第578話 フロシス・ピングリッターと再戦

「ダンジョンギルドの図書室で調べましたけど、著者の皆さんは同じような情報を貰っているんですよ。

 ダンジョンギルドから商業ギルドを紹介されて、採取パーティーを雇い鉱石掘りを手伝って貰った人。

 金銭的に余裕が無くて採取パーティーを雇えなかったけど、相談した商業ギルドから情報を貰って、レア度の低い鉱石を沢山集めて突破した人。

 ……ソフィ、今回の協力の申し出って、どこから来たんだ?」

「えっ! ……親戚の叔父様。商業ギルドの幹部からよ。ああ、そう言う事ね。

 商業ギルド的に、美味しい稼ぎを隠している?」


 うまい話には裏があるってね。いや、俺達が損をしたり、犯罪に巻き込まれたりする話ではないと思う。精々、狩場の独占くらいだろう。今日一日の行動を振り返り、順におかしな点を話した。

 俺の話を聞く内に、採取リーダーさんの顔から笑顔が消えて行く。


「ああ、山頂の採取地の独占とかだな。崖を登る険しい道+ヴィルファザーンが襲ってくるから複数パーティーでなければならないと教える事で行動を制限させるんだ。この時点でサードクラスパーティーでもなければ単独で行くのは諦めるし、商業ギルドが嚙んでいるとなれば、新たな採取パーティーも参入し難くなる。

 それと、今回の手伝いの契約もだけど、ペンギンに捧げる分以外は各パーティーの取り分になっているだろ?

 採取パーティーは、雇い賃と採取したレア度の高い鉱石で2重の稼ぎになる。

 更に、レア度の低い鉱石を勧めて、弱いピングリッターを倒させる。これは見方を変えれば『この階層をさっさと抜けて欲しい』もしくは、レア度の高い鉱石や宝石を捧げた場合に出る、強いピングリッターのドロップ品を隠したいとか?」

「その辺で止めてくれ。ちょっと大きい声で話し過ぎだ」


 採取リーダーさんは周囲を見回して、他のパーティーが居ない事を確認してから溜息を吐いた。そして、口元で指を立てて、俺の発言を止める。


「そこまでの話は大体合っているが、勘違いするなよ。商業ギルドだけでなく、領主様も了承している話なんだ。結氷鉱石の安定供給をする為には、これくらいの取引があって当然なんだよ」

「まぁ! お父様も?!

 ……冷蔵の魔道具の売り上げを考えれば、無理もない話ですわね」


 確かに、結氷鉱石の入手経路が限られるのならば、仕方が無いかな?

 ダンジョン攻略を目指す探索者が居る以上、騎士団で封鎖して(第2ダンジョンの31層以降みたいに)独占する事は出来ない。サードクラスに至れる若者の芽を潰す事になるからな。そうなると、商業ギルドと結託して情報操作をした方が、影響は少ない。むしろ、情報を操作する事で、この階層の難易度を下げている。

 採取パーティーを雇える金があれば1日でフィールド階層を突破出来る。金が無いパーティーでも情報があれば時間を掛けて採掘し、弱い方のピングリッターと戦えるので、勝率は高くなるだろう。


 取り敢えず、事情としては納得したが、レア度の高い鉱石を捧げた場合が気になる。採取リーダーと交渉してみたところ、この裏事情を黙っている代わりに、情報を教えて貰える事になった。その旨を紙に認めて簡易的な契約書を作成し、サインをする。


「〈契約遵守〉! ……はい、これで契約成立っと」

「ソフィアリーセ様がいらっしゃるから口約束でも構わなかったが、律儀な英雄様だな。

 ……では、あの石像のドロップ品について教えよう。先ずは、この階層で掘れる物の中で一番高い宝石だけを入れた場合だ。宝石の大きさにもよるが、大体30個は必要になる。その代わり、入れた宝石の中で一番数の多い属性の宝殊がドロップするんだ。貴族がインテリアに使ったり、大型の魔道具に使ったりするらしくてな。年に数回程度はギルドに採取依頼が来るが、数日掛けて雪山に泊まり込みになるから大変なんだ」


 宝殊……石玉と同じサイズの宝石の事である。俺達も一度だけ庶民の宝石、琥珀が球体になった物を手に入れたが、それの上位版だろう。ただ、宝石の産出量を考えると、30個を貯めるのはかなり大変そうだ。


