第576話 雪山でしか採れない素材

 魔物を討伐し、ドロップ品のウーツ鉱石を回収した後は、土山の採掘に取り掛かった。

 ベルンヴァルトがツルハシで大雑把に突き崩し、俺が大きいシャベルで鉱石が入っていそうな部分を選り分け、女性陣が小さいスコップやブラシで選別を掛ける分担作業である。

 お嬢様ズはこういった土に汚れる仕事を嫌がるかと思いきや、金策の一環として教えられて学園ダンジョンで実践して来ているそうだ。「後で〈ライトクリーニング〉をしてくれるのならば、手伝いますよ」と快諾してくれたので、皆で作業となった訳である。

 流石に6人居ると、早い。特に女性陣は円陣を組んでお喋りタイムである。折角なので、俺も先程の戦闘の反省会を提案して、意見を出してもらった。


「やっぱり、開幕で〈アシッドレイン〉を2連打した方が早いかもな?」

「いや、それだと魔法だけで終わっちまうだろうが。殴り甲斐のある魔物なんだから、こっちにも寄こせよ。俺の集魂玉が溜まらんだろ」


「そうね。わたくしの〈メイルシュトローム〉の強さで活躍する、良い機会ですもの。先程の戦いでも、もう少し引き付ければ4体まとめて倒せたかも知れませんわ」

「いや、あのリビングメイルの動きは素早かったでしょ。〈カバーシールド〉があるとは言え、無理せずソフィに攻撃が届く前に、魔法の結界で包んだ方が良いわよ。残った魔物は前衛の私達で相手をすれば良い……ちょっと、硬いのが難点だけど」

「あー、私の耐久値を下げる〈空虚のドルシネア〉を掛ければ、剣でも切れるんじゃない?

 さっき使った〈囚われのメドゥーラ〉は効いてなかったぽいからね。アイツら、足動かさずに移動するとか卑怯だよ」

「私も弱点のコアの位置を見破るくらいしか役に立てませんでしたからねぇ。〈不意打ち〉が効かないゴーレム系は苦手です。ザックス様によると、目で見ているのではなく、全周囲のマナの動きか何かを感知して……あっ! 初めて見る鉱石が出てきましたよ!」


 そう言って、レスミアが俺の方へ石玉を転がしてくれた。それを拾ってみると、確かに石玉の一部が青白い金属になっていた。



【素材】【名称:結氷鉱石】【レア度:C】

・気温の低い階層でしか取れず、魔力を流すと冷気を発するフロシスメタルを含んだ鉱石。フロシスメタルは硬度が低く、武具には向かない金属であるが、その冷やす能力故に魔道具に使われる。

 ただし、炉で溶かしてしまうと、冷却性能が著しく落ちてしまう。鍛冶師か錬金術師のスキルでインゴット化して、錬金調合や〈メタモトーン〉などで加工しよう。



 『魔道具に使われる』と言う文言でピンッと来ると思うが、冷蔵庫の材料である。断熱材で作った箱の内側をフロシスメタルで冷やすそうだ。特に冷蔵の魔道具は食料の保存に欠かせないので、飲食店のみならず一般家庭にも広く普及している(大きさによるが数百万円程度なので、平民でも頑張れば手が届く)。勿論、こういった雪山フィールドの様に低温階層がない町や村にも輸出をしている。

 その需要の多さが、42層に来る採取パーティーが多い理由でもあった。

「おーそりゃいいな。暇な時で良いからよ、俺の部屋に置く用に、酒樽が丸ごと冷やせる冷蔵の魔道具を作ってくれねぇか?」

「いや、大き過ぎだろ。それに、このフロシスメタルで箱を作れば良いって訳じゃないだぞ。断熱材で覆わないと、部屋ごと寒くなってしまうし、補助動力箱を取り付けないと魔力供給も難しいんだ」

「……夏場なら冷房代わりになるか?」

「多分、魔力効率は悪いと思うぞ」


 冷蔵庫を開けっぱなしにして冷房にするようなものだろう。

 それに、フロシスメタルそのものを触って魔力を流すことは出来るが、ずっと触っていては冷た過ぎて凍傷になってしまうらしい。この金属が取れる事を知った際に色々調べてみたのだが、扱いは難しいそうだ。とある金属との合金にすれば、冷やす温度を調節出来るらしいけど開発した工房の機密事項。断熱材についても錬金術師協会で古いレシピが売っているがかなり高額で、勿論最新レシピは非公開だ。


 なので、自作冷蔵庫を作ろうとすれば、かなりの試行錯誤が必要になるだろう。現状だと、そこまで時間を掛ける暇は無いかな?

