006

「私の名前はハイイロと申します。ケイさんの推理は大体当たっています」


 ハイイロと名乗る男が私たちの会話に割って入ってきた。


 唖然として見入る私たち。

「人間は時として取り返しのつかない過ちを犯してしまうものなのです。世界が明らかに自分に対する態度を変えたのならば、自分も世界に対する態度を改めなければいけない。なぜならば選ばれた可能性が存在するから。答えを言ってはダメなんですけれど、メルさんはどうせ死んでいるので答えを言います」


 その時気付いた。

 音がしない。

 どころか目の前のケイは目を見開いて止まっている。

 食堂にいる皆がすべて止まっている。

 私だけが認知できている。


「あなたは歌で世界を救うはずだった。あなたの歌声は戦争を止め、生命の息吹を復活させ、ラーベルをより穏やかな世界へと変えるはずだった」


 ラーベルとは私の母星のこと。


「見ますか? あなたの死んでから三十年後のラーベルを」


 見せてくれた。

 緑の星は茶色くなった。

 水が存在しなくなった。

 生き物がいなくなった。

 雨が降らなくなった。

 海がなくなった。

 雲がなくなった。


 何があったのかは分からないけれど、三十年後のラーベルは世界が終わっていた。


 私は首に巻いたチョーカーを握りしめる。

 父さんがくれた、真珠付きの黒いチョーカー。

 私はリボンを解いて見てみた。

 涙で滲んだ視線のその先には、母さんがくれたくれたリボンがあった。

 魔法のかかった、絶対に切れない世界で一つだけの大切なリボン。


 私とラーベルを結ぶもの。

 リボン。

 チョーカー。

 私の名前、メル・アイヴィー。

 ストレスで白くなったとされる髪の毛は、種族の誇りを表す、光を照り返す銀の髪色。


 私はすべてを失って、一人のうのうと別の世界で生き残ってしまったのだった。

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