 この他にも、ウーツ鉱石や黒魔鉄鉱石を多く入れた場合(約80個)は、それらの金属や合金の武器がドロップ品となる。この時、宝石を混ぜるとドロップ品に付与スキルが付く事もあるらしい。それも、宝石を沢山入れた方が付く確率が高いとか。

 これは武器の種類もランダムで、付与スキルが付くかも低確率でスキルの種類もランダムなので、ギャンブルとしては分が悪い。付与の輝石が必要になるが、付与術師にスキルエンチャントを頼んだ方が好みのスキルを付けられるので良いだろう。

 この仕様を知らない探索者が偶然宝石も入れてしまうとか、何でもいいからスキル付き武器が欲しい(仕入れたい)と言う場合くらいにしか、試す必要は無いと思う。


 そして、俺が気になっていた結氷鉱石を入れた場合だが、次の火山フィールドで役に立つ魔道具がドロップするらしい。

 折角なので、答えを聞く前にチャレンジさせてもらう事にした。


 ペンギンの石像はいつの間にか台座に再出現している。賽銭箱に結氷鉱石を入れ始めると、広場に出現していた転移魔法陣が消えて行った。まぁ、もう一度倒せば良いだけの話である。

 結氷鉱石だけを入れた場合、含有量にもよるが大体30~50個は必要になるらしい。ペンギンの石像が動き始めれば、それ以上入れなくていいそうなので、ペンギンの石像の変化を見ながら投入して行った。


 ペンギンの足元から徐々に青白い金属へ変化していく。それが頭の天辺まで変化し終わると、動き始める。そして、賽銭箱に掛かれた文字も変化していた。


『我好みの鉱石を良く揃えた。褒めて使わす。

 次は、この先に進む力があるのか、試させてもらおう。

 我を倒して見せよ!』



【魔物/罠】【名称:フロシス・ピングリッター】【Lv45】

・雪山鉱山の番ペンゴーレム。捧げた鉱石の種類と量により、その身に纏う金属が変わり、強さが変動する。

 この個体はフロシスメタルを主体に纏っており、氷属性を乗せた騎士系ジョブのスキルを用いて戦闘する。元が石像なだけに、重量を活かした一撃や〈シールドバッシュ〉は驚異的だが、装備がフロシスメタル製なため火属性に弱い。

 活動範囲が決められているゴーレムの為コアは無く、半壊以上にすれば機能を停止する。

 見事討伐出来た際には、沢山の鉱石を集めたご褒美として、次の階層で役に立つ魔道具をドロップする。

・属性:氷

・耐属性:土

・弱点属性:火

【ドロップ:凍える北風】【レアドロップ:無し】



 属性が氷であるが、弱点は中級属性ではなく火属性。恐らく、解説文にある通りフロシスメタルを纏った影響だろう。アレ、熱を通すと冷却性能が落ちるって素材だからな。

 これに対し、開戦の狼煙としてソフィアリーセが魔法を放った。


「〈魔攻の増印〉! 〈アグニズ・ジーゲル〉!」


 二重の結界がピングリッターを包み込み、内部を爆破した。火属性の最大火力であるが〈敵影感知〉によると、まだ健在である。中身は石のゴーレムだからな。石じゃ火傷も窒息もしない。追撃は必要だ。


「〈プリズムソード〉!」


 俺も既に追撃の準備を整えた。ギャラリーが多いので、魔法で終わらせた1戦目とは違いパフォーマンスを取り入れる事にする。

 この広場はザゼンソウに囲まれた休憩所でもあるので、暖かい。ブラストナックルを解除して、代わりに聖剣クラウソラスを装備したのだった。聖楯とのコンボまでは必要ない。ヴァルキュリアは目立ち過ぎるので、俺達の活躍まで喰ってしまうからな。


 俺の周囲に、火水風土氷雷光の7属性の光剣が出現した。精霊の祝福の無い光属性以外は、ロングソードサイズにパワーアップしている。と言うか、いつの間にやら7本全部召喚出来るようになっていたようだ。いや、聖剣自体は兎も角、ヴァルキュリアが来るまで〈プリズムソード〉を使う機会が減っていたからな。使う時も属性指定、本数指定していた為、気付かなかったよ。


 ただ、視界にはロックオンカーソルが映るが、7つもあるとちょっと邪魔だな。それに、炎の結界が消える前に、ロックオンカーソルを動かしてピングリッターを指定するのだが、7つもあると面倒臭い。視線だけでカーソルを動かしていると、隣のカーソルに引っ掛かってしまった……と思ったら、接触したカーソルがくっ付いて一つになってしまう。もう一つくっ付けてみると、それも合体して一つになる。それを繰り返していくと、7つのカーソルが全て纏まってしまった。

 ……一斉攻撃用になったのか?

