第471話 魔喰抜剣と高所からの名乗り
倒された無数のスケルトンとゴースト達が霧散していく。
周囲もひどい有様で、墓石は粉々に砕かれ、地面は抉れている。周囲に生えていた幽魂桜の幹も圧し折れて、折角実ったサクランボを周囲に巻き散らしていた。
〈スキル鑑定〉の結果から強いとは思っていたが、予想以上の強さだ。振り返ると、休みの日だというのに同行してくれたレスミアとベルンヴァルトが呆れていた。
「ザックス様、やり過ぎですよ~。キルシュゼーレが実った桜の木まで倒すこと無いじゃないですか……」
「ごめん。アレは俺も予想外だったんだ。木の近くにいたゾンビごと薙ぎ倒されるとかさ。まぁ、実ってない幽魂桜は意図的に壊すよう命令したけど」
「本当に俺らの出番なんてなかったな。あの数を一方的に倒せるとか……51層くらいのダンジョンなら、リーダー1人で攻略出来んじゃねぇか?」
「いやいや、これはMPの消耗が半端ないから、普段使いなんて出来ないよ。強敵に対しての、切り札中の切り札が良い所だって。聖剣と聖楯を使うから、アビリティポイントを他に回せないし」
二人に弁明しながら、俺は右手に持っていた聖剣クラウソラスを、左手の
聖楯に付与された〈聖剣共鳴〉のスキルを有効化するのは、聖楯に聖剣の鞘を刺すことが条件だったらしい。その状態で〈プリズムソード〉を使ってみたところ、魔物群れを一掃する程に、光剣が超強化されたのだ。
実験場となったのは36層の墓地フィールド、その一番奥の広場である。エントランスの転移ゲートで一旦37層に降りてから、階段で登って来たのだ。どうせ戦うのなら、あわよくば亡霊武者が出ないかなと考えたのである。
休みの日に同行してくれている二人は、『午前中だけ、亡霊武者以外は戦わなくて良い、採れたキルシュゼーレを分配』と言う条件で来てくれている。まぁ、そこまで言わなくても付き合ってくれるのだが、一応雇い主だからね。
こうして話している間にも血魂桜と亡霊武者は出てこないので、ハズレのようだ。伯爵夫人が言っていたように、
3人でドロップ品やキルシュゼーレを集めて、次の墓地へ移動した。
右手の指で丸を作り〈モノキュラーハンド〉の望遠機能を使って偵察する。見つけた霊園は、真ん中に高い墓石……上に上るには丁度良さそうな物が立っていた。確か、ニンジャ餓鬼が登場したのも、アレくらいの高さだった気がする。
それを守るのは、牛頭鬼が1匹とゾンビ数匹だけの小さな群れなので、試すには持ってこいだ。
特殊アビリティ設定を変更し、ブラストナックルとミスリルソードを取り出す。ついでに〈緊急換装〉も変更してっと。
「今度は聖剣無しで行くのかよ……まぁ、ミスリルソードがあれば大丈夫だとは思うけどよ」
「司祭の〈ホーリーウェポン〉くらいは、掛けておいた方が良いですよ」
「多分〈ホーリーウェポン〉を掛けると楽勝になっちゃうからなぁ。〈ヒートアップ〉のスキルを試したいから、ある程度は殴れる方が良いんだ」
心配するレスミアに、ブラストナックルを嵌めた右腕を掲げて見せて、大丈夫だとアピールしておく。そして、俺一人で霊園の中へと足を踏み入れた。
奥に居る牛頭鬼が侵入者に気が付き、ドラムの如く墓石を叩き始める。最初に居たゾンビ餓鬼達も、途中の墓石に引っ掛かりながら、数を増やしていく。
接敵する前に、俺も準備を整えていた。ブラストナックル越しにミスリルソードへ魔力を注ぎ込むと、〈魔喰掌握〉の効果が発動し、手の中から剣が消える。無事、取り込まれたようだ。〈軽量化〉の効果か、ブラストナックル自体も軽く感じた。
【武具】【名称:ブラストナックル】【レア度:A】
・アダマンタイトとミスリルの合金と、火竜の革から作られたガントレット。各金属特有の特徴は失ったが、硬度と軽量化、魔力伝達率が両立している。魔力を込めるとガントレット全体の温度が上がり、火属性を帯びる。更に、魔法陣に充填した状態で殴れば、そこに〈ファイアマイン〉を埋め込む。