 多分、そんな暇があれば、銀(黒、金)カードを量産してくれって発注が増えるだろうし……学園に通う事になって、暇が出来れば夏用に何か開発できれば良いな。作業をしながら、そんな愚痴を言うと、ソフィアリーセが笑い返した。


「聖騎士が増えれば〈ライトクリーニング〉の使い手は増えるけれど、カード化する事が出来るのはザックスだけなのよね。まだまだ、忙しいと思うわよ。

 それに、学園の先生の中には合金を研究している方もいらっしゃるから、その先生の講義を受けるのも良いわ。確か……錬金術の先生だったかしら? わたくしと一緒に受講なさい」

「ええと……3年生に混ざって良いのですかね? 付いて行けないような?」

咲誇ショウココースでも、受講しに来る錬金術師の家系の人は居るから、大丈夫だと思うわ。基本的に座学ですもの。むしろ、錬金調合で商売をしているザックスは、実演を任せられるかも知れないわよ。

 …………あら? ちょっと待って。この青い石は宝石かしら?」


 ソフィアリーセがブラッシングをしていた石を持ち上げて、皆に見せる。

 それは、クリスタルのような質感の青い石玉であった。色合いはマリンブルーのような濃い青である。勿論サファイアのような輝きは無いので違う。水晶石(水属性の魔水晶)にしては、棒状じゃない。初めて見る鉱石なので〈詳細鑑定〉を掛けようとしたところ、レスミアが手をパンッと叩いて喜びの声を上げた。


「ブルーロックソルトじゃないですか! 貴族街で売っている、高級なお塩ですよ!」



【素材】【名称:ブルーロックソルト】【レア度:C】

・水属性のマナが多量に含まれた、水色の岩塩。料理や薬品調合に使うと、味を融和させる。岩塩特有の苦みや臭いが無く、スッキリとしたしょっぱさの中にかすかに甘味を感じられる。メインに使うのではなく、隠し味程度に使うと良い。

【水属性】【熟成-%】



「1個5千円と、ちょっとお高いのですけど、煮込み料理にちょっとだけ入れると味がまとまるんですよ~。お肉にはちょっと弱くて負けちゃいますけど……これで作った塩キャラメルクッキーは、甘しょっぱくて抜群に美味しいですよ!

 ただ、原価が高くなっちゃうので、お店には出していません」

「あー、いつだったか、屋台用の試作で作った奴だっけ? 美味しいから、ぱくぱくって無くなっちゃったんだよね」

「フィオが摘まみ食い過ぎたせいで、キッチンメンバーの試食分しか残らなかったの! 反省してよね!」


 悪びれもしないフィオーレは、軽くチョップを受けて成敗された。まぁ、いつもの事だ。

 それはさておき、街中で出回っている食材の為か、既にレスミアのレパートリーに入っているみたいである。値段が高いと言っても、石玉サイズの岩塩ならば、削れば結構な量になるだろう。取れた分は全て料理人コンビに回すとしよう。


「この階層で獲れた分はレスミア達に任せるよ。ただ、その代わりにお願いなんだけど、明後日の火山フィールド用に水分と塩分が補給できるスポーツドリングと、スタミナが回復する効果のお菓子を準備しておいてくれ。多分、汗を大量にかくから塩分補給も必要なんだ」

「はい、わかりました~。薄めの蜜リンゴ水に、お塩を少し混ぜた奴ですよね? 明日、沢山作って冷やしておきます。

 お菓子は……スタミナッツ系ですね。折角なので、塩キャラメルナッツが良いかな?」

「えー、夏みたいに暑い場所なんでしょ? 冷たいアイスクリームとかアイスキャンディーが良いなぁ」


 フィオーレは行楽気分な気もするが、火山がどんな所が分かっているのかね?

 いや、俺も実際に行くのは初めてだけど……ふと、アイスクリームで閃いた。


「そう言えば、バニラアイスに塩を掛ける、塩アイスなんてのもあったな。ブルーロックソルトを掛けたら美味しいかもよ」

「ちょっと待った! それはアイスクリームに対する冒涜ではないか?!」

「甘い物に、塩を掛けるのですか?」


 お嬢様ズが困惑した声を上げた。そう言えば、まだ加入して日が浅いから、棒状に固めた塩キャラメルナッツ(スタミナ回復用)をオヤツに出していなかったかな? こっちだと、塩スイーツは一般的でないのだ。

 採取が終わったら、小休止のお茶菓子として出そうか。そんなお菓子談義をしながら、作業は続けられた。




 最後の土山をベルンヴァルトが突き崩す。

 ここまで採掘をしてきたが、鉱石の量も多いし、金属の含有量も多いように見受けられた。42層と深くなって来ただけでなく、採掘師のスキルの影響もあるのだろう。レア度高めな『結氷鉱石』や『ウーツ鉱石』、『ブルーロックソルト』も多く採れている。


【スキル】【名称:レア魔鉱脈狙い】【パッシブ】

・鉱石系の素材の中でも、レア度の高い鉱石が出やすくなる。ON/OFF切り替え可能。


【スキル】【名称:鉱脈の見極め】【パッシブ】

・採掘をして鉱物を掘り当てた際、鉱物の含有量が増える。



 スキルを見直していたら、ここまで忘れていたスキルがあったのを思い出す。

「〈サーチ・ボナンザ〉!

 ……お、2個所も反応しているじゃないか!」


【スキル】【名称:サーチ・ボナンザ】【アクティブ】

・術者周辺の地面に埋まっている鉱石を探査する。

 マナが濃い場所、及び深く埋まっている程に良い鉱石が眠っている。


 反応があったのは、リビングメイルが経っていた辺りの壁……5m幅くらいと、部屋の真ん中の地面である。

 折角、見つけたのだから、ついでに採取して行こうか。

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