悪魔、廃病院にて

監視者さんから探索の依頼。

心霊スポットの廃病院が死霊が湧いて出ていて

遊びに行った人が相次いで祟られちまってるらしい。

死人が出ていないのが救いと言ったところか。


この任務こそ、結ちゃんのリュウノアギトが役に立つ。

対魔獣用だから浄化能力があるんで、お頼み申し上げる。

悪魔にとって薄暗いトコとか、そういう湿っぽい場所は大好きなんで

俺だったら住めるぐらい快適だが、ホラー映画的に言えば

かなり雰囲気出てるなって答え。


「居ますか?」


「どこだろうな。こういう時は・・・」


俺は携帯ラジオを改造した、霊の音声を拾う探知機を持ちだす。

既製品でもなんとかって言う携帯デバイスが通販サイトで売られてるが

あれはなかなかにガチだぜ。


俺は手に馴染まないと損した気分になるから

ケチってお手製のを使うんだけどね。



まだ明るい時間帯だから、俺は下の階層が怪しいと感じた。


近づくにつれその反応が際立つのはやはり1階奥の霊安室だ。

魔界時代に培ったピッキング技術で鍵を開ける。

(良い子は真似するなよ!)

しかし、死霊特有の強い結界が張ってあった。

ここは俺がやるしか・・・


「どりゃあああ!!」

言った傍から結ちゃんのリュウノアギトの拳が結界に突き刺さる。

するとひび割れて、数発殴りつけると、破れて行った。

この子一人でも大丈夫じゃないかな。って思う俺。


幽霊の中でも黒い影が凄いヤバいってオカルト好きな人には分かるかな?

それが一体、そこにたたずんでいた。表情は見えない。


「・・・こ・・たい・・・」


途切れ途切れの声で良く聞こえないけど、探知機がその声を聞きとった。


「ここから出たい」らしい。


どうやら、病死して成仏出来ないまま取り残されて

自分で結界を張りながら霊力だけが増大し

出られなくなった様だ。


「怖くないですよ。」



「・・・信じてくれるの?」


結ちゃんには何となく表情が読み取れているらしい。

子供の声だ。なんとなく怯えてる感じ。


すると、詠唱を始める。


「迷える魂よ。あなたが居た事を忘れません。

 リュウノアギト、汝の救済とならん事を。」


強化外骨格の両腕がスッポリと黒い影に入り込む。

すると、光に包まれて生前の穏やかな姿に変貌する。


まだあどけない少年だった。怖いものみたさでやってくる

人間達の事はさぞ怖かっただろう。

「忘れないでね・・・?」


「忘れませんよ。」


見知らぬ手と手でも分かり合えれば繋ぐ事が出来る。

この時代には分かり合う事をしないで独善的なエゴが増えているが

それは人の痛みに触れる事への恐怖なのかもしれない。


彼女の手は、破壊をもたらすとともに救済を差し伸べる能力を持っている。

少年の魂は彼女の手に導かれ、光に変わって消えて行った。


「怪物退治って思ってましたけど、こういうお仕事もいいですね。」


「お、おう。お疲れさん。」


悪魔には慈しみを持つ悪魔探偵の背中が逞しく見えた。

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