とある問題が起きている。
その問題が――
「おはよ、流歌」
「話しかけないで」
「えぇ……」
今日なんか学校の登校中に後ろ姿を見つけたから声をかけたってだけなのに、挨拶しただけでこんな有様だった。ただ名前を呼んだだけ。ほら、普通に名前を呼んで挨拶とかってするじゃん? 知人だったり友達だったり幼馴染だったら尚更するじゃん? それなのに流歌さんときたら話かけないでってシンプルにドぎつい拒絶の言葉放ってきたんですけど……?
高校に入学し2学年になり始めた頃から俺に対する流歌の対応は変わった。
昔は清楚で大人しかった流歌も今は髪を染めて制服は着崩し、いわばギャルみたいな印象だった。それはそれで俺個人としての好みとしては全然範疇だからアリなんだけど、昔からあんなに仲良かったのに。いきなりこんな対応されるのは不服なわけで、異議申し立てをしたい所ではあるんだけど。
「俺、なんかしちゃったかな〜」
「それより松橋くん、一緒にお弁当食べよ!」
「あー、今それどころじゃないんだけど」
「もうそろそろ2ヶ月だよ? 早く何か行動を起こさないと私負け組になっちゃうよ? 私の気持ちも考えてよ!」
「うっせ、そんな事言うんだったら俺の気持ちだって汲み取ってくれ。自分本意で考えるな!」
「私は早く作戦会議がしたいだけなの~」
そんな解決しない問題にモヤモヤと頭を抱えていると、さらなる問題が俺の目の前にやってくる。
俺のクラスメイトで、1ヶ月くらい前から俺の元へやってきて一緒にご飯を食べながら恋愛相談に乗ってやってる仲だ。
男子は方言が好きでしょって理由で告白のセリフを京都弁でしようとした頭の悪いヤツ。勉強はできるらしいが恋のお勉強は壊滅的みたいだ。
意欲的、積極的に俺の所に来るからクラスの一部の連中から俺と緑川が付き合ってるんじゃないかとか、お似合いだから早く付き合っちゃえよみたいに言われてるらしい。でも俺は緑川に対しての好意は微塵も抱いてないし、緑川だって俺じゃない他に好きな人がいる。だから俺と緑川が恋人になる可能性なんてあり得ないと断言できる。
「ねぇ、今週の日曜日のデート練習するじゃん? その事なんだけどさっ」
「何勝手に俺の予定決めてんだよ。日曜日デートするの俺は承諾した覚えないし」
「でも私はしたいよ?」
「だから俺の意思は無視ですか……?」
俺は青山流歌が好きだ。
昔から一緒に過ごして成長して、一緒にいる事が当たり前だったとしても、この感情はそんな当たり前から抱いた感情じゃないから。
なのに……なのに……
《話しかけないで》
流歌に拒絶されてからもう二か月が経っていて、その間に改善された事も知り得た情報も何もない。ただ知らぬ間にどんどんと嫌われているって事実だけがどんどんと積み重なっていく。
「松橋くんって行きたい所とかある?」
「いや、マジで行くの? 俺ほんとそれどころじゃないんだけど……?」
「それどころじゃないってどーゆーこと?」
「まぁ、いろいろと解決しなきゃいけない問題があるんだよ」
「なになにどんな問題? 私の恋愛相談よりも大事な問題なのそれ?」
全然大事だし、むしろなんで俺がお前の恋愛相談に乗らなきゃいけないんだって疑問があるくらいだからな。出会いから自分本位炸裂してたからなコイツは。
▼
緑川との出会いは高2になって1週間くらい経った日の放課後だった。
教室の掃除当番だった俺は最後にジャンケンで負けてゴミ出し係になってしまった。グーじゃなくてチョキ出そうかと迷ったんだけどな~とか今更どうでもいいことを考えながらゴミ捨て場に向かってる所にその声は聞こえてきた。
「わ、私……ずっとあなたのことが好きでした……!」
不意にそんなセリフが聞こえてきて、こんな所で誰かが告白している状況に遭遇するなんて想像すらしていなかった。だが、しばらく待ってみても肝心の相手からの返答は一切聞こえてこない。あくまで想像でしかないけど相手の人も真剣に悩んでいるんだろう。声音からして告白しているのは女の子かな。
「私……ずっとあなたの事が、頭から離れなくって……」
先程の女の子の声がまた聞こえてきた。相手からの返事はまだ聞こえてこないが、だいぶ積極的に攻めてるなとは感じた。流石にここで盗み聞きするのも悪趣味なのでこのゴミ捨て場から一旦離れようとした時、俺は足を止めざる終えないセリフを聞いてしまった。
「……あなたの事、好きになってしもたん。ウチと付きおうてくれへん?」
