第411話 ランク7広範囲魔法の試し打ち

【スキル】【名称:初級属性ランク7、広範囲魔法】【アクティブ】

・指定範囲に存在する全ての敵に対して、高威力の属性ダメージを与える。

 これら魔法には敵味方識別機能が付いており、範囲内にいる敵周辺にしか影響を及ぼさない。


 火:エクスプロージョン(指定位置を中心に火属性の大爆発を起こして、全てを焼き払う)

 水:アシッドレイン(指定範囲にマナ製の強酸性の雨を降らせる。強酸による継続ダメージに加え、敵の防具や甲殻などの防御力を下げる)

 風:トルネード(指定位置に巨大竜巻を生み出し、周辺の物を吸い込み、風の刃で切り刻む)

 土:グランドファング(地面から牙のような岩を多数射出、上から落ちる牙と、下から突き上げる牙で敵を噛み砕く)



 この中で〈グランドファング〉だけは、砂漠フィールドのレア種サソリに撃たれたから知っている。属性ダメージだけでなく、多数の岩が上下から襲ってくる恐ろしい魔法だったからな。あれが自分でも使えるとなると心強い。しかも、敵味方識別機能付きはありがたい。ランク6の〈ツナーミ〉でもそうだったが、範囲が広い分だけ味方も巻き込み易いからな。

 思い返してみると、〈グランドファング〉の上顎たる岩の牙も、敵である俺達周辺にしか振ってこなかった。あれも、敵と識別した者だけに降っていたのかもな。




 早速、検証だ!

 お誂え向きに、斥候役の餓鬼がキノコで釣れた。意地汚くも拾い食いをしていたので、残りの3匹は小角餓鬼だけと推測出来る。ならば、弱点の風属性の〈トルネード〉だな。名前もシンプルで、どんな魔法なのか想像しやすい。

 ワンドの先に魔法陣を展開する。それは〈プラズマブラスト〉と同じくらいに巨大で、複雑な文様が描かれた物だ。なので、充填するのもランク3の範囲魔法の倍は時間が掛かる。魔道士になって〈充填速度小アップ〉を覚えているので、村時代よりは早い筈であるが、それでも戦闘中に充填する暇は無いな。ランク3と同じく、開幕で撃つ魔法だ。


 標的が居たのは小部屋の様である。ランク3でも〈魔攻の増印〉付きなら一掃出来るし、広範囲魔法を使うには狭すぎると思う。ただ、ランク3〈ロックフォール〉の時でもあったが、魔法の方が狭い場所に合わせてくれたので、多分大丈夫。

 部屋の入口に躍り出て、ワンドを構える。そして、中でだらけている小角餓鬼の1匹を選んで点滅魔法陣をセット。小部屋の床全体を覆うほどの大きさに驚きながらも、発動させた。


「〈トルネード〉!」


 床に展開されていた点滅魔法陣が回転し始めると、中心に白く細い竜巻が登り始めた。それは徐々に太くなりながら天井と床を繋ぐ。この時点で小角餓鬼は、床に倒れて動かなくなった。恐らく属性ダメージで倒れたのだろう。

 しかし、魔法は止まらない。5秒、10秒と時間が経つにつれ、竜巻がどんどんと大きくなっていく。既に部屋の半分が竜巻だ。小角餓鬼の死体も飲み込まれて、何処に行ったのかも見えない。

 30秒も過ぎると部屋の中が白い竜巻で埋まってしまった。あれだ、映画のツイ〇ターを思い出すかのような光景だ。(注:サメの方ではない)

 白い風の流れで中は見えないが、偶にエメラルドグリーン色の剣閃が走っている。多分、中は風の刃がミキサーの如く荒れ狂っているのだろう。


 そして、気になっていた敵味方識別の効果も確認するべきだろう。右手にランク1の魔法陣を展開し〈フィリングシールド〉を保険としてから、恐る恐る竜巻の中に手を入れる。すると、右手を差し出した分だけ竜巻が凹んだ。更に腕ごと突っ込んだが、同じだけ凹む。いっその事、身体ごと入ってみたが、俺の居る場所だけ四角く切り取られた様に竜巻の影響が及ばない領域が出来たのだった。中から見ると、小石や小角餓鬼の破片が風と共に回転しながら中心へと引き込まれ、中心の風の刃で切り刻まれてから上に吹き飛ばされていた。そして、天井に当たって最外部へと流れていく。


