第4話 兄からの説得

 フィルアート・サンク・パルティトラ、二十四歳。

 パルティトラ王国国王の第五子で第三王子。王国騎士団所属・魔物討伐隊、第七隊隊長。


 ……それが、私が兄から仕入れた彼の情報。


「お兄ちゃん達って、フィルアート殿下とどういう知り合いなの?」


「学園の同期生だ」


 ……ん?


「グロウスお兄ちゃんって、二十六歳だよね?」


「俺もだぞ」


 双子のクラインが主張する。知ってる。


「なんで殿下の方が二つ下なの?」


「飛び級だよ」


「あいつ、剣術バカのくせに頭もいいんだ」


 芸術バカ兄弟が口々に言う。

 ほほう、優秀な人なんだ。


「そんな人が、なんで私なんかにプロポーズを……」


 呟く私に、グロウスとクラインが食いついた。


「そりゃあ、エレノアが可愛いからに決まってる!」


「うちの妹は世界一だからな!」


 ……この人達、兄バカも患ってるんですけど……。


「でも、昨日の今日で明日はデートなんて……」


 私は破れた枕を抱えてベッドに倒れ込む。

 一応私、これでも昨日失恋したばっかりなのよね。打算の恋でしたが。

 まあ、ジルドとは手を繋いだことしかない間柄だったから、それほどダメージは大きくないけどね。

 正直、フィルアートの言っていた条件はとてもいい。でも、王族はなぁ……。


「エレノア、気が乗らないなら断ってもいいが。よかったら明日はフィルと会ってやってくれないかな?」


 スツールを寄せてベッドの近くに座ったグロウスが、珍しく真剣な声を出す。


「フィルは結構苦労人なんだ」


「王子様なのに?」


「第五子でお母上は平民上がりの寵妃だ。そのお母上もフィルが幼少の頃に亡くなり、王宮ではかなり冷遇されて育ったらしい」


 ……私も早く実母を亡くしているから、つらい気持ちは解る。

 今度はクラインが兄の肩に手を置きながら語る。


「それに、あいつは無表情だけど正義感があっていいヤツだぞ。学生時代、俺らが同級生から『男らしくない』って絵や楽譜を破かれている時に、何も言わずに近づいてきて、いじめっ子をぶん殴ってくれたんだ」


 男爵は貴族の中では身分が低い。物理的な強さが『男らしい』とされるこの国の、階級意識の高い王立学園内で、兄達が好きなことを貫くにはどれだけの苦労があっただろうか。

 ……それをフィルアートは理解してくれたのだという。


「俺達もフィルが何故エレノアにいきなり求婚したのか真意は解らん。でも、解らないからこそ、知る機会があってもいいんじゃないかな?」


「クラインお兄ちゃん……」


「俺達の信頼する友人だ。エレノアも一度だけでも信じて欲しい」


「グロウスお兄ちゃん……」


 そこまで言われたら……。


「解った。明日、殿下に会ってみるよ」


 頷いた私に、双子はギュッと拳を握って鼓舞する。


「楽しんでこい、エレノア!」


「何かされそうになったら、迷わず相手の喉を掻き切っていいからな!」


 ……それをやったら、私の頭も胴から離れますが……(反逆罪的に)

 ちょっと、早まったかも……?

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