いつもご飯に誘ってくれる後輩ちゃんと深夜の罪を犯してお持ち帰りした話。
ゆきゆめ
-1-
――――11月、某日。深夜。
とある目的のため、俺は外出していた。
「あ、せんぱいおっそいですよぉ~!」
待ち合わせの公園に辿り着くと、開口一番頬を膨らませてそう言った後輩の少女は街灯に照らされる薄暗闇の中をこちらに向かってトタトタと駆けてきてた。
「もうっ、こんな深夜に女の子を待たせるなんて何を考えているんですか?」
「ちょっと見たいアニメあったから仕方ないよな」
「アニメと私、どっちが大事なんですか!?」
「アニメに決まってんだろうが。リアタイで見れなかった敗北者がどんな扱い受けるかおまえ知ってんのか? お? お?」
「し、知りませんよぉそんなのぉ……むぅ~~、なんで私がキレられてるの……?」
「解せんな」
「それは! 私の! セリフ!」
深夜の公園に後輩ちゃんのキンキン声が響き渡る。
「まぁまぁ落ち着きたまえよ後輩ちゃん。ちゃんと時間通りじゃないか」
「待ち合わせって、男の人が先に来るのが基本だと思います。あーでもせんぱいにそんなこと求めても無駄でしたね~。なにせ友達ゼロ人記録保持者の万年ボッチですし~?」
得意そうに後輩ちゃんは俺を煽る。
「なあ後輩ちゃん」
「なんですかぼっちで陰キャオタクで臭いせんぱい」
「臭くはない。俺は清潔なオタクだ」
「そうですか? くんくん」
「やめれ、嗅ぐな」
「男の人っぽい匂いがします。嗅いだことないからよく分かりませんけど」
汗臭いとか言われるより生々しくて困るわ。
「まあ、私は嫌いじゃないですね、うん。臭いは撤回しましょう」
「しぇ、しぇいしぇい」
無自覚にそういうこというのも困りもの。思わずどもってしまったではないか。セクハラ反対!
「で、もう大丈夫か?」
ため息を吐きつつ尋ねた。
「へ?」
「いや、おまえ、声震えてたし」
「な」
「すまんかったな、まさかいつも子憎たらしい後輩ちゃんが、まさかまさか深夜の公園が怖いだなんて思わなくて」
「なな」
「つか深夜に待ち合わせ自体な、配慮が足りなかった。後輩ちゃんだってか弱い女の子だもんな」
「ななな」
俯いてカタカタとロボットのような挙動を見せる後輩ちゃんはパッと意を決したように笑顔を咲かせる。
「な、なーんちゃってー! 震えてるフリでしたー! みたいな! せんぱい騙されたー!」
「さすがに無理あるだろ。俺が来た時のあの後輩ちゃんの安堵の表情と来たらもう……いやあほんと申し訳ない」
わざとらしく頭を下げてやると後輩ちゃんの顔が真っ赤に染まった。
「も、もーもーもー! やーめーてー! やめてください~! てゆーか、さっきからからかってますよねえせんぱい! せんぱい私のこと女の子だなんて1ミリも思ってませんよねえ!?」
「は? いや思ってるよ?」
「ふえ?」
きょとんと後輩ちゃん。
「1ミリならさすがに」
「~~~~~っ! もーもー! もー! せんぱいほんっと嫌い! 大嫌い!」
後輩ちゃんはぷいっと顔をそむけた。
「嫌いなのはいいんだけどさ、もうちょい声のボリューム抑えない? 補導されっぞ?」
「そ、それは困りますっ。私の輝かしい未来に亀裂がっ」
「ならさっさと行くぞ。将来バラ色の不良少女」
ひらひらと手を振ると、俺は後輩ちゃんをおいて歩き出す。
「あ、待ってくださいよぉ。置いてかないでぇ夜の公園とかほんと怖いんですってぇ。おばけ出そう~…………ぇ、あ、い、いえ今のは違くてですね!?」
「いやなにが? やっぱ怖いんじゃん。自爆乙。素直でよろしいですことよ?」
「がうがうがー!」
「え? なに? 日本語でおーけーだよ?」
「せんぱいのバカ! えっちへんたい! ほんっと信じられない! 変質者ー!」
「ちょっと待てえええい!? マジでお巡りさんくるからやめよう!? やめよう!?」
俺の輝かしい未来だってこの世界のどこかにあるんですよ!?
「おーそーわーれーるー!」
「マジで洒落にならんて!? そうやって痴漢冤罪に泣かされるエリート童貞がどれだけいると思ってるんですか!? あーもー! わかったよ俺が悪かったって! からかいすぎましたー!」
喚きたてる後輩ちゃんをなだめると、俺は片手を差し出す。
「ほれ」
「な、なんですか。襲う気ですか」
後輩ちゃんはジリと後ずさる。
「まだ言うか。つかおまえが怖いのは暗闇とおばけだろ」
男なんか今の調子で叫べばイチコロだよ。人生オワタだよ。
俺はもう一度、差し出したままの片手をプラプラと揺らす。
「そうじゃなくて、怖いなら袖でも握ってろって話。俺なんかで安心できるならな」
「そ、そういうことですか……。でもふつう手じゃないんですか、握るの」
「握れっていったら握るのか?」
言わないけど。何その彼氏面キモ、一生できないムーブだわ。
「ヤダばっちい」
「…………(イラっ)」
ほんとこの後輩……。一発ぶん殴ろうかしら。この汚い拳で。
しかしそんなことを言った割に後輩ちゃんは横へ並ぶと、俺の袖をちょびっと、大事そうに握った。
「……いちおう、ありがとうございます。これなら怖くないです。ふんっ」
最後に鼻鳴らすの必要あった? ねえ?
めっちゃ不服そうな顔してやがる。
可愛くねえ可愛くねえ。
可愛くない後輩ちゃんと隣り合って目的地を目指した。
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