 なるほど、〈ストームカッタ―〉の上位互換だな。飛んできた石が、俺の周囲に来るとあり得ない角度で避けていく。物理法則を無視しているように見えるが、魔法法則ならば仕方ない。安全である事が確保されている事を確認出来た。


 効果は1分程で終了し、竜巻は消えていった。残ったのは、バラバラになった小角餓鬼の死体と防具達だ。その様子が、魔法の威力を物語っていた。

 効果が消えたのが見えたのか、レスミア達が小部屋に入って来る。


「あぁ、良かった。大丈夫とは言っていましたけど、あんな魔法の中に入って行くのを見るのは、ひやひやしましたよ」

「最初に手で試した時に大丈夫だって言ったろ。中に入っても、風すら感じない程、影響は無かったよ。

 ここまで影響を受けないなら、パーティーごと巻き込んで撃つのも戦術になるな。

 敵だけ風に動きを阻害されて、風の刃で斬られる。その隙を狙って俺達が攻撃、みたいな感じか?」

「うぁ、ザックスがまた、えげつない戦法を考えてるよ~」

「しっかし、バラバラで酷い惨状だな……重戦士の大角餓鬼と戦うには有効だと思うが……あの中に入るのは勇気がいるな」


 さしものベルンヴァルトも、二の足を踏むような竜巻だったようだ。

 なので、次はパーティーごと巻き込む形で発動する事にした。リーダー権限である。騎士の〈中隊指揮〉が効いたのか、皆さん渋々ながらも了承してくれたのだ。




「〈エクスプロージョン〉!」


 通路の奥に居た牛頭鬼(重戦士の方)と戦闘に入ってから、魔法を発動させた。通路いっぱいの魔法陣は中心の牛頭鬼に、奥の魔法使い餓鬼だけでなく、俺達も範囲に入っている。

 最初に、全周囲が炎に包まれた。敵は属性ダメージが入り絶叫を上げているが、透明な結界に守られた俺達にはまるで影響はない。範囲は凄いが、こんなものかと見ていると、これが只の炎でないと見えてくる。炎の領域が狭まって行く……否、巨大な球状の炎だったのが、どんどん小さくなって行くようだ。最初の炎は、巨大な〈ファイアーボール〉だった訳である。

 巨大な〈ファイアーボール〉が、どんどん圧縮され小さくなっていく。それは気球大から、バスケットボール大、硬球大と姿を変え、遂にはビー玉サイズへと姿を変える。

 次の瞬間、ビー玉にヒビが入り、大爆発を起こした。爆炎と爆風が通路内を蹂躙する。もちろん、俺達は敵味方識別の結界に守られているのか、熱波どころか風すら感じない。爆炎で見えないが、牛頭鬼が絶叫を上げているので、ローストビーフになっている事は想像に難くない。ナンマイダブ、ナンマイダブ。


 この魔法も、発動から圧縮まで30秒、爆発と爆炎で30秒、計1分と言ったところだった。〈フレイムスロワー〉なんかより長く吹き荒れていた爆炎も、効果が消えると同時にふっと消えていく。残されたのは、黒焦げになり膝を突いた牛頭鬼だけである。奥には2つの炭の塊が落ちているが、恐らく小角餓鬼だ。少しだけ、山賊達を思い出して、嫌な気分になっていると、牛頭鬼が呻き声を上げて動き始めた。

 しかし、動くのがやっとなもよう。流石に鉄の鎧は溶けていないのだが、鉄の伝熱性を考えたら、中身は酷い火傷状態なのは想像に難くない。金棒を杖代わりにして立ち上がるが、身体の各部から細かい炭が零れ落ちる。

 重戦士タイプなだけあって、弱点属性のランク7に耐えるのはあっぱれなHP量であるが、あの様子では早く終わらせてやった方が良いだろう。ロングソードを抜刀しようとした時、ベルンヴァルトが前に進み出た。横目で視線を交わすと、頷き返される。


 ……任せろって事か。

 ベルンヴァルトは〈疾風突き〉で、牛頭鬼を強打して地面に転がすと、飢餓の重棍を大上段に振り上げる。そして、右手の甲にセットされた集魂玉が光った。


「〈爆砕衝破〉!」


 飢餓の重棍が勢いよく振り下ろされ、地面が打ち砕かれる。そう、飢餓の重棍は牛頭鬼には当たっていない。しかし、次の瞬間、牛頭鬼が断末魔を上げて、周辺の地面が一斉に打ち砕かた。そう、集魂玉スキルの範囲攻撃なのだ。


