今際の結界・始まる闘い

今際野結イマワノ・ユイが事務所に保管しておいた

グリモワールの権限で使える結界・・・

芥子河原けしがわらの腕を一旦【検閲済】して流血させ

血を突っ込んで契約して彼の魔力でパンパンになって

持て余していたのだが

今回はと言うと半径300mの広範囲な結界を指定されてるのでこれが必要になる。



今夜、闇のブローカーたちの取引が行われる時に

例のオルタギアの持ち主が現れ、そいつがドンパチを開始する。

その人は敵になるかも知れないし味方になるかもしれない。


調べた結果浮上した被験者の名前は佐藤五穀サトウイツキ

25歳男性、若くして膵臓がんのステージ4まで病状が悪化した後

特殊な治療を経て望み通り強い身体を手に入れ、根治する。

しかし、生きて帰ってきたらきたで保険適用外とかなんとかいちゃもん着けられて

ブローカーの悪魔に法外な額を吹っ掛けられ

遂に彼はそのパワーで銭ゲバ悪魔を殺してしまう。

手術を行った施設では治療とは名ばかりの人体実験が行われ

抵抗出来ない重病人を道具の様に扱い、殺し続けていた。


そういった実験をしてる間に同じ様な病で苦しんでる人達のいくつかの「死」・・・

適合しないからと痛めつけられ、それでも生きようとした人達の「嘆き」・・・

人は時間と戦っている。いつ終わるか分からない一瞬だけの一生を生きている。

限りあるからこそ人は今を生きなければならないと言う事実を

受け入れられなかった自分の弱さが何度もオーバーラップする。

もはや自暴自棄な状態で復讐の鬼になりかねない。


こういった事に巻き込まれなくても非凡な生き方をしてる人は多いと思う。

しかし、不幸があって誰かのせいにしても宿命には勝てない。

そんな感傷に浸らないと性善説の側に立って生きていくのは難しいのだ。

誰だって苦労しているのに不平等に不幸が訪れる・・・



「私も一回死んで黄泉還りしたから、これから先どうなるんでしょうね?」

コンクリートの床に手際よく魔法陣を書いていくユイ

彼女結界を張る時間帯になって高い場所で待機する・・・

ふと朧気に浮かぶ月に思いついた事を問いかけるが

もちろん答えは返ってこない。


「さーて、ヴェっさんの血のパワー、見せてもらいます!

 蟹ばっかり食べたがる悪魔の魔力や如何に!?」

厚手のバリアスーツのグローブから魔力をスムーズに通すと

グリモワールのページは指定された場所で止まり

広範囲結界オーバーレンジフィールドが発現する。

これだって捕まえる相手にバレない様にやらなければならないのだ。


「よォし、結ちゃんの来たぜ!」


魔術用の金具をフィールドの隅に差した部分に結界の糸が括りつけられ

綾はそれを引っ張り出して紡いでいく。まるで網を紡ぐ様な作業を

慣れた手つきで進めていく。一枚の布が縦の糸と横の糸で構成される様に

綾が横の糸を張り巡らせて堅牢けんろうな結界が完成する。



「?なんだ?外が騒がしくないか?」


「なんだあの糸は!?網!?」


「ちィ、結界だ!囲まれてやがる!」


コソコソと人気のない建物で取引してた悪党どもが俄かに色めき立つが・・・


「グァァァッ!」


ドゴン!バァン!とまるで自動車との衝突が起きた様な音と共に

悪党たちは殴り飛ばされていく。


そこには涼とも違うダークヒーローめいたオルタギア・・・

登録名称「戦鬼センキ」が立ち塞がっていた。

特に悪魔探偵たちと示し合わせたワケではないが

彼なりに情報を集め、復讐の計画を進めていたのだった。


「おいおい、この時代は資本主義なんだ。ヤツのいう事聞いた方が

 懸命だと私は思うんだが?」


あらかた悪人共は逃げ出して

色々と危ないモノが散らばる交渉のテーブルに

一人だけ平然と座っている男と対峙する。

「誰だお前は!?どうすれば元の身体に戻れる!?」

五穀イツキは問いかけた。


「元の身体?癌に蝕まれて死んだ方が良かったのか?」


「どうあっても命を全うすることがヒトの役目だって思い知らされたんだ。」


「分かるよ。溺れる者はわらをもつかむがキミはお宝を掴んでしまったんだ。運が良いんだよ」


不敵に戦鬼の話を聞くスーツを着た体格のいい男

闇の業界では「死のディーラー」と呼ばれる謎の男は立ち上がり

無造作に手をかざすと彼もまたオルタギアを纏った。


「私の名はさておいて、オルタギア・懺業ザンゴウ・・・キミと遊んでみたい」


悪魔探偵たちが作ったリングの中で暑苦しい戦いが始まる事になった。

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