……はっ? そこからは三回目の告白のセリフと共に謎の京都弁が聞こえてきた。え、どういうことだ……? っと思い俺はそのまま恐る恐るその現場を覗いてみることにした。
「ん〜。やっぱり京都弁で告白した方がウケはいいのかな〜? 京都弁人気だし」
そこには黒髪の髪を肩ぐらいにまで伸ばした女の子だけが立っていた。もしかして告白してたんじゃなくて告白の練習ってパターン? それともこれから本番なのか。
ピロリロリロン♪ピロリロリロン♪
自分のスマホの着信音ではあったが、状況が状況なだけに急にかかってきたので驚きの声を上げてしまった。けど、それは俺がここに居ますよと知らせるようなことで、ここで盗み聞きをしていたと自白するようなことだった。
「だ、誰かいるの……?」
「……あっ」
告白の練習をしていた女の子は当然のように声を上げた。この場からダッシュで逃げたい気持ちはあったけど、パンパンに詰まったゴミ袋を置いていくのもアレだし、ここは逃げずに素直に話し合いで解決しようと思ったので、そのまま京都弁で告白をしていた彼女の前に姿を現した。
「……あの、見ましたか……?」
「えっと、その……見てませんよ?」
「み、見てたんですね!? コソコソして、覗き魔だ……」
涙目になりながら、あらぬ罵声を浴びせてくる女の子。別に盗み聞きをしようとしたわけではなく偶然居合わせてしまっただけなので、これはれっきとした冤罪だ。誤解なんだ。
「待て待て、これは誤解だ。俺は盗み聞きしようとした訳じゃなくて、ゴミ捨て場に用があってたまたまここを通ろうとしたらあんたが告白……の練習みたいなことしていたのが聞こえちゃっただけで」
「や、やっぱり見てたんじゃないですか!? 嘘つきは泥棒の始まりですよっ!」
彼女の怒りは治るどころか、さらにエスカレートしてしまった。とりあえずこの現状をどうにかしないとと思考をフル稼働させる。
他の生徒が通り過ぎたら、間違いなく変な誤解をされかねないのでそれは是が非でも避けたかった。
「嘘ついたことは謝る。でも、京都弁で告白っておかしくないか?」
謝罪と一緒に抱いていた純粋な疑問を言葉にした。
俺の発言を聞いた彼女は顔を真っ赤にしながら目を見開いていて、突然俯き、身体が小刻みに震えているのが見て分かった。
「……ダメですか?」
「え? いや、ダメって言うか……君って京都出身なの?」
「違いますけど……」
「なら、あきらかに不自然でしょ……」
俯きながら答えていた少女が顔を上げて俺を見て、小さくその言葉をつぶやいた。
「……教えてください」
「え……何を?」
「私に告白の仕方を、教えてください……!」
決意を込めたような瞳で、力強い声音で彼女が俺にそう言ってきた。その時の彼女は、何故だか俺の目には宝石のようにとても輝いて見えた。
▼
「京都弁は男の子の憧れじゃない! ならその方言で告白した方が成功率は上がると私は思うんだよ」
「それは京都出身の子だけが使える特権なんだよ。都会育ちのエセ京都弁なんて無意味だと思うぞ」
「なら、どの方言なら相手の心を掴めるかな?」
「緑川、まず方言から離れようか。そこに拘ってたら一生先に進まない気がする」
「えぇ〜? いい作戦だと思ったのに〜」
そんな奇妙な出会いがあった日の2日後の放課後に、学校からの最寄り駅の近くにあるファストフード店に来て緑川と話をしていた。
告白の仕方を教えてくださいとか言われて普通に断ったけど、あのあと緑川が同級生でしかも同じクラスだった事を知り、休み時間毎に俺の席に来てお願いされるもんだから緑川の粘り強さと気合いに俺が根負けした感じだった。
「そもそもさ、前にも言ったけど俺って恋愛経験ないんだよ? アドバイス出来る事ないと思うんだけど」
そう、俺は今まで恋人がいたことなんて一度もなかった。欲しいか欲しくないかを聞かれたらそりゃ当然欲しいし、その相手が水瀬流歌であって欲しいと願って望んでいるんだけどな。
「のんのんのん。逆だよ逆、恋愛をしたことがなくて恋人がいたこともない寂しい松橋くんだからこそ頼めるんだよっ!」
「逆にの意味が分からないけど、とりあえずお前が失礼かましてるってことだけは理解できたぞ」
「松橋くんは恋愛をしたこともなくて恋人がいたこともないじゃん?」
「事実なんだけど言い方にトゲを感じるから恋愛経験が無いっていう風にしてくれ」
別に好きで独り身になっている訳じゃねーんだわ……俺だって彼女は欲しいと思ってるからな? それになんか上から目線なのがちょいと気に入らなかった。