【スキル】【名称:爆砕衝破】【アクティブ】

・集魂玉を1個消費して発動する。手持ちの武器を地面に叩きつけ、同じ衝撃を効果範囲全体に与える。この際、筋力値及び武器の攻撃力が高い程、衝撃波の威力も強くなる。巻き込み注意。



 効果範囲は打点を起点とした前方扇状範囲で、小角餓鬼の炭も砕かれていた。範囲内の全てを同時にぶん殴るスキルなのだ。牛頭鬼を転がしたのは、その為だな。立っていると頭と両肩ぐらいしか打撃されないが、倒れると身体全体を打撃する極悪なスキルとなる。ついでに、奥にあった小角餓鬼も打ち砕かれたようだ。



 近くにあった幽魂桜から亡霊餓鬼が生まれたので、〈ホーリーウェポン〉をベルンヴァルトに使って対処をお願いしておく。対亡霊スキルも体験しておいて欲しいからな。

 ただ、その一方で気になる事もあった。効果範囲内で炎にさらされていたはずなのに、桜の花が健在なのだ。餓鬼達の様子から、木ごと燃えていても可笑しくないのに?

 改めて鑑定文を読み直すと、怪しいところを発見した。

『範囲内にいる敵周辺にしか影響を及ぼさない』

 改めて周囲を見回すと、壁も天井も変化は無い。黒くなっているのは牛頭鬼と小角餓鬼が居た周囲のみなのだ。


 ……もしかして、派手な炎の殆どは、只のエフェクト(見栄えの為の画面効果)だった?

 よくよく思い返すと〈トルネード〉を使った部屋も、竜巻が吹き荒れたにも関わらず、地面や壁が抉れたりはしていなかったな。

 まぁ、ゲームのキャラも、味方の魔法が飛び交う中で戦っていたからな。キノコ雲が出来る程の爆発とか、隕石落としとか、惑星を貫くレーザーブレスだとか……うん、敵味方識別は必要だな。


 皆でドロップ品を拾い集め、幽魂桜も伐採して格納する。すると、フィオーレがやけにニコニコしていたので、理由を聞いてみると、


「アハハッ! ここまで大変だったけど、さっきの魔法で楽になりそうだなって」

「そうだな。後少し威力があれば、一掃出来た筈だ。魔法攻撃力を上げる〈魔攻の増印〉か、付与術で知力値を上げるか、フィオーレの〈魔道士のラプソディ〉で知力値を上げるか、ってところかな?」

「りょーかい。今日はもうギターが使えないけど、次からは任せてよ。

 それにしても、ザックスはあんなに色々考えて作戦立てたけど、全部使わなくなっちゃうよね? 残念じゃないの?」


 下から覗き込むような眼には、こちらを心配しているように見える。どうやら、色々と考察して考え事をしていたのを、気を遣ってくれたようだ。


「魔法使い系が戦力の要になるってのは、前々から知っていたからね。危険が減って楽に進めるなら、それに越した事はないよ。

 それに、色々試した戦術は他の敵にも転用出来るし……本とかで広めれば、34層から苦戦しているパーティーとか、引退する人が減るかもじゃないか」

「本?」


 現状、貴族の命令で騎士団以外に解放条件を広めるのは禁止されているが、年始に王族へのプレゼンを両伯爵がしてくれる予定なのだ。それが通れば、まとめた物を教科書として学園で売るとか、貴族へ販売が出来る……かも知れない。そんな、攻略本計画を語って聞かせてやると、フィオーレは笑い出した。


「アハハッ! なんだ~、やっぱりカボチャの本を売って正解じゃん! 名前が売れるよ!」

「いやいや、あんなプライバシーも無いような本とは別物だろ? 教科書や図鑑みたいな物だぞ?」


 本を作って売る=売名行為なのが常識らしい。俺的には失伝したような事柄や、便利な知識を(有料で)公開したいだけなのにな。ダンジョンを減らしたい世の中なので、強くなる人が増えるのは良い事の筈だ。

 ただ、フィオーレに説明したのだが、理解してもらうのに骨が折れるのだった。

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