 確かに、7本あっても戦闘中に指示を出せるのは1、2本が良い所。残りをオート攻撃に任せているのだが、集中攻撃指示が出来るなら、そっちの方が良いか。


 炎の結界が消えて、ピングリッターが姿を現した。その胴体にロックオンカーソルをセットし、聖剣を構えて攻撃指示を出す。


「行けっ!!」


 周囲に浮かんでいた光剣が一斉に動き出す。切っ先をピングリッターに向けると、同時に射出されて行った。

 残像を残すほどの速度で射出された光剣が、ピングリッターの構えた盾に殺到する。そして、3本が盾を貫通し、4本が盾に阻まれて跳ね返された。貫通したのは弱点の火属性、上位属性の光と雷だ。ピングリッターの耐性が氷と土なので、効かなかったとして、残りの水と風は攻撃力が足りなかったのか……いや、ピングリッターが騎士系スキルを使うなら、〈城壁の護り〉で耐久値を上げていた可能性もあるか。盾を構えていたし。


 攻撃はそれだけでは終わらない。突き刺さった3本は、横に切り払い盾を破壊すると他の光剣に合流する。7本の光剣が、ピングリッターの周囲をクルクルと踊るように舞い、次々と斬撃を放った。精霊の祝福で強化された6本は滑らかに舞っている為、見えない誰かが手に持って踊っているようだ。


「わ~、群舞じゃん。しかも、結構上手い」


 そんなフィオーレの声が後ろから聞こえて来た程である。

 ソードダンスにピングリッターが切り刻まれて行く。盾を破壊され、ガードする剣もへし折られ、両腕(羽根)をボロボロにされているが、騎士ペンギンだけあってしぶとい。

 時間を掛ければ光剣だけでも倒せると思うが、俺も参戦して終わらせるか。ロックオンカーソルを胴体から頭に移すと、ソードダンスを踊る光剣達の高度が上がった。これで胴体はがら空きである。

 俺は突き攻撃をするように聖剣を構え、スキルを発動させた。


「〈炎雷ほのいかずち!〉」


 雷速の突きがピングリッターの腹を貫く。スキル後の硬直は短い。周囲の驚きの声が聞こえる頃には、横に剣を振るい、更に袈裟斬り、逆袈裟斬りで×の字斬りでピングリッターを4分割にした。


 〈敵影感知〉の反応も消えたので倒したようだ。周りに分かるように聖剣を掲げ、光剣の攻撃指示を解除して周囲に集めると、歓声が上がった。

 ……うん、反応はまずまずかな?

 一応有名になっているので、相応の実力があると見せておかないとな。ヴァルキュリア無しでも、これくらいは楽勝なのだ。聖剣はちょっとズルいが。


 ピングリッターの残骸が消えて行くと、足元に転移魔法陣が出現し、ドロップ品も出現した。

 それは、500mlペットボトルサイズの円柱である。外見は金属っぽいが、手に取るとそこまで重くない。円柱の上部には首に掛けるような紐も付いている。見覚えがあると言うか、第1ギルドのレアショップで販売している魔道具だ。



【魔道具】【名称:凍える北風】【レア度:C】

・風晶石で風を起こし、フロシスメタルで風を冷やす魔道具。魔結晶を動力源にしており、風晶石を消費しないような作りになっている。かなりの低温の風を生み出す為、砂漠や火山などの極地であっても身体が凍える程である。適温になるように風量調節しよう。

 断熱加工をされているので魔道具に触れても大丈夫だが、吹き出し口は冷たくなるので直接肌に触れないように。



 そう、砂漠フィールドの時に買った冷風の魔道具『涼やかな北風』の大型上位版である。あっちが涼しい風の出る携帯扇風機なら、凍える北風はスポットクーラーだな。

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