ケンカ

ハチドリ

第1話

「怖いねぇ~…」

隣でさきちゃんが呟いた。

視線の先にあるのは、電柱に張られた顔写真付きの「この顔にピンときたら110番」の張り紙。細い目をしたキツネ顔の男が私たちを見下ろしている。

「一か月で10人惨殺…殺人鬼だって。脱獄したらしいよ、刑務所から。」

そう言っておびえるさきちゃんに、私はきっぱりと告げた。

「だ~いじょうぶだって。私たちには関係ないし。」

「ほら、早く行かないと学校送れちゃうよ。」

それでも少し不安そうな彼女の腕をとって、私は歩き始めた。

「でもあやちゃん…あの人ここら辺に逃げてきたって書いてあったよ。」

「もお~さきちゃんは気にしすぎ!すぐに警察が捕まえてくれるって!それに私が一緒にいるから大丈夫!」

私が意気揚々と告げると、さきちゃんはふふっと笑った。

「あやちゃんは頼りになるなぁ」

ぱっちりした目を細めて花のようにふわっと微笑む彼女に、私はつい嬉しくなってしまう。


私たちは親友だ。

さきちゃんは町でも評判の美人で頭もよく、性格も良い、私の自慢のいとこだ。

彼女の両親は、彼女が小学校高学年になる頃に海外に転勤した。

でも彼女の残りたいという意思を尊重した結果、彼女は私の家に住んでいる。

私たちはいつだって一緒だった。

嬉しいときは一緒に喜んで、悲しいときは一緒に泣いた。

なんとも幸運なことに小学3年生から中学を卒業するまでの7年間、同じクラスだったのだが、地元の公立高校に一緒に進学したタイミングでクラスが離れてしまった。

二人でいる時間が減った分、登下校は絶対一緒がいいと、普段おとなしくあまり自分の意見を言わないさきちゃんが言い張っていたのが印象的だった。

私たちは変わらず仲が良かった。これからもずっと一緒にいれると、そう思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ケンカ ハチドリ @ab-1502

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