悪魔になってしまった少年

魔界では芥子河原の同僚であった師宮ヴォルテ准一は

現在、人間界に身を置いて

監視者から魔獣討伐の仕事を主に請け負っている。


しかし、その日の仕事はある人間を救出する任務だった。


「芥子河原も呼んでおけばよかったかなぁ・・・」


あいつが居れば建物への潜入やハッキングはお手の物だろう。

つい愚痴りたくなる。監視者によれば

非合法な悪魔血清等の実験による肉体強化・・・

不正な人体実験が行われていると言う事らしい。


確かに嗅ぎなれた匂いがする。血が冷えた様な匂いだ。

潜入こそ難しいが索敵スキルを使用する。

デビルスキル「寄網ヨリアミ掛け」・・・


外側から、研究所の様な施設を見つからない様に見据えていたが・・・

警報が鳴り響く。安全な場所にいたはずだが、見つかったか!?


と思うと遠くの方から火柱が吹き上がる。大爆発だ。

発動していたデビルスキルで研ぎ澄ませて置いた感性が

すぐに危険を察知する。魔獣!?違う・・・これが・・・


准一は作戦に関しては無頓着な悪魔である。

敵がいるなら殺せば良い。彼の戦争は24時間営業上等だ。

そして、このヤバさは逃走を選ぶのでは無く闘争を呼び起こした。


師宮は呼吸を整えて敵を斬り裂く事を誓う。

魔改装甲シェディムギア・ヴォルテックス

一気に悪魔の鎧を身に纏い、突入する。


そこは人間の世界でありながら、地獄そのものであった。

本来なら人間達の平和だった世界が崩壊した戦争の様な状況。


監視者からのデータ通り、悪魔の因子で変貌を遂げた人間が

化け物の姿になったり人間の姿に戻ろうとしたり・・・

あるモノは苦痛に悶え、あるモノは化け物同士で殺し合ってる。


研究所の中の警報が鳴りやまぬ中で対象者を探す。

理性を失った実験体には悪いがあの世へ行って貰う。


手をかざして電流を流すと空間が歪み

彼の長剣ティルヴィングが姿を現す。


振れば重低音のビートを刻み

稲光の一撃を敵に叩きつける。


「ガァァァッ!」

振り下ろすと、地味に刃が立たない。


グシャっと鈍い感触しか伝わらない。


魔獣程度ならこの程度で十分だが

やはり、何らかの強化を施されている。

手こずらせる程度には強い。そして、それが良い。

彼は逆境が大好きなのだ。

最短で実験体の心臓を突き刺し、沈黙させた。


一匹倒せば後はゴミの様だった。

何の恨みも無いし、人間だったらしいが

「地獄は良いトコ一度はおいで。」

無心で戦ってる時が一番楽で居られる。

そして、索敵スキルで対象の元へと辿り着くが・・・

これは魔改装甲シェディムギアの反応だ。


その部屋へ辿り着くと、慎重にクリアリングして行った。

どんな恐ろしい化け物が居るか・・・と思ったが

そこには人間の高校生ぐらいだろうか?

それが病衣を着てうずくまっていた。


どうあがいてもこの子で間違いなかったが・・・

言葉が通じる方にかける。

准一は変身を解いて話しかけてみた。

こういう時には上手い言葉が見当たらない。

「た・・・助けに来たよ!?行こう!!」


殺すならば楽だと思っていたが何故か救出である。

やらねばならない・・・

こういう時にどういう顔をすればいいかわからない。

魔界の武闘派悪魔は不器用なのだ


差し伸べた手を握り返してくれて

どうにか拠点まで戻る事に成功した。


少年の名前は「神代涼かみしろりょう」。

どういう因果か知らないが悪魔になってしまった少年だった。

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