・付与スキル〈ヒートアップ〉〈熱無効〉〈ファイアマイン〉〈魔喰掌握〉【〈剛腕〉〈敏速〉〈軽量化〉】
ただ、取り込んだだけなので、付与スキルが統合されただけに過ぎない。いや、これでも十分に強いのだが、更なる一歩、真なる力を解放する。
「
次の瞬間、ブラストナックルの甲に嵌まっているルビーのような宝珠が光り、そこから剣が生えた。赤くメタリックな色のミスリルソード……いや、半分の長さになったミスリルソードが、両手の甲から出て来たのである。ある意味、手刀の延長だな。
・〈魔喰掌握〉:他の武具へ魔力を流すことで、その武具を取り込み、付与スキルを一時的に借りることが出来る。また、その状態で『魔喰抜剣』と発すると、その武具を取り込んだ形態へと移行する。『魔喰解放』と発すると、取り込んでいた武具を解除する。
魔力を流せば、ブラストナックルだけでなく、甲から生えた剣も発熱した。〈熱無効〉のお陰で熱さなど分からないが、剣部分を光に翳せば空気が熱気で歪んで見えるからだ。ゾンビ達は火属性が弱点なので丁度良い。
近付いてきたゾンビの群れに突撃した。
手刀の要領で双剣を振るい、ゾンビ共のボロボロの鎧や、ボロボロの剣ごと両断する。弱点属性を突いたうえでの、ミスリル武器である為か、雑草でも切っているかのような手応えでザクザク切れた。しかも、短めの剣であり、手刀の延長として振るえるので、扱いやすい。昨日はロングソードで二刀流を試していたが、〈二刀流の心得〉があっても上手く使いこなせたとは言えない。やはり、忍者らしく短刀の二刀流の方が、らしいのかもな。
あ、軽戦士が覚えた〈連撃の心得〉で攻撃力が上がっているのもあるか?
フィオーレの剣舞の様に華麗とはいかないが、動きを止めないよう流れるような足さばきを意識して、両手の剣を振るった。
群がるゾンビを前から順に切り倒し、囲まれないように左右に〈フェザーステップ〉を入れながら、斬りまくる。偶に反撃が来るが、回避して〈カウンター〉するのも良いし、その攻撃を武器ごと破壊し返しても良い。そして、切り捨てるごとにテンションが上がってくるのが分かった。ゾンビを焼き切る嫌な臭いが周囲に立ち込めているが、テンションが上がるにつれて、気にならなくなる。むしろ、思わず笑いたくなってきた。〈ヒートアップ〉の効果は、魔喰抜剣で出した武器にも適用されるようだ。
・〈ヒートアップ〉:ブラストナックルに魔力を流すことで、発熱する。流す魔力が増えるほど温度も上がるが、自身が身に着けている物には影響しない。また、この状態で敵を攻撃する毎にテンションが上がり、火属性魔法の充填速度をアップする。
戦いながら、充填を開始。驚くほど速く完成した魔法を、目の前にぶっ放した。
「ハハハハハッ! 焼き尽くせ! 〈フレイムスロワー〉!」
自分が効果範囲に含まれる程の至近距離で、炎が噴き出した。敵味方識別が無い範囲魔法な為、自分にも属性ダメージが入る。しかし、テンションが上がっている為か、HPバーが数mm動いた程度では気にする程でもない。
・〈熱無効〉:温度変化に絡む影響を全て無効化する。爆風やブリザードの影響を受けず、凍結の状態異常も無効化する。また、火属性と氷属性に対する属性ダメージを大幅に軽減する。
無論、吹き出す炎なんて熱くもない。周囲のゾンビ共が悶え苦しむ中、平然と動いて頭を両断してやったぜ!
……ここまで、やってしまえば、検証としては十分だろう。次に行こう!
魔物を切り刻みながら、次なる魔法陣を充填する。大きなランク7の魔法陣だが、テンションが上がりに上がっているせいか、30秒も掛からずに完成してしまう。普段の3倍くらいの速さだ! いつも、これくらい早いと良いのにな。
「真紅の爆炎よ! 不死なる亡者共を灰燼と化せ!!〈エクスプロージョン〉!!
