016

 ワタクシの名前はハイイロと申します。


 ワタクシは何者かと問われれば、ただの闇でございます。


 数百年に一度テストするのでございます。

 急なたとえ話になりますが、凄腕のピッチャーがいたところで、誰もキャッチができないのならばそのピッチャーは無駄骨となってしまいます。


 例えば人間が十しか知らなければ、無限の星空は単なる光点に過ぎなくなるでしょう。星図も星座も神話も創られず、ただあるだけの無生物に成り下がるでしょう。


 ワタクシがテストしたいのはそこなのです。


 ランダムに選んだ世界から、生物として正しいかどうか。ということに気が付けるかどうか。それがワタクシが求める最大のテストなのです。


 さて、お二人はお気付きになるのでしょうか。


 なぜお二人を近づけたのか。


 メル・アイヴィーを統合失調症に追いやったのも、飛び降り自殺に追いやったのも、空間に闇を生じさせて、心音こころねけいのもとへと出会わせたのもすべてワタクシの策略にすぎません。


 そこまでは予定調和。


 メル・アイヴィーが飛び降りたあの瞬間、二つの世界は、人間が一人通れるほどの接点を得たのです。


 そして、後に二人は同時に自殺しワタクシと再会する。


 それを最後に、二つの世界は、ちょうど細胞分裂をなすかのように、メル・アイヴィー、心音こころねけい、二つの核を持ち合わせて徐々に離れて行きました。


 果たして二人は気付くでしょうか。


 互いの細胞の染色体には、一本ずつ欠けた染色体があるように。


 互いの心には、一つずつ欠けた存在があるということに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る