タイムパラドックス:二人の神代

ギュイーン・・・シュルルッ


別に歯医者で顎の工事をしてる音では無い。

例のホラ、オルタギアとか言う変身パーツの作動音である。


「これ、生体電力から繋いで動かすんだろ?」


とりあえず綾さんにくっつけてみようとして腰に巻き付けてるが

電磁パルスの反動に耐えられる肉体を持つ人間は限られている。

説明書なんか無いんでギミックの展開が上手く掴めないでいた。


女性にひざまずいて腰回りをゴソゴソ探ると言うのも

セクハラで訴えられちまうかもとかガタイで分析しながら

なんというか、元から魔力を発動させて身体能力に変換できている彼女には

あんまり必要ないって答え。


「じゃあ、私のパワーアップにですね!使えたら良いなって思うんですが!?」


いよいよ黄泉還りボディにリュウノアギトの鉄拳を兼ね備えてる結ちゃんには

何か過剰暴力めいた何かを感じるが・・・まぁ保留だぜ。


芥子河原にとっては神代涼・・・謎に包まれている悪魔の力を身に着けた少年に

このデバイスが必要だという認識だった。

他のみんなは武器の類を持っているが彼は悪魔の肉体のパワーで

アブソリュート空手を使うぐらいしか今のところ戦力が無いのだ。

それだけでも十分だが心もとないのも確かなワケで・・・


「ただいま戻りましたー。」


タイミングよく事務所に涼クンが営業から帰ってくる。

癖の強い奴らを相手に商売してるせいか、いつの間にか子供っぽさが消えて

すっかり目の据わった悪魔の営業マンだぜ!


「おかえりなさーい。あれ?師宮しのみやさんは?」


地蜂巣ビーハイヴに献血する感覚で電力を供給しにいってるよ。利の良いバイトだな」


ふと、机の上のケースの中に入ったケースが目に入る。


「これってオルタギアじゃないですか!?」


「知ってるんですか?涼くん・・・」


位相空間の行き来で悪魔のマーケットに出入りしてる彼にとっては

おおよそ正規で出回っていないモノは目に着くのだ。


さながら銃の専門家が本体を分解整備する様に

手際よく操作していく。芥子河原も知らないギミックを解除して

本体の核の部分が光り始めた。なかなかに勘が良いぜ!


すると、触手のようなワイヤーが正確に彼の身体を包み込む。

断続的に電子音が鳴る。そうしてる間に「認証」のプロセスは終了し

彼はオルタギアから解放された。


「これで、使える様になりましたね。」


「いつになく焦って無いか?どうした?」


涼は一つの書類を持ち出してきた。一人で出歩けるようになったら

必ずやっておきたかった事・・・


「1987年、有耶舞うやまい村事件報告書」


「お前は誰だ」と言う身の内に潜むアスタロトの囁きに促されるまま

自分なりに裏道を潜り抜けて辿り着いた決定的資料。

言いたくはないが、悪魔の裏路地で何人も血の海に沈めて来た。

なのに、力を解き放つ度に確信に迫っていく感覚に囚われ

アシの付かないダークウェブのハッキングに成功して

公的機関から掠め取った代物である。


つまるところ、神代涼と言う男はその時代から保存されてきた

いわば過去からやってきた人間だったのだ。

ここで時空の歪みが発生して現代生まれの今際野結が巻き込まれ

一瞬だけ魔界と人間界のバランスが崩れた。そんな顛末である。


そして、この資料に記載されている「責任者」の欄には

「警視庁特務対策課 課長 神代誠かみしろまこと」と言う名前が記されている・・・

添付されていた写真には彼を縦に伸ばして歳を取らせた様な風貌の人物が

まるで何かを悟ってる様な表情で掲載されていた。


あの時に何が起こったのかは全くの謎ではあるが

涼の少ない記憶の中で彼にとって自分の双子の弟であると言う事だけは覚えていた。

時が止められた者と、生き続けて抗う者。二人の証人は何を暴くのだろうか・・・

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