『魔喰解放』!からの……〈緊急換装〉!」
奥に居る牛頭鬼を中心に広範囲魔法をぶっ放した。これで、現状立っていたゾンビ共を一掃する。どの道、ゴーストとスケルトンになって増えるのだが、復活までの時間を使って、装備の切り替えを行う。
先ずは魔喰解放を宣言する。すると、両手の甲から生えていた剣がフッと消え、虚空から鞘に入ったミスリルソードが現れた。それが地面に落ちる前に、次なる手を連続発動する。
〈緊急換装〉で特殊武具とジョブを入れ替えた次の瞬間、視界が少し狭くなった。ミスリルフルプレートを自動で身に着けたからである。ただし、メタリックグリーンな鎧の中で、唯一違う色が混ざっていた。両手にメタリックレッドなブラストナックルが装備したままなのだ。
これぞ、次なる検証である。両手のブラストナックルで、二の腕辺りの鎧を掴み、魔力を流す。すると、ミスリルフルプレートが消えてしまう。〈魔喰掌握〉で取り込んだのだ。
ただし、下に来ていた肌着と靴下姿になってしまう。〈緊急換装〉で着替えると、元々来ていた装備はストレージ行きになってしまうのを忘れていた。
まぁ、周囲は〈エクスプロージョン〉の火球を圧縮中なので、外からは見えないか。さっさと着替える事にする。
「魔喰抜剣!」
ブラストナックルの甲にある宝石が光を放つ。その光は俺の身体にまで広がり、次の瞬間には、又視界が狭くなっていた。自分の身体を見回してみると、それはメタリックレッドなミスリルフルプレート……いや、鎧の表面にはウロコ状の装甲が増えている。どうやら、ブラストナックルの意匠を引き継いでいるようだ。ドラゴンフルプレートと呼称するべきか?
そのまま両手に魔力を流すと、その流れは全身へと行き渡る。ミスリルソードの時と同じく、〈魔喰掌握〉で取り込んだミスリルフルプレート全体が〈ヒートアップ〉の効果で発熱しているようだ。
……良し! 成功だ!
そのまま前に走り出す。倒れているゾンビは死んでいるので無視し、霊園の真ん中の高い墓石へと向かう。
墓石の前には、〈エクスプロージョン〉の炎に耐えている牛頭鬼が居る。〈魔攻の増印〉を使っていなかったので、死に損ねたらしい。テンションが上がり過ぎて忘れていたが、サンドバックには丁度良い。ファイティングポーズを取りながら、〈ボンナバン〉で前に跳んだ。
牛頭鬼の目の前に急停止する。そのまま、向こうが気付く前に、渾身の右ストレートを牛面に叩き込んだ。
「〈正拳突き〉! ……〈三日月蹴り〉! ……〈双竜脚〉!」
灼熱を帯びた打撃をくらい、牛頭鬼が悲鳴を上げて怯む。その隙をついて、武僧のスキルを連打した。ミスリルフルプレートを身に着けているせいか、いつもよりスキル後の硬直が長かったが問題ない。(武僧ジョブは装備品が軽い程、硬直が短くなる特性がある)
〈三日月蹴り〉で脇腹を陥没させ、〈双竜脚〉で牛頭鬼の角を圧し折ったので、程なく死ぬだろう。そんな、死に様を見届ける必要も無い。崩れ落ちる牛頭鬼を踏み台にして、墓石へ飛び移った。
ミスリルフルプレートの〈接地維持〉の力を借りて、無理やり駆け上がる。レスミアの様に壁走りが出来ればいいのだけど、俺の手持ちのジョブに、そんなスキルはない。高い場所へ昇る方法を考えたのが、この〈接地維持〉を使った方法なのだ。足の裏が垂直の墓石にくっ付いてくれるので、それを頼りに無理矢理昇る。途中で〈エクスプロージョン〉の大爆発が起こり、その閃光を背中に受けたのを感じながら、上に駆け上がった。
そして、最後の方は失速しかけたが、頂上に手が届いたので、なんとか登ることが出来た。高さは6mくらいか?
下の方を見ると、爆風が収まりスケルトンやゴーストが復活し始めていた。キョロキョロしているので、俺の姿を見失っているようだ。それではいけない。折角、目立つために、こんな所にまで登ったのだから。
下を見据えながら腕を組み、〈ヘイトリアクション〉の効果を載せて、口上を叫んだ。
「地獄から蘇った亡者共よ! 遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!
俺こそがザックス! 貴様らを黄泉に送り返す者の名だ!!」
〈ヒートアップ〉のテンションのままで叫び、決めポーズを取った。少し気持ち良い……のだが、反応が無いのは少し寂しいな。いや、スケルトンもゴーストも喋らないから、しょうがない。
下を見ると、効果があったのかクモの糸に群がる亡者の如く、墓石に集まってきていた。取り敢えず、こんなものだろう。後は残敵掃討のみ。〈聖光錬気〉を使って聖なる光を全身に纏い、下に居るスケルトンに向かって飛び降りた。
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小ネタ
冒頭の聖剣 クラウソラスと聖楯、及び聖剣 天之尾羽張の付与スキルの詳細については、まだ内緒です。
然るべき時に使いますので、その時までお待ちください。
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