「細かいよ〜。とりあえず、松橋くんは恋愛経験が無いからさ、変な先入観とかなくて、物事を客観的に見れるでしょ?」
「ん〜まぁ、そうなるのか?」
「そうだよ! 現に、私の京都弁告白大作戦も指摘してくれたし!」
「あれは恋愛経験の有る無しに関わらずみんなおかしいと思うからな。俺だけじゃないからな」
「え、そうなの? テレビで特集してた情報なのに〜」
「だから京都出身の人だけの特典なの。限定的なオプションなんだよ」
「むずかし~」
まったく難しくもないのだが、それを正常に理解できていない緑川の思考なら確かに難しいのかもしれないと、この時の俺の思考回路は緑川を冷静に分析していた。
「難しく感じることでもない気はするが」
「松橋くんの感性が死んでるんだよ!」
「おっけ分かった帰る」
そう言いながら隣の席に置いていた鞄を持ち上げなら帰ろうと立ち上がるが、すぐに緑川が俺を止めにきた。
「待ってごめんなさい冗談だから、ちゃんと冗談だから〜」
目元に涙を浮かべながら俺にしがみついてくる緑川だが、あざといしなんか良い匂いするし柔らかそうなモノ当たってるしでとにかく離れて欲しかった。
「分かったからしがみついてくるな、落ち着け。とりあえず、もっとまともに考えよう」
「先生、どうすればいいんでしょうか!?」
先程とはうって変わってケロッとした表情をして敬礼ポーズをしている緑川を見て、マジで帰ろうかなと思い始めてる俺がいた……
「……とりあえず、その好きな相手とは今までどんなことをしてきた?」
「どんなことって?」
「例えば、デートに行ったことがあるとか、デートじゃなくても、大人数でもいいから遊びに行ったことがあるとか」
「それはね~ないかな〜」
「話したことはあるのか?」
「あ、あるよ……! あ、挨拶とか」
「それはなんかノーカンだろ」
「なんで?」
「挨拶を恋愛攻略における会話に入れていいのかどうか」
「面識が無いよりはマシじゃない?」
「でもまぁ、とりあえずだな。今は告白しても絶対にフラれる。それは恋愛経験の無い俺でも分かるぞ。何故なら相手は緑川に好意を抱いてるか分からない。接点が少なすぎるんだよ」
「そっかぁ。んで、じゃあどうすればいい?」
「無難にまずは相手との接触だろ」
「い、色仕掛けってこと……?」
「……お前そんなんでよく告白しようとしてたな」
「うぅぅ……」
本当に緑川は恋愛に関してポンコツで、こんなんじゃ恋人なんか作れそうにないだろう。
「色仕掛けじゃなくて、相手の印象に残るように絡むって感じだな。まず相手に緑川という女子の存在を認識させることが大事だろ」
「なるほどなるほど」
鞄からメモ帳らしき物を手に取り律儀に書いている緑川のその行動は立派だが、本当に先が思いやられるな……そのあとも俺と緑川の作戦会議は暫く続いた。
▼
少し長くなったけど、俺と緑川の出会いはこんな具合で、そして現在に至る。
他人の恋愛を応援するのは別に悪い事じゃないし、俺だって悩みとか何もなければ普通に協力してたよ。
《話しかけないで》
でも今は流歌と拗れてしまった関係を早急に回復させたい。原因は分からないけど、理由が分からないまま拗れたままになるのは嫌だしな。
「まぁ、知り合いと上手くいってないってゆーか、なんか冷たく接しられてるからそれを解消したいなってとこ」
「直接話し合えばいいんじゃない?」
「それができたら苦労しないしこんなに悩んでねーから。なんならこの問題が解決すればお前の恋愛相談だって気持ちよく乗ってあげられるってもんだ」
「よし、じゃあその知り合いとの問題解決しよ! 私の恋愛相談は一時休止で、松橋くんの問題が解決したら再開ってことで」
「いや、別にお前の恋はお前の方で動いててもいいだろ」
「え? いやぁ……ほらあれ、誰かに頼らないと私何しでかすかわからないじゃん……?」
「それ、自分で言ってて恥ずかしくねーか?」
「とーにーかーくー、まずは松橋くんの問題から解決するから!」
私には時間が無いとかどーとか言ってたけど、調子良いコイツは次から次へとコロコロと意見を変えていた。けどまぁ、これで自分の問題に専念できるわけだから緑川の気が変わらないように余計な事は言わないでおこう。
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《令和コソコソ噂話》
第1話読了してくださりありがとうございました!
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